週末の過ごし方-金曜日- (氷×主)


「今、なんていった?」
「だからぁ、金曜日の夜だけさんの店でバイトすることにしたの」

デートの帰り道、車の中での、何でもない会話の端に出てきた名前に 零一ははた、と動きを止めた
「君は雑貨屋でもバイトをしているんだろう
 そんな・・・バイトばかりしていては身体がもたないぞ」
「平気だもん
 雑貨屋は火曜と木曜だけだし」
「学校だってあるだろう」
「もぉ慣れたもん」
手の中で、携帯電話を弄びながら話すを、零一は小さく溜め息をついて盗み見した
7月に入って、気温は一気に上がった
それにともなって露出の多くなっていくの服装に、毎度毎度目眩のようなものを感じながら
零一は外に出るたびに思うことがある
世の中の男どもには、やはりは魅力的に見えていて
こうして自分といる時でも、は誰かしらに見られているんだろうな、と
そして、それが好ましいと思えない自分がいる
は自分のものなのだから、誰にも見られたくないと思う気持ちがある
子供のような、幼い感情だとわかっていて
それを必死に隠そうとしているのだけれど
「あの店は・・・酒を飲むところだぞ」
「うん、わかってるよ」
「当然、客が酔っぱらったりしていることもある」
「うん」
チラ、と
がこちらに視線をよこした
「・・・・・わかっていて、やると言っているのか?」
「だってさんが手伝ってほしいって言ったんだもん」
「・・・・俺はできればしてほしくないが」
「でも面白そうなんだもん」
「・・・・・・・・・」
悪戯っぽい笑みを浮かべたに、零一は溜め息をついた
わかっている
は最初から、零一に相談しているのではないということ
バイトをすることにした、と
これは報告なのだ
の中ではもう答えは決まっていて、自分に意見を求めているわけではない
だがわかっていても、言ってしまう
いくら友人の、洒落たバーだからといって
客が酒を飲んでいるような店で、が働くなど
が、に手伝ってほしいという意味がわかるからこそ
零一は気が進まない
には、何を言っても無駄だとわかってはいるけれど

それから一週間、もんもんとした気分で過ごした零一は、金曜の夜 仕事を終えてそのままの店へ顔を出した
「あ、零一さん いらっしゃいませ〜」
「よぉ、来ると思ってたよ」
知った顔の二人が笑う
「・・・・」
カウンターへ座って、零一はおしぼりを差し出したを見た
バーテンのような白いシャツと黒いズボン、黒いベストを着たその姿に、少しホッとする
のことだから、お色気な服を着せて喜んでいるのではないかと心配したが
とりあえずのところ それはないようだ
「まぁ、誰かさんが様子見に来るのがわかってたからねぇ
 そんな格好させたら怒るでしょ」
別の客に飲み物を運びに出たの後ろ姿を見て笑った悪友に、零一が溜め息まじりにつぶやく
「なんだってを誘うんだ」
「可愛くて愛想良くて、こういうの好きそうな子ってちゃんしか浮かばなかったんだよ」
急にバイトがやめて困ってねぇ、と
はにっと笑って 零一を見た
「心配しなさんな
 たしかにちゃんはこの1時間程でここの人気者になっちゃったけど、お前のものであることに変わりはないんだから」
「・・・・・・・・・・」
ぐい、と
の入れたジンジャエールを咽に流して、零一はその憎らしい顔を睨み付けた
何が安心しろ、だ
人の一番痛い部分を突いておいて
その「みんなの人気者」にがなるのが嫌で、
ここで働くのに、いい顔ができないでいるというのに

