05. 透明 (葉月×主人公)  ☆リクエスト(葉月。ホワイトクリスマスの幸せな話)


最近モデルの仕事をやめようかと本気で考えているのは、たくさんの女の子にキャーキャー言われるような自分ではなく、
たった一人、だけを見ている自分に戻りたかったから
クリスマスの夜も、を一人きりにして ここでこんな風に取材なんか受けている自分が嫌で仕方なかったから
こんなのを望んでいるのではなく、と二人きりの静かな時間
それを珪は、もうずっとずっと望んでいるから

「私、葉月くんの載ってる雑誌とか見るの好きだよ
 知らないもう一人の葉月くんを見てるようで新鮮だから」
いつか笑って言った
たぶん、誰もがの知っている素顔の方こそを知らない
笑ったり、困ったり、切なくなったりするのはがいるから
を想っているから
微笑や冷めた視線みたいな、カメラマンの求める表情はつくられたもので
だけが、素顔の珪を知っているから
珪は苦笑してみせた
「そっちの方が、好きなのか?」
すました顔
綺麗な顔が大好きです、って告白された時にはため息しか出なかった
だったら人形でも、映画の中の登場人物でも、雑誌の切り抜きでもいいじゃないか
も、そうなんだろうか
ああいう、すました顔でいる珪の方が好きなんだろうか
「おまえは・・・不格好な俺は嫌いか・・・?」
その問いの答えを、は優しい笑みでくれたっけ
それは透明な印象で 今も珪の中に残っている

いつのまにか時計は7時を指していた
7時に駅前の大きなツリーで待ち合わせ、とと約束していたのに
楽しみね、って
雪が降ればいいのに、って
は笑っていたけれど

「はいでは、葉月くんに質問です
 今、恋愛をしていますか?」
「・・・はい」
「え?!! いきなりすごい情報だなぁ
 相手は誰? モデルの子?」
「・・・教えない」
撮影が大分ズレ込んで、6時から始まるはずだった雑誌の特集インタビューが7時になった今ようやく始まった
バタバタと関係者が出入りする慌ただしいスタジオの隣の小さなスペースで、メモを取りながら質問する若い女性に 珪は淡々と答えていた
7時に待ち合わせたには、撮影が長引いているとメールを入れた
電話をしようとしたら繋がらなくて、
もう一度かけようとした時に、スタッフに呼ばれた
そのまま、に連絡ができていない
クリスマスの夜
一緒に過ごそうねって、言ってた特別な夜
キラキラライトアップしたツリーの前で が今も待ってるかもしれない
そう思うといてもたってもいられなかった
今すぐかけていきたい
こんな取材どうでもいい
以外のものなんて、どうでもいい
「好きな人がいるって教えてくれたのに相手は秘密なの?」
「好きな人がいないなんて言えないくらい好きだ
 ・・・相手が誰かなんて、他人には関係ない」
「でも葉月くんのファンの子ががっかりしちゃうぞ〜
 君すごく人気があるんだよ? わかってる?」
「・・・別に」
別に人気なんて欲しくない、と
つぶやいて、珪は窓の外を見た
外の街路樹がライトアップされていて、ここからとても綺麗に見える
と見たいと思いながら、
早く解放されたくて、次の質問を待った
「じゃあどんな子なのかな? 可愛い? 美人?」
「・・・透明な感じ」
「え?」
「あいつは・・・すごく透明
 触れようとしたらス・・・って消えそうで
 でも気付いたら側で笑っててくれる
 あいつを見てると、優しくて、切なくて、愛しい気持ちになる」
がこの3年間でくれたたくさんの言葉を、一つ一つ思い返すようにして珪は言った
再会に戸惑った自分
自分はこんなにもはっきりと覚えているけれど きっとはあの頃のことなんて忘れてしまっているだろうと
再び心に生まれた初恋を  奥底に封印した
自分はあの頃と変わってしまったから、の王子ではもうあり得ない
そう思って何も言わないでいた
臆病だった、見ているしかしなかった自分に がくれたあまりにもたくさんの言葉
珪を救った優しい声

