隣 (葉月×主2)




新学期が始まった
2年のクラスは、またしても氷室学級
と、と同じクラス
珪の席は窓際の後ろから2番目で、その後ろが
は、真ん中あたりの列の 後ろから3番目
珪からは、の後姿がよく見える
(また同じクラス・・・)
それだけで、珪は嬉しかった
のことは気が重かったけれど、忙しさが多少緩和してくれていたし
も珪に嫌われたくないからか、それほどしつこくはしてこなかった
ただ、女の子同士だけのときに 二人はずっとつきあっていてラブラブだとか
ホワイトデーには特別なプレゼントをもらったとか
昨日は電話をしたとか、今日は一緒に帰るとか
そんなことを言いふらして、二人の仲をこれでもかという程宣伝しているらしい

「今日の撮影、何時から?」
授業中、珪がメールをすると しばらくしてが制服のポケットから携帯をそっと取り出すのが見えた
今まで、授業中にメールなんてあまりしなかったけど
何か急に、してみたくなった
ここからだと、が膝の上で先生に見えないようメールを打っているのがよくわかる
「19時から、Gスタジオ」
返信が返ってきた
シロのメールは要件を明確に書いてくる
飾りっけはあまりない
それが男の子っぽく感じるから、こういうところも役作りの一貫なんだろうと感心する
「何の撮影?」
別に何の撮影か知りたかったわけではないけど、にメールしたくてそう聞いた
また、がコソ、と携帯を膝の上あたりでいじってるのが見えて 可笑しくなってしまう
今は氷室の授業中
まさか優等生のが授業中に携帯でメールしてるなんて、黒板の前の教師は思ってもいないんだろうと思う
「レギュラー雑誌の夏服特集」
「何着?」
「10〜15着だと思います」
珪がメールを送ると、何秒か後にはの膝の上の携帯が着信を告げる
先生の様子を伺いながら、が返信を打って送信
そうしたら何秒か後には珪の携帯が着信を告げる
何か、繋がっているようで
それが嬉しくて、珪は帰ってきた返信に一人でクスと笑った
「授業聞かせてください
 おれは葉月さんと違って頭良くないんですから」
最後のメールは怒った顔のマーク付き
こんな授業聞いてないくらいでわからなくなるなら、俺が教えてやると思いつつ
珪は満たされたような気持ちで携帯を閉じた
せっせと黒板を写しているの背中を見遣る
少し伸びた髪を最近また切ったから、それに少しだけ心が痛んだ
そして、そうまでしてマネージャーでいてくれるを、たまらなく好きだと思った