それから零一は、店に流れる音楽を聞きながら、カウンターの一番端の特等席でぼんやりとを見ていた
さすがに金曜の夜は忙しいらしく、パタパタと忙しそうにしているは の言うとおり楽しそうでイキイキしている
たしかにあの性格からして、こういう仕事はむいているのだろうけれど
客に、ちゃん等と気安く呼ばれているのを聞くのは気分のいいものではない
「・・・・・・・・・・まったく」
ひとり、盛大に溜め息をついて零一は時計を見た
12時までだといっていたから、そろそろ上がりか
店も客が減り、落ち着いてきたし、と
思ったその時、きゃっと
の声が側のテーブルで上がった
続いてパコン、と鈍い音
ぼんやりしていた思考が、一気に冴えた
「おいっ、客に向かって・・・」
「何よっ、ちかんしたくせにっ」
零一は唖然とした
が持っていたお盆で、客の頭をはたいたのを確かに見た
そして、その前にその客が、通り過ぎたの身体に触ったのも見た
「はいはい、お客さん〜
 ウチには女の子に悪戯しちゃうような酔い方をする客はいりませんよ〜
 あちらのドアからお帰りください〜」
言い争いをはじめそうな二人に割って入ったの言葉に、客が何か文句を言っている
「ここは下衆な飲み屋じゃないんでねぇ
 女触りたきゃ風俗でも行きな」
客に伝票をつきつけて、勘定を払わせ、
店から追い出すと に苦笑してみせた
「ごめんね」
「うん、平気」
「あーゆう客は殴っていいからね
 ちょっと可愛い子入れると勘違いするバカがいるから困るよなぁ」
「あはは、さんカッコ良かったよ〜」
二人の軽い会話に、零一はいつていけない
こんなもので済むものなのか
ああやって身体を触られたを見て、鳥肌が立つかと思った
大切なが、そういうことをされるのが耐えられない
こんなにも、思っているのは自分だけなのか
当のも、もあまりにケロっとしているのが零一には理解できなかった

それからすぐに、のバイト時間が終わり 二人は零一の車で帰路についた
「ごめんね、零一さん
 先に帰ってくれても良かったのに」
わざわざ自分の終わる時間まで待っていて、こうして送ってくれる零一には申し訳なさそうに言った
「かまわない、こんな時間じゃ電車もないだろう」
「うん、ギリギリ終電って感じかなぁ」
でも楽しかった、と
つぶやいた言葉に、零一が小さく溜め息をつく
あんなことがあっても楽しかったと言えるが理解できない
何とも感じないのだろうか
女の子が、軽くとはいえ身体を触られたというのに
「ねぇ、零一さん なんか怒ってる?」
「・・・・・いや」
自然と、表情が険しくなっていたのだろうか
それとも、このおもしろくない気持ちが態度に出てしまったのか
が、伺うようにこちらを見ている
「・・・・・・・じゃあなんでそんなに冷たいの?」
ぷう、と
その頬を膨らませたにまた溜め息が漏れた
「君は、なんとも思わないのか」
「何が?」
「あんなことが、あって」
吐き出すように、短くつぶやいた零一の言葉に、はしばらく黙ってこちらを見つめていた
「ぽんって触られただけだし、さんが追い出してくれたし、お盆で殴ったし」
平気だよ、と
その言葉に、零一はカチン、と
急速に気持ちが高ぶるのを感じた
ダメだ
冷静に運転などしていられない
もうほとんど誰も通らない道路の脇に車を止めて、それから驚いたような顔をしたの顔を見下ろした
ああ、どうしてこんなにもイライラするんだろう
本人がいくら平気だと言っても、零一は嫌なのだ
自分だけのものであるはずのが、あんな風にされるのは
これから先もまた、ああいうことがあるだろうと予想がつくから余計に
「君が平気でも、俺は嫌だ」
こんなにも、気持ちが揺れているのに 声は不思議と冷静だった
淡々としたその言葉に、がうつむいた
その目が、少しだけ揺れたのを見た
「君があんな風にされるのは耐えられない
 たとえ、君が平気だと言っても俺は平気ではいられない」
例えば街を歩いていて、誰かがを振り返るのも
学校で、零一の知らない男友達がたくさんいるのだろうということも
あの店で、ちゃん、と皆に気に入られていくのも
あんな風に冗談半分だとしても、触られたりするのも
さんのお店だから あんな人はあんまりいないよ?」
いても追い出してくれるから平気だよ、と
おそるおそる言ったのその言葉に、零一は大きく息を吐いた
わかっている
あの店は、音楽を楽しむ客が来るような店だから、確かにあんな酔っぱらいはあんまりいない
いても店長であるが他の客の迷惑になる前に追い出している
零一も、何度か泥酔した客をがタクシーに突っ込んで帰らせたのを見たことがある
彼の店なら大丈夫だ、と
わかっているが、それでも
「・・・・・・・・・それでも、だ」
ぐい、と
その腕を掴んで、
びくっと反応した肩をシートに押し付けるようにして口づけた
「んっ 」
逃げる舌を無理矢理にからめとり、口内を何度もかきまわすと その赤い唇がしっとり濡れて熱い息が漏れた
「れ・・・いちさん」
その頬が紅潮しているのを見て、ぎゅっと胸が苦しくなった
こんなにも足りない
独占したくて、誰にも見せたくなくて
この腕の中にずっとずっと閉じ込めておきたくて
零一は、の身体を抱きしめた
このまま、家に帰す気はなくなった