「好きなんだ
 だからあいつだけいればいい」

ガタン、と
突然に立ち上がって、珪は苦笑した
ダメだ
想うだけで、心がこんなにも落ち着かない
切なさと甘さの混ざったような
心がしめつけられるような
「オレ・・・もう行く」
驚いてこちらを見上げている記者の女性と 片付けの手を止めたスタッフ達
皆の見守る中 珪は上着を掴んでドアに手をかけた
どうでもいいもの達の側で作った微笑を浮かべているより の側にいたい
今すぐに会いたい
今夜、少しの時間でも二人でいたいねって言ってた
「ちょっと・・・葉月くんっ」
「どこいくの?! 珪?」
ざわっ、と室内が騒がしくなったのを背中できいて
そのまま、珪はスタジオを出た
最初は我慢して取材を終わらせてからのところへ行くつもりだったけれど
あの記者の質問のせいで
思い出してしまった
の言葉、微笑み、仕種、声
寒いのが嫌いで、いつも学校で震えてるようなを こんな寒い夜にたった一人で待たせられない
今日はクリスマスイブで、世界はまるでキラキラしてるのに
だけ一人ぼっちなんて
自分はを放って、あんなところで仕事なんて
(・・・っ)
心がはやった
今すぐに会いたかった
人でごったがえす街並を走って、駅へと向かった
大好きな
今もまだ まっててくれているだろうか
約束の、ツリーの下で

抱きしめようとしたら逃げていく
手をのばしたらふわっとよける綿雪みたいで
なのに、切ない程に寂しい時 ふっと側にいてくれる
呼んでないのに、何も言ってないのに気付いてくれる
そうして黙ってただ微笑して、そこにいる
どれだけ救われたか
がいたから、自分はこんなにも変われたんだと思う
誰かをもう一度、こんなにこんなに好きになれるなんて

息を切らせて、待ち合わせの場所へ駆け付けた珪の目に 巨大な電灯に彩られたツリーが入ってきた
行き交う人々
その中にぽつん、と
灯りがともってみえる、そこがの居場所
珪にはがそんな風に見える
真っ暗な中でもきっとわかるほど、は淡く光ってる
キラキラと目に眩しいツリーの下で、寒そうに少しうつむいて立っている

・・・っ」

手を伸ばしたのと、呼んだのは同時
が驚いたように顔を上げたけれど、見えなかった
ぎゅっ、と抱きしめたら 頬に触れた髪がとてもとても冷たかった
ああ、もう1時間も待たせてしまったから
こんなにこんなに凍えて、それでもは待っていてくれた

「お疲れさま、葉月くん」
にこ、と
は、いつものように笑った
「長引いちゃったんだね、売れっ子は大変ね」
クリスマスもお仕事なんて、と
待ったことの不満をほんの少しも出さないに、珪は胸がぎゅっとなった
そうやって、笑ってくれる
それが珪の心を癒す
・・・ごめん、待たせて」
「いいよ、そんなの
 クリスマスに葉月くんに会えるだけで、充分」
多くを求めないの言葉に、ふわっと
心に温かいものが広がっていった
ああ、が大好きだ
これ以上はない
がいたら、それでいい

そ、と
寒さで真っ赤になった頬に触れて、そのまま唇にキスをした
誰が見ていようとかまわない
ここがどこだって平気
は今腕の中で、珪のキスに目を閉じて
お互いに、わずかな熱を伝えあって 想いをそれぞれに抱いている

名前を呼ばれて顔を上げ
珪を見上げたの目に、チラチラと空から降ってくる白い雪が映った
ホワイトクリスマス
今夜恋人達は手をとりあって、雪降る道を歩いていく
ただ一人、唯一の人の側で


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