06. 手袋 (マスター×主)  ☆リクエスト(マスターの話。お題87「煙」のつづき)


クリスマスまであと少し
ジングルベルと、それらしい飾り付け
いつもの駅も店も通りも、今はクリスマス気分満載で見ていて飽きない
そんな喧噪に似た雰囲気の中を、は車の中から眺めていた
今日は日曜日
ただ今義人とデート中


「あの、お店ほんとにいいんですか?」
「いいよ」
窓から外を見ていたは、ふと、オシャレなバーの前を通り過ぎた時 隣の義人を見遣った
「ごめんなさい」
が誘ってくれるなんて珍しいからねぇ
 オレは嬉しいけど?」
「でも今日、お休みの日じゃなかったんですよね」
「まぁね」
クス、と
運転しながら笑った義人に、は頬を染めてうつむいた
昨日、何を勘違いしたのか は義人に電話して言った
「義人さん、明日お店お休みですよねっ
 一緒に買い物に行ってくれませんか?」
よく考えれば休みのはずのない日曜日
店に貼ってあったごひいきの酒屋の定休日のチラシを見て勘違いしたのか
自分が休みだから勝手に、義人も休みだと思い込んだのか
からの電話に、義人は一瞬黙って、それからおかしそうに笑って言った
「OK、いいよ
 じゃあ明日、家まで迎えに行くよ」
それで、今こうして、二人は車で少し遠い店まで出かけてきている

(私ってドジかも・・・)
車を下りて、義人がキーをポケットに入れるのを見ながら はこっそりため息をついた
いつも義人が誘ってくれるデート
ドライブしようとか、映画を見ようとか、
新しい店ができたとか、たまには遊園地でも行く? とか
(一大決心だったのにな・・・)
いつもいつも、義人に誘ってもらって
いつもいつも甘えてる気がしたから、思いきって誘ってみたのに
ちょうど、クリスマスパーティで着るドレスを買いに行こうと思っていたから、だから
意をけっして誘ってみたのに
こんな勘違いで義人は、わざわざ店をお休みにして来てくれた
日曜なんて、いつもはお客さんがいっぱいなのに
、行くよ」
「あ・・・はいっ」
呼ばれて、は落ち込みかけていた思考を振り切った
優しく笑ってくれる義人に、大人だなぁなんて思いながら
こんな遠くまで連れてきてくれた義人に、何か言い様のない幸福みたいなのを感じながら
は きゅっ、と義人の腕に触れた
手をつなぐわけでなく、腕を組むでなく
こうして、義人の腕をきゅっ、と持っていると安心して
それでいつも、いつのまにかそうしているに、義人はそっと微笑した
そういうちょっと子供なところがまた たまらなく愛しいと感じる

最近できたオシャレなショッピングモール
側に海があって、海外から変わった雑貨なんかが入ってくる街
そこにズラっと並んだ店を見て歩きながら、はようやくパーティドレスの候補を決めた
「これか、これ」
どちらも、義人が「いいね」といったもの
鏡の前で悩みに悩んで
そんなに迷うなら両方買ったら? という義人を30分以上も待たせて
「やっぱり少しでも綺麗に見えるように 黒にします」
「はいはい、黒でも赤でも、はよく似合ってるよ」
ようやく決めたに、義人はおかしそうに笑った
「ちょっと露出が多くないですか?」
「そんなことないよ」
その言葉に、もう一度だけ鏡にその姿を映して、は照れたように笑った
「着替えてきます」
試着室へ戻って、義人がおすすめした黒のドレスを脱ぐ
義人は大人だから、こういうのが好きなんだ、と
改めて思って やたらと恥ずかしくなったりした
こんなのが普通に似合うようになりたい
義人につり合うような、綺麗な人になりたい
このドレスは、それに少しだけ近付かせてくれるかもしれない