結局、携帯で家に連絡を入れさせて 零一はを家まで連れてかえってきた
深夜1時過ぎ
シャワーも浴びさせずに、そのままベッドへと押し倒すようにして
の身体の隅々まで口づけた
「んっ・・・・・・・・・・・・・あっ」
されるがままに、抵抗もなく
は零一のシャツを掴んで身をよじり
くぐもった声を、熱い息と一緒に上げた
首すじにも、胸にも、背中にも、
たくさんの赤い花をつけて、まるで所有の印のように
そうしてピクピク、と
そのたびに反応する敏感な部分へと手を伸ばし
の感じるところを指でなぞり上げた
「あぁっ」
濡れた声が上がる
クチュ、と
淫らに音をたてたその熱い部分に、ゆっくりと指を差し入れ
零一は何度も何度もの中をかき回した
そのたびに、震えるように反応する身体に舌を這わせ、悩ましい声を上げるその顔を見下ろした
いま、はこの腕の中にいる
自分だけのものとして、ここにいる
・・・・・・・・・」
の、そのひくひくと震えている部分にそっと自分のものをあてがって
零一は その腰を抱きながらゆっくりとその身を沈めた
「あふ・・・・・・・・・・・あぁ・・・んっ」
苦し気な表情が、零一の意識を刺激する
まるで強姦されているかのように、中途半端にはだけさせられたシャツ
捲り上げられた短いスカートから、白い足がのぞいている
無理矢理に足を開かせて、己のものを突き立てて
零一は、腰を動かしてそのからみつくような熱い中を突き上げた
「あぁっ」
高い声が上がる
の腰が浮いたのをしっかりと掴んで、何度も何度もその奥を突き上げた
その度に、切ないような声が上がり
その背が反り、咽が震えるのを見て
零一は、やがてその熱に達した
への、独占欲に狂ったように、その身に熱い白濁を注いだ

「ね・・・零一さん」
ぎゅ・・・、と
その手を握っては、零一の顔を伺った
「もぉ怒ってない?」
「・・・・・・・・・・・・」
「まだ怒ってる?」
「・・・・・・・いや」
コホン、と
零一が少しうつむいて咳払いしたのを見て、は少しだけ笑った
「零一さんがそーやって心配してくれるのって実は凄く嬉しい」
悪戯な目が、こちらを見ているのに 零一は溜め息をついた
「俺は胃が痛くなるんだがな」
顔をしかめた零一に、がふふっと笑う
「毎週見張りにきてくれたらいいじゃない、心配なら」
「・・・・・・・・・・・・」
かなわない、と思いつつ
うとうとと、目を閉じまどろみかけている恋人の その顔を見下ろした
言われなくても、
心配でいたたまれなくて、きっと毎週様子を見に行ってしまうだろう
自分がのこととなると、そういう行動に出てしまうということは、よくわかっているのだ
結局いつも、に振り回されているのだから
「まったく・・・・」
その髪を撫でた
気持ちよさそうに、が少し笑ったのを見て 零一はそっとその頬に口づける
こんなにも愛しいからこそ、必死になるのだけれど
わかっているのか、わかっていないのか
は、そんな零一などおかまいなしで すーすーと寝息をたてはじめた
見下ろして、微笑する
この時間がずっと続けばいいと、零一は思う

翌朝、3時間程しか寝ていない零一は、目覚ましの音でいつもの時間に起きて、
いつものように支度をして、いつものように学校へでかけた
部屋を出る前に、午後から授業ののために目覚ましをセットして、
そしてスヤスヤと、眠っているにキスをして
そうしてパタン、とドアをしめた
寝不足だということ以外は、すがすがしい朝
気分も、昨日程悪くはない
独占したい恋人は、未だ彼のベッドの中


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