彼の部屋 (氷×主)


3月の終わり、
は初めて氷室の部屋へ訪れた
卒業してから、週に1度はドライブなんかでデートをしていた二人
そろそろ春休みも終わるという今日、
どうしても氷室が今日中に終わらせてしまいたい仕事があるから、と
デートの場所が彼の部屋になった

(零一さんってどんな部屋に住んでるんだろー!!!)

彼の家には、玄関先までなら行ったことがあった
1年の時の初詣の帰りに、皆でおしかけて驚かせたのも遠い記憶
恋人として、彼の部屋には興味がある
マンションに一人暮らしだから、なおのこと
掃除とか、どうしているんだろう、と
ふと、そんな疑問も湧く
(零一さんのことだから・・・きれいに片付いてるんだろうけど〜)
クス、と笑みをこぼして、はチャイムを鳴らした
いつものデートよりも、ドキドキしている

「すまない、遠かったろう」
「ううんっ、平気」
出てきた氷室は、に微笑するとドアを大きくあけて中へと促した
「おじゃましまーす!」
弾む心で中へと入ると、一番最初に目についたのは 飛び出してきた猫だった
「え?!」
身軽に、の目の前を横切って、側のサイドテーブルに飛び乗ったその様子には驚いて目をみはった
見覚えがある
この白い猫は、もしかして
っ、そんなところに乗るんじゃないっ」
後ろで、氷室が叱る声に ますます驚いた
今、と呼んだか
この猫を
「れ・・・零一さん?」
振り返ったの、そのキョトンとした顔に
しまった、と
氷室は途端に、顔を赤く染めた
「いや・・・コホン」
照れ隠しにか、その白い猫に手を伸ばして、抱き上げるとそれを床に放した
「この子そんな名前なんですか?」
は学生時代の自分のあだ名だった
偶然か
それとも、氷室がわざとそうつけたのか
「いや・・・その・・・、性格が君に似ていたから」
つい、と
氷室は、そそくさと奥へと入っていった
猫に自分のあだ名をつけて、飼っていたなんて知らなかった
なんだか急に恥ずかしいやら、嬉しいやらで
も頬を染めた
この猫が、あの時の猫なんだとしたら、
そんなにも前から、自分は氷室の中で特別だったということか
「ねっ、零一さん
 これって2年の時に私が飼い主探してた猫ちゃんだよね?」
「・・・そうだ」
氷室について歩きながら、は嬉しくて仕方がなかった
あの時、処分されそうになった子猫を、氷室がもらって飼ってくれていたのか
飼い主が見つかったと、
それは自分のことだったのか
「嬉しいっ、零一さん大好きっ」
ぎゅっ、と
後ろからその背中にだきつくと、氷室は苦笑してこちらを振り向いた
「君を泣かせてしまったからな・・・」
「えへへ、嬉しいなっ
 また会えるなんて思ってなかったっ」
「そうか・・・これからはいつでも会えるだろう」
「うんっ」
にこり、と
破顔したに、氷室は軽くキスをした
こういう風に無邪気に笑うを可愛いと思う
今も、照れたように頬をそめているその姿に、自然と微笑がこぼれた
これほどまでに、愛しいと感じた女性はしかいない

「きれいなお部屋〜」
氷室の部屋は、想像通りに綺麗に片付けられていた
玄関を入ったら広いリビング
キッチンがあって、奥には2つ部屋がある
「いいなぁっ、素敵〜」
ウロウロと、見回っては溜め息をついた
「私もこんなマンションに住みたい〜」
そうか、と
氷室は笑ってにお茶をいれるべく ヤカンを火にかけた
そういう見なれない姿に、おかしくなる
「なんか零一さんのそーゆう姿って新鮮〜」
「俺だってこれくらいはするが」
「そうだけど〜
 だって食事なんか作らないでしょ?
 前に言ってた変なメニューを毎日食べてるんだったら」
「・・・変ではない」
まったく、と
氷室はリビングのソファにぽふ、と腰掛けたに苦笑した
この部屋にがいると、とても心が穏やかになる
今迄に、色んな女性が来たが
こんなにも、居心地のいいのは初めてだ
が、にすり寄っているのを見て笑みがこぼれた
覚えているわけではないだろうに
もうすっかり、にはなついているようだ
妬きそうだな、と
氷室はを抱き上げてその背を撫でたを見守った
帰したくない、という衝動にかられる
まだ来たばかりだというのに

