覚悟 (葉月×主2)


沖縄へ行く日の朝、の家に迎えに行くと、はまるで男の子みたいな格好で出てきた
白と黒のスタジャン、ジーパンにスニーカー
そして何より一番驚いたのは、肩についていた髪を短く切っていたこと
「・・・
それ以上言葉がない珪の前で、はペコリと頭を下げた
「おはようございます」
挨拶の声がいつもより低い気がする
話し方も、なんというか、教室での優しげで可愛いものとは少し違う
「・・・・うわ、本当に男の子に見えるなー
 さすが役者はすごいな」
「お世話になります、宜しくお願いします」
頭を下げるを、珪は呆然と見ていた
まさか髪を切るなんて思わなかった
ズキ、と心の何かが痛む
自分のマネージャーになってくれればモデルを辞めない、なんて単なる思い付きだったのに
まさかがやると言うなんて思いもしなかった
そして、自分はこの1週間 妙に浮かれていた
けれど、
(・・・良かったのか・・・安易に巻き込んで・・・)
この世界に進んで入ったならまだしも
珪に言われて、仕方なくマネージャーになったが嫌な思いをたくさんするのではないか、と
珪は急に不安になった
実際、この世界のひがみや嫉妬、中傷はひどい
珪は気にしないタイプだからいいけれど、は傷つくかもしれないと思った
あの日、がホテルから去った後 プロデューサーが言っていた
に男のフリをさせることで、自身も守れるのだからと
(俺ってバカだ・・・)
何を浮かれていたんだと思う
自分のことばかりで、
が傍にいてくれるなんて、と
そんなことしか考えておらず、気楽に今日を待ち望んでいたけれど
「精一杯やります」
「期待してるよー」
言ったに、つきそいのプロデューサーが笑った
どくん、どくん、と
心臓が煩いくらいに鳴っている

今回の行程は、を拾って車で空港に向かって、そこから飛行機で沖縄へ
今日はホテルに入って終わり
撮影は明日の昼から夕方まで、夜は出版社の人と打ち上げ
次の日の朝1時間だけ握手会、その後 午後イチの便で帰ってくるというスケジュールだった
今は飛行機待ち
空港に入る手前で、待ち合わせを兼ねたお茶タイム
「マネージャーと言っても まぁ慣れるまでは大抵のことはオレがやるからさ
 君は珪の機嫌だけ取っててくれればいいから」
珪を置いて、プロデューサーとは向こうのテーブルで打ち合わせをしている
はメモを取ったり、携帯に番号を登録したりと忙しそうだ
ここで合流するカメラマンはまだ姿を現さず、飛行機の時間までまだ2時間もある
(・・・せっかくといるのに)
つまらない、というのが珪の今の感想だった
ここに着くまでの車内でも、はずっとプロデューサーと仕事の話をしていたし、
今だって、珪に背を向けて一生懸命だ
多分、珪なんて眼中にない
(・・・何のための・・・だよ)
いつもは、一人でいたいと思うくせに、が相手だと違うんだから不思議だと思いながら 珪はさっきからプロデューサーの口から飛び出す失礼な言葉の数々に苦笑した
珪はどこでもすぐに寝るクセがあるから、遠慮せずに叩き起こしていい、とか
だけど顔は商品だから叩くな、とか
何言ってるかわからない時は適当に返事してくれていいから、とか
猫が好きみたいだからすぐにフラフラ寄っていく、野良猫を触ったらすぐに手を洗わせろとか
(子供か・・・)
思いつつ、を伺うと たまにクスクスと笑っている
そして、しまったというような顔をして また少年の雰囲気を戻す
まるで、ここは舞台で、今は珪のマネージャーの男の子という役を演じているようだと思った
メモを取るしぐさ、携帯の弄り方、座り方、かもし出す雰囲気
どれも、教室での優しげなのものとは違うものだった
知らない人が見たら、可愛らしい男の子だと思うだろう
話し方はハキハキとしっかりした風で、声もよく通った
油断するとたまに女の子の顔に戻るけれど、それが見ている珪には愛しくてたまらない

(すごいな・・・)

の演技にかける熱はヘレンケラーで知っているはずだった
男のフリをしろと言われたとき、が「はい」と答えたのに 一体どうするつもりかと思っていたけれど
(・・・すごいな、・・・)
誰も、ここまでしてくるとは思ってなかった
そして、こんな風にとプロデューサーが仕事の打ち合わせをするところなんて想像もしていなかった
珪は、今、自分の考えの甘さをジワジワと味わっている

溜息をつきつつ、珪は一人でそこらの店を見ていた
可愛い商品がたくさん並んでいる
その一つを手に取った
赤とベージュのキャップ
に似合いそうだと思ったら、背後から声がかかった
「葉月さん、カメラマンさんが着きましたからそろそろ出ます」
の声、いつもより少し少年っぽい
を知らなければ、珪も少年と思ったかもしれない
(いやでも・・・、顔をじっとみたらやっぱり女の子・・・)
背の高い珪を見上げるようにして立っている
逃げないで、話しかけてきた
マネージャーなんだから当たり前なんだけど
(・・・俺って・・・ダメな奴)
やはり、嬉しさがこみ上げてくる
それを悟られないようにして、手にしていたキャップをにかぶせた
「え・・・っ?」
「顔見たら、やっぱり女の子に見える・・・」
意地悪のつもりじゃなかったけど、その言葉にはどう答えていいのかわからないような感じで立っていて
珪は、どうしようもなく昂ぶっていく気持ちを落ち着けようと、レジへと向かった
「あの・・・これ・・・」
「おまえにやる
 それかぶってたら、男に見える・・・」
それで、は無言でキャップのツバをぐい、と引いた
まぶかにかぶったキャップの影で、顔があまり見えなくなる
どこから見ても少年そのもの
「行こうか・・・」
「はい」
気を取り直したようなの声、強いなと思った
自分のこんな気紛れに、こんなにマジメに対応してくれて
マネージャーなんて仕事をやろうとしてくれている
なのに自分は浮かれて、嬉しくて、
大変なことなんて一切なくて、いつも通り
だったらせめて、
せめて、がこのせいで、嫌な思いをしないように出来る限りのことをしようと思った
この世界に引きずり込んだのは自分だから、だから
ここでを守ろうと思った


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