レッスン (氷×主)


日曜日、は氷室と二人でのバーに来ていた
「じゃあ俺は買い出しに行ってくるから留守番宜しく
 5時には戻るよ」
そう言って、嬉しそうな顔ではでかけて行き、開店前の店には氷室との二人きりになった
クリスマスの日、が言ってくれたことがあった
「ピアノが弾きたいなら、昼間においで」
開店前なら好きなだけ弾いていいよ、と
それで、氷室に無理を言って日曜の昼間にわざわざ連れてきてもらったのだ
今度のも、「御褒美」だとダダをこねた
それで、しぶしぶに氷室はOKしてくれたのだ
まるでデートみたいな、この休日を

「そんなにピアノが弾きたいなら学校にあるだろうに」
嬉しそうにピアノへと駆けていったを見て、氷室が苦笑した
金曜に、にここへ連れてきてくれと言われて
氷室は随分迷った
個人的に日曜に会うとなると問題があるんじゃないだろうか、とか
二人での店にだなんて、また奴に弱味を握らせるようなものだ、とか
それでも のお願いにはかなわなかったのだ
結局、ここにきてしまった
これはどう言い訳してもデートではないか
一人、赤面して氷室は慌ててその意識を払った
「社会見学だ、音楽の」
「何か言った? 先生」
「いや、別に・・・」
はピアノの前に座って、鍵盤をぽんぽんと弾いている
「私、ちゃんと触ったことないんだ〜
 小学校の時とかって、習ってる子が授業の前に弾いてたりしてね
 それでいっつも憧れてたんだぁ
 なんかピアノって格好いいもんねっ」
頬を染めて、嬉しそうなに 氷室は微笑した
可愛いと思う
こういう風に、嬉しそうにピアノに触っているのを見ると
「私ね〜ピアニカでちょっとだけ練習したのがあったんだ〜」
ポロン、と
がこちらを見上げて言った
そしてたどたどしく鍵盤をはじき出した
指の力が弱いためか、不安定に音が揺れる
どうやら、が弾いているのは「エリーゼのために」か
時々たどたどしく止りながらも、有名なメロディー部分だけをは弾いて へへっと笑った
「これ、友達が上手でねっ
 私すごく好きだったから何回も弾いてもらったんだぁ」
そして、ピアニカで練習したんだと笑った
ピアノを習うと簡単な練習曲として、大抵の人がこの曲を弾く
耳慣れた曲で、独特のリズムだから聴いているうちにメロディを覚えたのだろう
何度も何度をそれを弾くに、氷室は笑って後ろからそっと、腕をのばした
「え・・・?!」
の身体を覆うように、抱きすくめるように
腕をのばして鍵盤に触れる
「せ・・・先生・・・?」
「続けなさい」
驚いて弾くのをやめて身体を縮めたに、氷室は静かに言った
「え・・・・っ?」
おたおたと、がまた弾きはじめる
それに、伴奏をつけた
エリーゼのために
が飛ばした音を補いながら、の知らないメロデイ以外の音を入れていく
単音が、重音になり、それは立派な曲になる
「う・・・うわぁ・・・・・」
感動にか、声を震わせてはたどたどしくも弾いた
知っている部分が終わると手をひっこめたので、氷室が続きを弾いた
腕の中に、頬をそめたを抱くようにして

演奏が終わると、が歓声を上げた
「すごーーーーいっっ、先生すごいっ」
興奮のあまり、振り向いたと、
鍵盤に届くよう身を乗り出していた氷室と
あやうく二人の唇が触れそうになった
「?!」
「・・・っ」
反射的に、身を引いて真っ赤になった
氷室もまた、どうしようもないくらいに動揺した
「ご・・・ごめんなさいっ」
「い・・・いや・・・」
が前を向いていたから、こんなにも側に寄って弾いていたけれど
思えば側により過ぎた
の演奏を完成させてやりたくて、つい自分も夢中になってしまったが、
「いや、すまない」
氷室は苦笑した
また、周りが見えていなかった
をその腕の中に、鍵盤をはじきながら
ふわり、と
その香りに意識がクラクラしたのだ
この曲と、香りと、側に感じる体温
それだけで、氷室はどうにかなりそうだった
周りなど、を前にしては見えるはずもない

「香水を、つけているんだな」
ポツ、と
氷室はつぶやいた
「うんっ、さんがくれたの」
まだ頬を染めているが、少しだけ嬉しそうにして言った
(・・・・いつのまに・・・・)
「先生、この香り嫌い?」
「いや」
嫌いではない、
むしろ好ましい、と思うのだが
一体いつのまに そんなものをに渡していたのか
氷室は手の早いに、苦笑した
油断ならない、などと思う
誰にも、を取られたくないと思うから

それから は何度も氷室に伴奏をねだった
そのたびに、の後ろから鍵盤をはじきながら 氷室はこれからのことを考えた
奪われたくないから、手に入れたいと思う
ここにいる少女を
今、腕の中で鍵盤をたどる少女を
の髪から漂う、落ち着いた香りの中 氷室は微笑した
が手に入るなら、他には何も望まない


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