公園で (葉月×主2)


俺の夏休みの一日といえば、朝起きて1時間くらいはボーとして、
それからラジオをつけてまた30分くらいボーとする
その後、ようやく顔を洗って着替えて水を飲んで部屋に戻り、雑誌片手に家を出る
外は暑いから、5分も歩いているとうんざりするけど、この季節はわりと嫌いじゃなかった
何もかもがキラキラしてる、強すぎる太陽の光も、緑に茂って天に届きそうな草木も
(沖縄行きたいかも・・・)
唐突に、そんなことを考えながらいつもの公園まで歩いて、いつものベンチに座った
ここは、早朝は犬の散歩やらでたくさんの人がいるけれど、昼間はほとんど誰もいない
子供はもっと遠くの、滑り台やシーソーのある公園へ行くし
中高生はせっかくの夏休みに、こんなところでぼんやりなんてしていない
(セミ煩いな・・・)
このベンチは木陰で暑さから避難できる特等席だ
だけど、セミが煩い
暫くは、雑誌を開く気にもなれなくて、ただ座ってぼんやりと目の前の景色を眺めていた
(沖縄の撮影があれば行くのにな)
急に沖縄に行きたくなったのは、昨日沖縄の特集をしたテレビを見たからだろうか
赤いハイビスカスの花が強烈に印象に残っていた
海で泳ぐとか、そういうのもいいけど
なんとなく、あの赤いハイビスカスを髪に飾ったを見てみたいと思って
それから俺は、沖縄に行きたくて仕方がない
(姫の冠、花でできた)
思い出す景色がある
幼い頃のかくれんぼ
ツツジの茂みに隠れていたを見つけたとき、そこに咲き狂っていたピンクや白の花がまるで姫の冠のように見えてときめいたのだ
再会したの髪にハイビスカスの花
想像して、憧れに似たものと、痛みに似たものの両方を感じた
(早く冷めればいいのに)
この恋心も、への夢想に似たものも
が、幻滅するような女だったらよかったのに)
あんな、記憶の中の姫がそのまま育ったようなのではなく
もっとダメな、もっとヒドイ、もっと・・・なんというか
(ダメでヒドイ女ってどんなだ)
自問しながら苦笑した
は理想的だ
最初の教室での自己紹介、あの笑顔
みんなに優しいところ、成績もそこそこいいし、運動だってできないわけじゃない
この間の授業で測った100メートル走が女子の真ん中あたりの成績だったのも、なんとなく できすぎてなくて好感度が上がる
(結局、惚れてるから何でもよく見えるんだ)
持て余しているこの気持ち
は、こちらを見ない
無視すらする
喋らないし、避ける
最近は、自分が悪いんだけど、こちらを怖がっている
その様子に心が沈む、と同時になんかもうを虐めたくなる
もしかしたら、自分はいじめっ子気質だったのかもしれない

(見込みないんだから早く諦めたいんだけどな)

パラ、と手元の雑誌をめくった
口紅のCM、ファンデーションのCM
それからドラマの特集、メインは男物の服とアクセサリー
(思いっきり嫌われたら・・・ふっきれる・・・?)
今度、この雑誌のモデルになるからとマネージャーに渡された
勉強しておけって言われたけど、何を勉強したらいいのだろう
(・・・もう嫌われてるか・・・)
気持ちが落ち込んでいく
いっそ嫌われたらふっきれる、なんて恋ではないみたいだ
こんな、初恋の、続きの、単なる、なんというか、そんなものなのに

(厄介、俺ってこんな奴だったんだ・・・)

溜息をついて、立ち上がった
雑誌を傍のゴミバコに放り込む
に会いたいと思った
会って、ぎゅって抱きしめたいと思った
叶うなら沖縄に攫っていきたい
そして赤い花を髪に飾って、キスして、まだ抱きしめて、それから

(俺って妄想癖があるのか・・・?)

