噂 (葉月×主2)




がモデルをした雑誌が発売されると、珪の人気はドンと上がった
元々、別のモデルが表紙を飾るはずだったのに、発売されてみたら表紙には珪の写真
水鉄砲片手に無邪気に笑ってる なんとも新鮮な写真だった
「はずかしいな・・・これ・・・」
自分の笑顔など見慣れない珪はそう言ってロクに雑誌を見ようとせず、
あまりによく撮れている珪の笑顔に、は見とれて声もなかった
(あのカメラマンさん、天才・・・)
頬に水が散っていて、髪が揺れてキラキラしていて、緑の目がとても明るくて
そして年より幼く見える無邪気な笑顔
このサプライズに、元々の珪のファンはもちろん、
今まで気取った王子には興味がないと言っていた人達まで、一気に珪のファンになった
「次、映画出るらしいよ」
「私絶対みる、主役でしょー?」
「1組の、ほんとに付き合ってるの? この葉月くんと」
「だって本人そう言ってるし、昨日だって一緒に学校に来てたよ」
「羨ましいっ」
「けど、たしかに可愛いけど、葉月くん人気モデルなのに、彼女が一般人ってつりあわなくない?」
学校では噂の嵐
珪の彼女であるを羨ましがる子と、妬む子と
相応しくないと嫌う子と、取り入って自分も珪に近づこうとする子と
「煩くて仕方ない・・・」
「まぁ人気者の運命だよね〜
 あの写真はほんと良い写真だったもんね
 表紙飾るはずだったモデル、あの日遅刻でチーフの怒りかって、丁度表紙が空いてたみたい」
事務所でぼやいた珪に、プロデューサーは笑って言った
今日は打ち合わせで事務所に来ていて、珪はスケジュールなんかロクに聞いていなかったけど なんとなくがいるから帰りたくもなくて
ぼんやりと、雑誌をペラペラめくっている
「珪の人気もすごいけど、知ってる?
 ネットでちゃんのこと噂になってるの」
「え?」
「このモデルは誰ですかっていう問い合わせか何件かあったんだけどね
 当然雑誌社には伏せさせてるから お答えできませんって答えたら なんかミステリアスだって騒ぎ始めた子たちがいて
 それで、ネットで話題になってる
 プロダクション所属の 背格好の似た男の子捜したりしてるみたい」
「それって・・・バレたりしないでしょうか」
「まぁ、この手の噂はすぐ収まるから大丈夫でしょ
 顔隠れてるのに 可愛いって気付く人は気づくんだねぇ
 逆に1枚も顔が見えてないから不自然で気になるのかな?」
「そうかもしれませんね・・・」
が不安そうにつぶやいたのを聞きながら 珪はの載っているページを開いた
使われているのは、全部で9枚
服がメインの雑誌だから、立ったり座ったりして服がよく見える写真を使うと思っていたのに
意外と遊んでいる時のも使われていて、自然な雰囲気を出している
「・・・たしかに、気になるかもな・・・」
顔は見えないけれど、かもし出す雰囲気が服によって様々で見ていて気になる
ポーズも、大袈裟というほどにつけているのが ポップな印象を与えていて おまけに服の形をよく見せている
この子はだれ?と思う人がいるのも不思議ではないだろう
一緒に遊んでいる珪が、見たこともない笑顔を見せているとなると よけいに気になる
何者なのか、この男の子は
今までに見たことのないモデルだ
顔は全然写ってないし、問い合わせても教えてもらえない
「隠されたら余計気になるよな・・・」
「噂が落ち着くまでおとなしくしてます」
「ま、他に露出してないんだから、バレることはないと思うよ
 役者で舞台に出てたときも、ポスターとかにはなってないんだろ?」
「はい、大きい公演は全部脇役だったんで」
「なら大丈夫でしょ
 あんまり気にしないでいいよ」
「はい」
とプロデューサーはまた打ち合わせに戻り、
珪は一人ぼんやりと雑誌の写真を眺めていた