が試着室から出てくると、店員が綺麗にラッピングした袋を手渡してくれた
「あの、お会計は・・・」
「もういただいてございます」
にこり、と微笑んだ店員の言葉に戸惑って義人を見ると、彼はやんわりと笑って言った
「オレからのクリスマスプレゼントってことで」
「えぇ?!!!」
歩き出した義人を追い掛けて店を出て、またさっきみたいに腕をきゅっ、と持った
「あのっ、でもこんなの買ってもらうなんて・・・っ」
「よく似合ってたよ
 クリスマスパーティが終わったら そのドレス着て店においで」
「あ、はい・・・あ、でも、あの・・・っ」
「男が女の子に服をプレゼントする理由を知ってる?
 お返しを期待してるよ」
クリスマスが楽しみだね、と
冗談っぽく笑った義人に はキョトンと相手を見上げた
(服を贈る理由?)
何なんだろう、聞いたことがないけれど
何か特別な理由があるんだろうか
男が女に服を贈るっていうことは
「期待してるよ」
楽し気に笑う義人と、頭の中に?の浮かんだ
二人、人々でにぎわった街を歩いていった

クリスマスまで、あと2週間

イブの夜は寒くて、外を歩いてきたは 凍えそうに冷えきっていた
もう見なれたドアをあけ、静かな音楽のかかった部屋へと入る
「いらっしゃい」
優しい声に、顔を上げて は照れたように笑った
約束通り、クリスマスパーティの後 義人の店へとやってきた
2週間前に義人に買ってもらったドレスを見せるために
「どう、その服の評判は」
「露出しすぎだと言われました」
「あはは、零一だろ
 あいつ本当は嬉しいくせにな」
いつもみたいに笑う義人に、は少し照れて それからパーティの間もずっと大事にもっていたバックから可愛い袋を取り出した
「あの、義人さん」
「ん?」
のために、温かいココアを煎れていた彼が こちらを振り向いた
「あの、これ、このドレスのお返しの・・・クリスマスプレゼントです」
差し出すと、彼はくす、と笑った
「ありがとう、中は何かな」
「あの・・・えっと、手袋です
 一生懸命作ったんですけど、あんまりうまくできなくて・・・」
長い指が、袋をあけるのを見ながら は珠美の言葉を思い出していた
あのデートの夜 珠美に電話をして聞いてみた
男が女に服を贈る理由って何?
お返しは、何をかえしたらいいのかな?
そうしたら、彼女は異様に慌てて上ずった声で、なんだかんだとはぐらかして
結局教えてはくれなかった
そのかわり、意味深に小さな声で言ったのだ
ちゃんの精一杯をあげたら、いいと思うよ・・・」
答えはわからないまま、
素敵なドレスのお礼だから、素敵なものをプレゼントしたいと思って
考えたら 手作りという結論に達した
そうか、精一杯
買ったのじゃなくて、がんばって心を込めて作ればいいということか、と
1人納得して、この2週間がんばった力作
それにしては、あまりいい出来じゃないのが恥ずかしいのだけれど

「これ手作り?
 、器用だね」
「あの、でも初めてだったから・・・ちょっと変になったんです」
「そう? オレこの色合い好きだよ、ありがとう」
「はい、あの、精一杯です」
「ん?」
「義人さんが素敵なプレゼントをくれたので、私も精一杯のお返しを・・・」
「・・・・・」
頬を染めて恥ずかしそうに言ったに、義人はくす、と笑みをこぼした
「ありがとう、受け取ったよ」
の精一杯、と
手をのばして、その冷えた髪に触れた
可愛い
大分年下の、まだ高校生の
(思ったより子供だなぁ)
冗談で言った言葉
「男が女の子に服を贈る理由を知ってる?」
それは、同時に服を全部脱がせたいって意味を持つ
一糸まとわぬ姿にして、その身体を抱きたい
そういう意味
は可愛いなぁ」
「え・・・?」
あの言葉は冗談だったけれど、まさかその意味の答に辿り着くことすらできないなんて
今どきちょっと珍しいんじゃないかと、思ってまた微笑した
そんなが可愛くて
そういう恋愛が今はたまらなく心地ちいい
「ただ今純愛中につき、今夜はこれで・・・」
そうしてひとつ、
キョトンとこちらを見上げたの唇に、そっと優しいキスを落とした
メリークリスマス
今はまだ、これで十分
頬をそめた恋人に、義人はそっと微笑した
まだキスだけの、メリークリスマス


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