叶うわけないけど、と遠くの時計を見遣った
暇だから、そのへんを用もないのにフラフラしようか
それとも家へ戻って寝てしまおうか

「・・・?」

最初、妄想の続きかと思った
時計のモニュメントの下に女の子が二人いる
一人が携帯をかけていて、もう一人は時計を見ていた
そこから、こちらは遠くて見えないのか
だから気付いていない?
自分は、なんかもう、こういうのは雰囲気でわかってしまう
だ・・・)
目が覚めるようなブルーのスカートに白のキャミソール
バックはパールの持ち手のカゴみたいなやつ
女の子って、大変そうだ
オシャレとか、そういうの
自分は興味がないから、男でよかったとたまに思う

を前にすると、なんか俺はいつも変だ
心は熱いくせに、頭は冷めてる
ちゃんと色々見てるし、覚えてる
だから、が俺に気付いたとき どういう顔をするのかも、いつもちゃんと見てるんだ

「・・・葉月くん・・・っ」

驚いた顔、1秒後に戸惑ったみたいな、怯えたみたいな顔
いつもは、それからすぐに逃げ出す
反射神経がいいんだと思う
昔から、逃げるのと隠れるのは上手かったし

っ」

今日は、逃げようとして だけど携帯をかけてる友達を気にしてどうしようか迷ったみたいだった
そういう風に迷ってる間に捕まえてやる
俺は手加減なんかしない
今、おまえに会いたいと思ってたんだ
そんな妄想は叶わないと決め付けていたけれど

(神様ってもしかして俺の味方・・・?)

ほくそえんだ、手を伸ばしての腕を掴む
驚いたみたいな、友達の声
の声にならない悲鳴みたいなの
俺は無言でを抱きしめて それから心の中での名前を100回呼んだ

このまま時間が逆まわりして、あの頃に戻れたらいいのに

「何してんのよっ、あんたっ」
夏だからか、を抱いてるからか、身体が熱いなと思った頃 怒鳴り声みたいなのが聞えた
の友達、俺の知らない奴
多分はば高の奴なんだろうけど
から離れなさいっ」
「・・・は、づきくん・・・っ」
苦しそうなの声
俺、力を入れすぎたかもしれない
俺が空を飛べたら、このまま連れて逃げるのに
瞬間移動ができたら、一気に沖縄まで逃げるのに

「離れなさいよっ、変態っ」
「離し・・て、葉月くん」

なんか、から聞くのは拒否の言葉ばっかりだと思う
それでも、無視されてるよりはマシだけど
(声が聞ける分・・・ちょっとだけマシ)

俺が傷つかないとでも思ってるのか
こんな風に嫌がられて、避けられて、離してとか言われて
(だから仕返ししてやるんだ・・・)
ほんとうは、それは、口実にすぎないと思い知ってるんだけど
なんかもう、のことばかり考えてしまうし
こんな風に思いがけず会えたら、昂ぶってしまって止められないからなんだけど

「葉月くん・・・っ」

ぐい、と
がようやく俺の腕から抜け出したとき、は真っ赤になってた
髪飾り、可愛いのしてる
学校ではあんまりこんなのしてないから、新鮮だった
もっと、のことが知りたい
もっと、今のの傍にいたい
「キスしていいか・・・?」
聞いたら、いやいやと首を振っては友達の後ろへ逃げてしまった
(本当はしたいけど)
「嘘だ、・・・・本気にするなよ、ばか」
「あんた何言ってんのよっ、先生にチクるわよっ」
「お前は黙ってろよ」
「変態っ」
「・・・・・」

部外者に変態呼ばわり、2回も
誰のせいだよ、
おまえがそんな風に距離を置くから、逃げるから
(そしてまた嫌われたかな・・・)
なんかもう、何がしたいのかよくわからなくなっていく俺
ただ、この想いは冷めるどころがどんどん深みにハマる気がする

は友達にぐいぐい連れていかれて、あっという間にいなくなってしまった
セミの煩い公園に俺一人
どうして時間は流れていくんだろう
どうして俺は、こんな風に変わってしまったんだろう
どうしては変わらないんだろう
どうして二人は再会したんだろう
どうしたら、心が痛くなくなるんだろう

わからないまま、俺は溜息をついた
傷ついたのに、まだ追いかけようとしている自分が むしょうに笑えた


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