王子の気持ち (葉×主2)


初恋の切なさは、1ヶ月で珪の中から消え去った
甘いような、痛み
それはある種、心地いい夢のような感覚だったのだけど

(覚えてないのは仕方ないとして)

不機嫌に教室の前の方の席を見ながら 珪は溜息をついた
初恋の彼女は初日の自己紹介で と名乗った
あたりさわりのない挨拶をして、それから教室中見回して笑ってみせた
その自己紹介が男子達に与えた最初の印象は最高で、多分何人かはに恋心に似たものを持ったと思う
その様子に心がドクドクいうのがわかった
彼女は、あの頃から何一つ変わっていない
あの愛らしい姫のまま、あのままここに現れたのだ

(俺は変わった、彼女は変わらなかった・・・としても)

入学から1ヶ月
クラスの女子のほとんどが、珪に何らかの興味を示して話しかけてくる中 は一切話しかけてはこなかった
それどころか、こちらを見もしない
いや、そんなものじゃない
あれは明らかに避けている
会話しなくていいように、顔を見なくていいように、距離をとっている
そう感じた
なぜ避けられるのか、なぜ嫌われているのか珪にはわからなかったけれど と珪は入学から1ヶ月たった今も 挨拶すらしたことがない

(・・・憂鬱)

不機嫌? 理不尽? 不思議? 不公平? 不平? 不満? それとも何?

(覚えてないのは仕方ないとして、どうして避けられなきゃならないんだ)

自分はあまり、他人には興味がない
だけど、だけは別だ
再会してしまったのだから、彼女は珪にとっては甘い初恋の姫
この どうでもいい集団生活の中で唯一、夢々しい記憶に住む愛しい存在
あの桜の下で、思い出してしまったのだから
心に熱いものが点ったのだから
これは初恋の続きなのだ
だけど、それは珪だけで、は珪のことを避けるように過ごしている

(まぁ・・・幻滅する気持ちもわかるけど・・・)

自分はあの頃の王子じゃない
誰にも優しくないし、人に気を使わない
そういうのが煩わしいと思って避けている
だから、高校からのクラスメイトは憧れるけれど、中学からの知り合いは、珪のことを変わってるという
だから、
だから、にも初恋の続きを、なんて望んではいない
この気持ちは珪の一方的なものでもかまわない
この恋心は、いずれ冷めるだろう
自分は、あの頃の王子には戻れないのだから、あのころの姫のままここにいるを相手に恋が成就するはずもない
だから、それに不満はないのだけれど

「だからって、避けることないだろ・・・」

そんなに嫌いか、と呟いたら 傍にいた女の子が何か言って笑った
黄色い声も、メアド交換も面倒くさくてうんざりだ
溜息をついて、前の方の席を見た
はチャイムが鳴るとすぐに 逃げるように教室を出ていく
そしていつも、チャイムが鳴るまで戻ってこない
今も、この教室にはいない

「明日の日直は、葉月とだな」
「・・・はい」

だから、その日に言い渡された2回目の日直は1回目と比べて全然嫌じゃなかった
いつも見てるの後姿
俯いてるから、どんな顔で先生の話を聞いてるのかわからないし、そもそも俺の方が後ろの席だからの顔なんて見えはしない

(そういえば、マトモに顔を見てないな)

は学校ではいつもメガネをかけている
そうでなくても、珪の方は見ないし、近寄ろうともしない
だから彼女をまともに見たのは、あの入学式の日の1回きりかもしれない
転んだとき、俺を見て謝った、あの顔
驚いたみたいな目、桜色の頬

(明日は顔が見られるだろうか)

見られたとしても嫌われているのだから、そこからどう、なんて期待してない
だが、想いが冷めるまで
初恋の続きが終るまで、嫌われたり避けられたりしたままというのはとても辛い
毎日溜息連発するくらい憂鬱になる

「おはよう、葉月くん」
「・・・おはよう、さんは?」
「具合が悪いんだって、昨日の夜に電話があって、今日は休むから私が代わりに日直してくれって」

次の日の朝、は教室にいなくて、珪の前には別の女の子がいた
黒板を綺麗にして、教室の花の水を代えて、先生の手伝いをする
プリントを運んだり、音楽室の鍵を開けたり、閉めたり
日直の仕事はやっぱりつまらなかった
女の子は、嬉しそうに何か話しながら やっぱり珪のメアドを知りたがったり、自分の話をたくさんしたりする

(・・・ここまで避けるか?)

そして珪は今日も憂鬱
甘い気持ちは1ヶ月で消えて、今は痛み
そして僅かの怒り
持て余し気味の想いに、珪はまた溜息をついた
そっちがその気なら、こっちだって考えがある、と
まるで子供みたいな天邪鬼が目を覚ます
純心じゃなくなった黒い部分が、熱に灼かれて現れた


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