エルの想い (葉月×主2)


「エル、ヘレンにとって初恋は、知らなかった情熱です」
「ヘレン、だからこそあなたは、その身の全てを捧げたのでしょう」
「エル、ヘレンは初恋が忘れられません」
「ヘレン、忘れなくていいのです、それは想いの証なのですから」
「エル、エルにとって初恋はどんなものなのですか」
「ヘレン、エルにとって初恋は」

机の上にはメモが散乱している
他のメンバーが見て、まるでエルとヘレンが恋に落ちているようだとひやかしたやりとり
初恋について、は何度も「エル」にメッセージをくれた
そのたびに、珪は「エル」の言葉を返したけれど どうしても答えられない問いがあった

「エルにとって初恋は、どんなものですか?」

エルの初恋など、この物語には関係ないのに、は何度もそう問いかけてきた
何が知りたいのだろう
何を想っているのだろう
初恋は特別だ
初恋は甘い
初恋は全てを捧げてもいいと思えるようなものだ
初恋は証
初恋は、こうして今も珪の心を灼くようだ

、もうこの話はやめよう・・・」
つぶやいて、珪は書きかけたメモをごみ箱に捨てた
何度も答えようとした
でも、苦しくなって、できなかった
何といえばいいのか、この痛みを
何と書けばいいのか、この愛しさを
まるでさようならと言ったみたいな言葉を、珪は放課後の人のいない廊下でに告げた
さようなら、この痛み
さようなら、この想い
さようなら、この切なさ
さようなら、この心
さようなら、俺の姫
さようなら、
あの時のは、言葉もなくただ立っているだけだった
届かないんだなと切なくなった
(なのにズルズルとここにいる俺、優柔不断・・・)
苦笑しかできない
もう、止めようと思う
どうにもならないことを、いつまでも想ってるのは自分らしくなかった
苦しいのや痛いのは、嫌だった
今までずっと、そういうのを避けてきた
それほどに執着しなかった
その方が楽だったから
その方が平穏だったから
(だから距離を置いたのに)
なのにここでは、この近さ
「エル」宛てに届くメモ
痛みを呼び起こす初恋への問いかけ
「初恋を忘れたいんだ・・・
苦しいから
辛いから
無駄だから
繋がってないから
「終らせたいんだ・・・」
いっそ誰かのものになってくれればいいのに、と
思って それから自分もなんか見えなくなるように、別の誰かを傍に置こうと考えた
だから適当に選んだ女の子
芝居みたいに、その子のことを好きなんだと思い込んで告白して、恋人を演じればいつか、
いつか、本当にその子を好きになるかもしれない
そしたら、こんなに辛くはなくなる
を想って、窒息しそうになったりはしなくなるだろう

「ヘレン、エルなら初恋を捨てるでしょう」

最後のメモ
これで、このやりとりも終わりにしようと思った
ヘレンは心を狂わせた初恋に破れる
この芝居においてとても、大切なシーンだ
だから、はこんなにも初恋に執着するのだろう
何度もメモで問いかけるのだろう
初恋って何?
初恋ってどんなもの?
ヘレンの初恋は?エルの初恋は?
みんなこんなにも心を痛めて泣いているの?
(俺じゃなくて・・・ピーターに聞けばいい・・・)
そのシーンを、はどんな風に演じるのだろうと考えながら 珪は溜息をついた
ピーターは恋の相手だから、聞けないのだろうか
だったら、サリバン先生とか、父親とか母親とか、他の人に聞けばいいのに
(・・・そうか、「エル」がヘレンを好きだったから・・・聞くのか・・・)
台本には、初恋に破れたヘレンは、悲嘆にくれて泣くと書いてある
自分なら、泣く前に想いを捨てるだろうと思った
そして、その通りにした
エルならどうするだろう
やはり恋を捨てるのか
持ち続け、秘め続け、愛し続けて生きるだろうか
(そんな痛いのはごめんだ・・・)
苦笑した、泣きたくなった
たかが恋でここまでになる自分に、驚きを通り越して呆れる
だけど、さよならと言った自分より、愛し続けるであろう「エル」の方が数倍強い男だと思った
「エル」に対して、まるで憧憬みたいな感情が生まれる

「エルはそれでも、初恋を秘め続けて愛するでしょう」

メモを書き直した
心が熱くなった気がする
多分、自分は恋に臆病なんだと思う
傷つくのが、怖くて忘れることを選んだのだ
痛いのが嫌で、もうやめようと決めたのだ
(だってもう充分、傷ついた・・・)
これ以上はいらないと、保身したのか
もう充分だと、泣いているのか
判らなかった
珪には何もわからない
ただ、捨てた今も
さよならと言った今も、を想って胸が苦しい


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