その日の撮影は、いつもの雑誌の服のモデル
さして表情とか、演技とかそういうものは求められない
主役は服
だから、慣れて最近つまらない
(つまらないっていうのも・・・変だけど・・・)
以前は、モデルという仕事に対して何も感じていなかった
求められるからやっているだけ
だから、楽しいとか、楽しくないとか、そういうのはあまりなかった
今は、多分違う
が色んな仕事を入れて、色んなことを経験させられたから
自分の外見だけでなく、内面を見せるような
演じて何かを作り上げるような、
そんな高度なものまでさせられたから、ただ服を着て立っているだけの仕事は つまらないなと感じてしまう
それを事務所は、無気力の珪にやる気と自主性が出てきたと言って歓んでいたっけ
そしてまた、難易度の高い仕事を入れようと画策している
「おーい、次のモデルはどうした」
「すみません、連絡がつかなくて」
「はぁ?」
「家は出たって言うんですが、まだスタジオ入りはしてないんですよ」
「なめてんのか、遅刻するモデルなんか今後使うなっ」
珪のシャツの襟を直していたは、急に響き渡った大声に驚いて顔を上げ
珪も 何事かと怒鳴っている男を見た
この雑誌の撮影のときにはいつもいる、チーフだ
全体を仕切っている彼は、声がでかくて気が短くて、すぐ怒る怖い人と有名らしい
カメラマンは気弱そうで、すでにその怒鳴り声にびびっている
「あーらら、最近モデルの遅刻多いなぁ
 あの人 時間にうるさいから」
「撮影は・・・?」
「延期かな?」
久しぶりに同行していた珪の事務所のプロデューサーの軽い言葉に、はやれやれと溜息をついた
珪は忙しいから、延期になると困るのに
週末は映画の撮影の続き
インタビューや雑誌は、平日の放課後に
言ってる間に、ドラマの撮影が始まるから、珪に台詞と演技を覚えさせなければならない
時間はいくらあっても足りない状態だ
「誰か空いてる奴使えっ
 いるだろっ、そのへんのモデル連れてこいっ」
「はい・・・っ」
スタッフがバタバタと走っていった
いつもなら、モデル仲間が撮影を見にきていたりして、代役なんていくらでもいそうなものなのに 今日は運悪く誰もいない
スタジオが狭いから、見学を断ったのか
このチーフが怖いと知って、誰も見にきていないのか
「ジャケット脱いで休んでてください」
「ああ・・・」
は、珪の衣装がシワにならないよう預かってハンガーにかけた
「チャラチャラしたのが多くて困るよね
 代わりがみつからないようなら、今日は上がらせてもらおうか」
「でも、延期となったら、次空いてるのは・・・」
「あー、そうか、もう日がないか」
「写真、金曜までに出さないといけないんですよ」
「え?
 金曜までって明後日?さすがにそんな直近は空いてないよ?」
「そうですよね・・・」
とプロデューサーの会話に、カメラマンも加わって 三人して頭を悩ませていたところに、また怒声が降りかかった
「もういいっ、そこの君っ」
「は?」
彼の指は、スケジュール帳片手に唸っているを指さしている
「君、代わりにやってくれ」
「おれですか?!」
またしても、代役か
しかし今度は受けるわけにはいかない
ここは明るいスタジオで、服がメインとはいえ、顔はしっかり映る
雑誌に載っているモデルが、いつも珪の側にいるマネージャーだとわかることも
珪と同じクラスの女の子だとわかることも、避けたい
どこでその3人が繋がるかわからないし、見る人が見れば、ばれてしまうものだと思うから
「やー、この子はちょっと無理ですよ
 親に内緒でやってるもんで、表に顔出すわけにいかなくて」
「すいません・・・っ」
プロデューサーが軽く断ってくれたのに、も合わせて頭を下げた
伺うと、珪は複雑そうな顔をしている
「だったらどうするんだっ
 延期ったって、日がないんだろ?
 かといってモデルがいなきゃ服が載せられない
 葉月珪と絡む服だから、外すこともできないんだぞ」
そんなこと言われても、と思いつつ
は困って相手を見た
彼も、ガシガシと頭をかいて、時計を見ては悪態をついている
他のモデルを探しに行ったスタッフはまだ、帰ってこない
「幸いどの衣装にも帽子が付いてます
 それで顔を隠しめで写すっていうのはどうでしょう?」
沈黙の中、カメラマンが提案した
ラックにつってある衣装は全部で6着
どれもスポーティな男の子の服
対象は中学生か、高校生か
「輪郭とかでわかっちゃわないかなぁ・・・」
「口元くらいは写りますけど、それだけじゃわからないと思いますよ?」
「時間ないんだ、それで頼むよ」
「うーん・・・どうする?シロ」
「どうするって・・・言われても・・・」
他のモデルは本当にいないのだろうかと、はドアの方を見遣ったけれど 誰かが入ってくる気配は全くなかった
仕方なく、しょうがないかと腹をくくる
「わかりました・・・やります」
「おお、本当か、ありがとうっ」
「顔は写さないよう気をつけるから」
「そうと決まれば、早く着替えてくれ」
「はい」
は答えると 衣装のかかったラックごとひっぱって別室へとひっこんだ
そして5分後 最初の衣装を着て出てきた

夏ものの服は明るい色が多くて、写真もポップなものを求められていた
小道具のカラーボール、水鉄砲、フルーツに風船、カラフルな色のイス
「まず立って、その後座って、最後は自由に」
「はい」
は帽子を目深にかぶり、珪の隣に立つ
こんな風に、自分が珪の側で被写体になる日が来るなんて思ってもみなかった
雑誌に載っている珪の写真を見ながらずっと夢みていた
素敵な王子と、その隣に立つ姫
今は、残念ながら姫とはほど遠い男の子の格好で、周りも皆、を男だと思いこんでいるけれど
(でも・・・嬉しい・・・)
片足で立ってみたり、後ろを向いたり、背中をくっつけたり、手を繋いだり
「次、座って」
は少ない指示でよく動いたし、
それにつられて珪も、いつもより活発に動いた気がした
「はーい、じゃあ最後は自由に遊んで」
あっという間に何着も着替えて
あっという間に時間が過ぎた
最後は、好きにと言われてが最初に手にしたのは小道具の水鉄砲
衣装を濡らしてもいいと言われたら、これしかない
ビッと、珪に向って攻撃
そうしたら、珪も負けずと反撃
気付けば撮影を忘れて二人して子供みたいに遊んでいて
その間カシャカシャとシャッターを切っていたカメラマンが、やがてOKと言って笑った
「動いてても写真撮れるんだな・・・」
「腕のいい方ならこの程度余裕ですよ」
も珪も、顔から服から濡らしていて、
珪は手加減したのか、どちらかというと珪の方がずぶ濡れだった
「すいません、おれつい本気になって」
「いい・・・おまえ相手に本気だしたら悪いと思って手加減したから・・・」
「なんですかそれっ
 手加減しないでいいですよっ」
「俺の優しさ・・・」
クスクスと珪が笑うから、むきになったも可笑しくなって笑って
撮影は途中波乱があったものの、なんとか無事終った
「ありがとう、シロくん
 おかげでいいのが撮れたし、顔がはっきりわかるのは絶対に使わないから」
「はい、お願いします」
挨拶をして着替えると はいつものように珪の世話を妬きながら車に戻った
帰り道、珪は上機嫌だったし も楽しかった
まるで二人 とても仲のいい者同士みたいに遊んで笑えたのが、とてもとても嬉しかった

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