追いかけっこ (葉×主2)


と珪の追いかけっこは、1週間続いた
が仮病を使って珪との日直から逃げた次の日から、は朝のHRが始まる直前に教室に来るようになった
担任の氷室とほぼ同時刻って、逆に度胸があるなと思う
だからできる技かもしれない
氷室は優等生が好きで、はまさに氷室が好きそうな、そんな感じの生徒だから
「・・・また逃げられた・・・」
そして、休み時間になると はもういない
何度か、廊下の突き当りまで追い詰めたけど、そういうときに限っていつも邪魔が入る
の友達とか、と仲良くなりたい男とか、を構いたい教師とかが話しかけてきて それで珪は退散せざるを得なくなる
(・・・いい加減、探すところがないんだけど)
を見失った後、珪いつもチャイムがなるまでを探す
隣のクラス?
空いてる教室?
職員室? 保健室? 音楽室? 準備室?
(屋上は昨日探した、裏庭はさっき探した、渡り廊下、その向こうの美術室?)
たった数分の休みに、美術室まで逃げていくとは考えづらいけれど、もう他に探すところがない
どこか意地になっている珪は、絶対見つけて捕まえてやるなんて思ってる

(捕まえて、それから)

それから、何をしたいのか本当はわからないまま
とりあえず、生まれてしまった黒いものがを捕まえろと言うのだ
捕まえて、自分のものにしてしまえと
初恋の続き、姫に焦がれているのなら、奪ってしまえと何かが囁く

(・・・いた)

散々走り回った珪は、渡り廊下の窓から下の花壇の前にがいるのを見つけた
だがもう今から行っても間に合わないだろう
あと2分でチャイムが鳴る
そうしたら、また1時間の授業
考えて、珪は溜息をついた
次は数学だったか
いっそ、そこの階段で待ち伏せして捕まえてやろうか
ルール違反上等、授業をさぼって、チャイムを無視して手を伸ばそうか

(・・・あれ、3年生か?)
中庭のは、知らない男に声をかけられて立ち止まり、何か小さな箱を手渡された
けっこうよく見える、二人の表情
困ったようなと、真剣な顔の男
告白だろうか
まだ入学して1ヶ月と少し
いくらが可愛いからって、たった1ヶ月見ただけで、の何を知り、付き合いたいなんて言うのだろう

(俺も、そうだけど)

そして、自分のはもっと悪い
まるで八つ当たり
が逃げるから、それに腹が立っての仕返しみたいなもの
子供っぽい、独占欲に似た
(・・・そして、受け取るんだ)
半ば無理矢理にの手に小さな箱を押し付けた上級生は、そのまま走って中庭を横切ってゆき
はチャイムが鳴ったのにはじかれるよう、身を翻して駆け出した
このまま、教室に戻っても良かったけど
こんなのよくあることだから、見なかったことにしても良かったけど
(・・・どうせ今から戻っても遅刻だし)
遅刻すると氷室は小言が煩いし
「サボろう」
声に出すと、それでいいという気になった
こういうところが、他人に変だと言われる所以だろう
珪は、出来るだけ自分のしたいようにしたいと思ってる
どうにもならないこと以外は 我慢していたくない
たとえそれでワガママだと言われたとしても

授業をさぼると決めた珪は、そのまま階段まで行って、上がってきたを捕まえた
驚いたように目をまるくして、また逃げようとした腕をとる
何回目だろう
昔の無邪気な追いかけっことは違う
は笑ってないし、珪も黒い気持ちでいる
「チャイム・・・鳴った・・・よ」
「知ってる」
「授業・・・」
「サボリ」
怯えてるみたいな目
珪が掴んでない方の手に、さっきの男からもらった箱を持ってるのが見えた
そんなもの、さっさと捨ててしまえばいいのに
「あの・・・葉月くん・・・」
と、こんなに会話するのは初めてだ
というか、多分と会話をしたのは今が初めて
この間の路地裏では、珪が一方的に話してただけだったし

(何もかもが一方的だったけど)

「それ、どうするんだ?」
「え・・・?」
「告白されたのか?」
「ど・・・して」
「どうせ振るなら、そういうの、もらわない方がいい」
「振るなんて・・・」
「つきあうのか?」
「・・・・・」
「好きなのか?」
「・・・・・」

が答えられなくなって俯いたのを見て、珪は苦笑した
本当に何がしたいんだろう
あの頃は楽しかったのに
純粋で無邪気で、王子と姫だったあの頃 は自分だけのものだったのに
「あの先輩のこと好きなのか?」
顔を近づけて、囁いた
びく、との肩が震える
このあいだしたことで、自分を怖がってるのだということ、よくわかっている
なのに止まらない
またこんな風にして、嫌われていく
「あれでいいなら、俺でもいいと思うけど・・・?」
耳元、の髪はいい匂いがした
は俺を嫌いみたいだけど」
震えてる
体温が高いのが これだけ近づくとわかる
が逃げるなら俺は捕まえるから」
キスしたくなった
したらもっと怯えるのはわかってるけど
が俺を好きになるまで」
本当はそんな日は、もう来ないと知ってるけど
こんな風にしたって、人は人を好きにはならない
それをよく、知ってるけど

(多分これは、意地悪をしたいだけなんだ)

逃げるから
避けるから
変わってしまったけれど、失ってしまったけれど
自分はもう、あの頃の輝いていた王子じゃないけれど
だからって、あんな風に避けなくてもいいじゃないか
こんなにも逃げなくてもいいと思う
せめて、熱を思い出した初恋の続きが冷めるまで、普通にしてくれれば良かったのに
クラスメイトにするみたいに、
他の男にするみたいに、
あの無邪気で愛らしかった姫のままの笑顔で、一度でいいから笑ってくれれば良かったのに

キスは、我慢した
できるかぎり、やりたいように生きたいけど、これ以上嫌われるのも辛いなと思う
だから 呆然としてるの手からあの小さな箱を奪い取って
それを戦利品に、今日は見逃してあげようと思った
珪は震えてるを置いてそっと立ち去る
いつも、そんな時は心がザワザワして落ち着かない


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