それから氷室は、ファックスで送られてきた紙を取ると、奥の部屋へ行った
「すまないな、
 できるだけ早く終わらせるから」
「いいよぉ
 零一さんの部屋を探検してるから」
仕事部屋にしているらしき部屋は、片付いていて本と机しかない
もう一つの部屋は寝室なのか、ベッドが一つ置いてあった
(・・・性格出てるなぁ・・・シンプルだ)
色んな扉を開けては、中身を見て遊ぶ
付き従っているに何かと話しかけながら1時間程そうして遊んだ
結論は、とても氷室らしい整ったシンプルな部屋だということ
(ちょっとつまんないなぁ・・・)
的には、もうちょっと飾ってもいいんじゃないかと思うのだ
リビングにしても、寝室にしても
今度何か持ってこよう、と
はリビングに置いてあるピアノの前に座った
(やっぱりあった・・・)
そっと開けてみた
弾いたら氷室の仕事の邪魔をしてしまうだろうから、と
ちょっとだけ眺めていた
にとったらピアノはやっぱり珍しいものなのだ
そもそも家にこんなものはないし、
学校でも、近よらなかったから
(こんなどれも似たような鍵盤なのに、どうして何の音かがわかるんだろう)
すごいなぁ、と
思っていた時に、ふ・・・と気配を感じた
途端、長い腕に抱きしめられた
「きゃあっ」
「どうした、弾きたいのか?」
いつ来たのか、氷室がを抱きながらおもしろそうに言った
「零一さん気配なかったーーー !!!」
ドキドキしているのを押さえるように口を尖らせて、は訴える
心臓に悪い
大好きな人に抱きしめられるのは とてもとても幸せで嬉しいことなんだけれど
こんな風に急だと、心の準備ができなくてドキドキする
知ってか知らずしてか、
氷室はよくこうして、後ろからを抱きしめるのだ
いつも、急に
「仕事終わった?」
「ああ、待たせたな」
「じゃあお買い物にいこっ」
「・・・買い物?」
何故? と
不思議そうな顔をした氷室に、が笑った
「今日の晩ご飯作ってあげる
 私 ライ麦パンとかグレープフルーツとかの変なご飯、嫌だもん」
食べた気しない、と
悪戯っぽく言ったに、氷室もまた苦笑した
「君かわざわざ作らなくても外に食べに出ればいいだろう」
「いいの、作るの好きだもん」
「そうか・・・」
「ようするに、栄養とカロリーのちゃんと計算された食事ならいいんでしょ
 そーゆうの得意だからまかせて」
「それは・・・頼もしいな」
「でしょ?」
いい奥さんになるよ、と
冗談っぽく笑ったに、氷室は微笑して強く抱きしめた
それから、愛し気にキスをして
腕の中のを確かめた
の側にいることができて良かったと思う
こういう時、
他の誰かではなく自分を、が選んでくれて良かったと 心から思う
腕の中で頬を染めたが、可愛くて愛しくて仕方がないから

その夜は、お手製の料理がテーブルに並び
二人して、キッチンのテーブルで食事をした
「なんか楽しいなっ、こーゆうの」
「そうだな」
「また来ていい?」
「・・・聞く必要はないだろう」
がいるだけで、いつもの部屋が明るくなる気がするし
料理上手なの作った食事は文句なしに美味かった
ワインでも飲みたい気分である
それほどに、いい気分になっている
が、いるだけで


を車で送って、自宅に戻りながら氷室は穏やかな気分でいた
と恋人になってもうすぐ1ヶ月
こんなにも満たされる春を迎えるなんて夢にも思っていなかった
何をするにも、優しい気持ちになれる自分がおかしくて仕方がない
こんなにも変わるなんて
幸せに、微笑しながら部屋に戻った
次に、が来るのが待ち遠しい


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