次の週、珪の事務所に一つのオファーが届いた
内容は、珪と、あの雑誌に出ていた男の子にCMに出て欲しいというものだった
「ちょっと待ってください、無理ですよ」
「だよな、俺もさすがに危険だと思う」
「何のCM?」
「新発売のポッキーだって」
「あ、おれポッキーのCMってセンスよくて可愛いから好きです」
事務所の一室でヒソヒソと作戦会議をしていたと珪、プロデューサーは オファーのFAXを前に途方に暮れた
「問題は、ココ、珪の大きいスポンサーなんだよな」
「断るとまずいんですか?」
「うーん・・・どうだろう・・・できれば断りたくないんだけど」
だって、ほら、と
プロデューサーが紙に書いてある文面の一部を指で指して読み上げた
「なお、葉月珪の相手役には先日発売された雑誌のモデルの少年を指定する
 他の誰にも代わりはきかない
 彼の雰囲気が、今回のCMのコンセプトにぴったりだと直感した」
うわぁ・・・、とがつぶやいて
どうしようね、とプロデューサーが苦笑した
珪は、またとやれると思うと嬉しくて
が表で求められていることを嬉しく思いつつ、複雑に感じた
しかし、それでシロの正体がバレてしまっては意味がない
CMは雑誌と違ってかなりたくさんの人の目に留まる
元々、舞台ののファンだった人が見れば わかってしまうだろう
そうでなくても、クラスの人とか、業界の人とか
謎に包まれているのことを、騒ぎ立てる人が増えるかもしれない
「なんとか葉月さんだけでCM作ることできないですか?
 それか、別のモデルさん使うとか」
「それができないって最初に書いてるもん」
「そこを何とか」
「それ、誰が説得するんだよー
 さすがに俺も、こんな大物相手にはなー」
溜息をついたプロデューサーに、珪がさらっと言ってのけた
「無理なら断ればいい・・・
 別にそれでスポンサーでなくなったって俺はかまわない・・・」
「お前はかまわなくても 事務所はかまうの
 これはもう、社長判断だな
 あまりにデカすぎる
 知ってるか? この仕事のギャラたっかいんだぞー」
「興味ない・・・」
珪とプロデューサーのやりとりに、は困って俯いた
一番困るのは、この謎のモデルが女の子であるとバレることだ
は珪の行くところ どこでも同行しているから、いつかはこのモデルが珪のマネージャーであるとバレる日が来るだろう
撮影の関係者か、撮影を見にきていたギャラリーか
それとももっと別のところからか
そうなったら、その四六時中一緒にいるマネージャーが女の子だと知られるのが一番困る
これだけの人気を得てしまった今、事務所はの存在も良く思ってないのだし
「もし、断れなくて出ることになったら」
「はい」
「シロには本当に悪いんだけど、絶対バレないように頑張ってくれる?」
「・・・頑張りますけど、出れば出るほど バレる確率上がりますよ」
「それはわかってるけどさ、大人の事情ってのもあるんだよ」
「はい・・・理解します」
「うんじゃあ、俺、社長に聞いてくるわ」
「じゃあ、待ってます」
プロデューサーが部屋を出ていくと、は盛大に溜息をついた
本当に、このCMにが出るのは辞めておいたほうがいいと思う
あまりに大手のCMで、流れてる数がハンパじゃない
それこそ色んな人が目にするということは、それだけとそのモデル
珪のマネージャーとそのモデルを繋げることができる人が増えるということだ
「困ったな・・・あの雑誌の撮影、断ればよかった」
「俺は楽しかったけど・・・」
「おれだって楽しかったですけど、こんなことになったら・・・」
「なるようになる・・・と思う
 別にバレたって俺は困らない」
「葉月さんが一番影響受けますよっ
 だから皆困ってるのに」
人気だって下がるかもしれないし、いわれのないバッシングを受けるかもしれない
珪の名に傷がつくのは嫌だ
真実ならまだしも、あることないこと書かれて騒がれるのは耐えられない
「俺は気にしないからいい
 ただ、そうなってお前が悪く言われるのは・・・嫌だ・・・」
「おれのことは別にいいんですっ」
「俺はお前のことの方が気になる・・・っ」
「何でおれなんか気にするんですかっ」
「お前が大事だからに決まってるだろ・・・っ」
わけのわからないままに、言い合っていた二人は 珪の言葉にはたと黙り込んだ
「そ・・・んなに言ってもらえるほど たいした仕事してないですから」
「そんなことない・・・
 おまえは自分が見えてないだけだ・・・」
顔を赤くして視線を逸らしたと、
それでもの目を見つめたままの珪
二人しかいない部屋は、やがてシンとして、二人とも口を閉じた
ドクドク言っている心臓の音が、互いに聞えないだろうかと心配しながら
相手の言葉に、想いに 何か胸を締め付けるものを感じながら

結局、社長が下した判断はこうだった
「この仕事を受けなさい
 しかし、シロの正体がバレないよう最善の努力をすること」
心のどこかで、こうなる気がしていた珪と
あー、と情けない声を上げた
二人を前に、プロデューサーは言った
「撮影はドラマ収録の前にねじ込まれた
 ドラマの協賛もこの会社だから、ドラマ放送の時のCMから使うらしい」
相乗効果で珪の人気は上がるだろうけれど、おかげでにとってはかなりリスキーだ
珪が出るからといって、秋から始まるそのドラマはかなりの注目を浴びているから
「ともかく、シロにかかってる
 正体がバレないように、なんとか頑張ってくれ」
「はい、わかりました・・・」
もう覚悟を決めるしかなく、はそう返事をした
珪の視線を感じたけれど、そっちの方は見れなかった
珪が自分よりもが大切だと言ってくれた言葉に、心臓が煩いくらいに鳴っている
だって同じ気持ちだ
にとって、珪は大好きな人だから
大切な人だから
珪にとってのが、そういう存在でないとしても
そういう存在であるはずないとしても
それでも、自分よりが大切だと言ってくれた言葉は 嬉しかった
そして、だからこそ
決して正体がバレないように、一つのスキもないように演じきらなければならないと思った

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