10. 迷子 (姫条×主)  ☆リクエスト(姫条。連載の設定で)


迷子になる夢を見る
熱が出たりすると必ず
小さい頃、人がいっぱいのデパートで母親を見失ったことがあって
背の高いたくさんの、たくさんの知らない顔を見上げて
必死に走ったことがあったから
走っても走っても、知ってる人は誰もいなくて
音が次第にざわざわと消えていって、いつのまにかシン・・・とした中 一人ポツンと立っていた
不安でどうしようもなくなって、目がさめる
の、一番の悪夢

はっ、と
は突然 目を覚ました
静かな空間
白いカーテン
ここは、保健室
「・・・あちゃ・・・」
起き上がって、時計を見た
朝から熱があったのを テスト前だからと無理して来たのがいけなかったらしく
あんまり気分が悪いから 昼休みに保健室のベッドを借りた
そのまま眠ってしまったようで、今は5時間目の真っ最中
枕元に保険医のメモが置いてあるのを見つけて開いてみた
会議で少し席をはずすと書いてあって
熱が上がっているから無理せず寝ているようにと書かれている
「5時間目が終わったら氷室先生が車で自宅まで送ってくれるそうです」
最後にそう書かれてあったのに、は苦笑した
(また叱られちゃうなぁ・・・)
体調管理くらいしっかりしなさい、と言われるだろうと
思いつつ、ぽふん、とまたベッドに寝転がった
今、熱は何度くらいあるのだろう
このまま横になっていたら また眠りに落ちていくだろうけれど
そうしたら、またあの夢をみる
ひとりぼっちになる夢
恐くて、不安で、なき出しそうになる夢
(やだな・・・起きてようかな・・・)
思った時、窓をこんこんと叩く音がした
「姫条くん・・・?」
悪戯な顔が窓の向こうで笑っている
彼はそのまま、ガラリと窓をあけると 窓から保健室に侵入してきた
「ど・・どーしたの・・・?」
「サボリ」
にか、と
まどかは笑い、の寝ているベッドに腰掛けた
「なんやここ通ったらが見えたから」
どうしたんや、と
まどかはふいに、の額に手を触れた
「おぉ? だいぶ熱いな」
外は少し寒いのか、まどかの手は冷たくて気持ちよかった
「あかんやん、家帰った方がいいんちゃう?
 なんやったら送ってったろか?」
「うん・・・氷室先生が送ってくれるって・・・」
「ああ、そっか
 今うちのクラスの授業やわ」
いつものように明るく笑うと、まどかは優し気な笑みを浮かべた
「ほんじゃ、氷室が来るまで寝とき」
そうして、髪を撫でてくれる
それで無性に安心して、
いつもは恥ずかしいなんて思うのに、熱のせいか そういうことに気が回らなくて
は ふ、と目を閉じた
だがすぐに、不安に目をあける
そうして、怪訝そうにしたまどかに 曖昧に微笑した
「あの・・・姫条くん・・・すぐ帰っちゃう?」
「え?」
普段のなら、絶対こんなとこは言わないだろうけれど
今にも泣き出しそうな潤んだ目をして、はまどかを見上げていった
「嫌なゆめを見るの
 ・・・ちょっとだけ・・・ここにいて?」
震えるような声で言ったのに、まどかはドキとしてをみつめた
いつもと違う 熱のせいでぼんやりした潤んだ目と
熱のせいで火照った頬
けだる気なのも、そそったし
見上げてくる仕種にも、ドキ、とする
「嫌な夢ってどんなん?」
ドキドキを抑えて、まどかはの頬に手を触れた
ああ、このままぎゅうってしたい
弱っている女の子ってそそる
「え・・・、と・・・笑わない?」
「笑わへんよ」
「迷子になる夢・・・」
「迷子?」
うん、と
は頼り無気に笑った
「ひとりぼっちになって泣いちゃうの
 誰もいなくて、このまま一生一人なんじゃないかって思うの・・・」
いつも決まって、あの大きなデパート
子供には広すぎる未知の場所
背が低いから、遠くまで見えないし
周りの大人にうもれて、世界から忘れられてしまったようで
誰ひとり、いない
くらい場所で、気付いたら一人ぼっち
「なんや、そんなん、今度その夢みたらオレのこと呼び」
「え・・・?」
「そしたらオレが迎えに行ったるわ」
「・・・うん」
明るくて、優しいまどかの言葉に はクス、と笑ってうなずいた
大好きなまどかの言葉
自分にとって、今一番強く響くもの
「目覚めるまでここにいたる
 安心して、ねるんやで」
「うん」
額や髪にまどかの指が触れるのが、心地よかった
言われるままに目を閉じると、今度は不安はなかった
スウ、と
眠りに落ちていく
温かい、眠りに

まどかが開けた窓から、秋の涼しい風が入ってくる
さらさら、と
の前髪が風に揺れるのを見つめながら そっとまどかはへとかがみこんだ
好きでたまらない女の子
こんな風に、弱い部分をさらけだされたら、
無防備に眠っているのを目の前にしたら
欲求を押さえるのに苦労する
好きだから
誰よりも、今はしか見えないから
・・・好きやで」
気付いたばかりの本気の恋に、
今はまだ、言えない想いを そっとつぶやいてみた
その熱で熱い額に、キスをする
寝込みを襲って唇を奪うなんてフェアじゃない、と
そう思うけれど、触れたい欲求は止まらなかった
・・・」
今は、まだ触れるだけ
愛しさを込めて、額にキスを降らせて
眠りについたの寝顔を見つめた
想いがまた、優しくなる気がした
おやすみ、
悪夢なんか見ないよう 自分はいつでも側にいるから


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