君を想う (氷×主)


どうしようもなくて、ピアノを弾く
この想いを、もてあまして鍵盤を叩くように音を奏でる
この曲は、君への想い

「零一、友達として言わせてもらうけどな」

夏休みの最終日、氷室はの経営するバーへとやってきていた
暑い夏、
達のつきそいで小旅行へ行った日からずっと
心に重いものがたまっている
それをどうしようもなくて、氷室は毎日をもんもんと過ごしていた
今もここで、酒を飲みながらぼんやりとのことを考えている
この胸に住み着いた、あの少女のこと
旅行の最後の日には、完璧にいつもの明るさを取り戻して笑った少女のこと
同じく、
何も変わらないといった様子で、そこにいたまどかもまた
完璧に 暗い影を隠し通した
子供の姿をした、大人な二人
笑いあって、また新学期にね、と帰っていった
痛みが、ないわけではないだろうに

「何だ?」
「悩むくらいなら、言ってしまえよ」

ぴくり、と氷室の肩が反応した
グラスを一気にあけて、を見ると彼は新しいシャンパンのボトルを開けている
何でもないような、いつもの友人の顔
「お前、悩みすぎると毒だよ」
「・・・・・・・別に何も悩んでいない」
「おーおー、そんな顔してよく言うなぁ
 昔っから変わってないねぇ、お前」
成長がないってことだな、と
は笑う
「どういう意味だ」
「言ったままさ
 お前が今まで、女のことでそんな顔したことがあったか?
 冷血漢は、いつでも女をあっさり切り捨ててきただろ?」
クスクスと、笑ったに 氷室は苦笑した
冷血漢
それは学生時代に言われた言葉
つきあっていた女と別れた時に、誰かが言った
「人の気持ちのわからない冷血漢」だと

「お前も変わったね
 女のことで悩む心ができたってわけか
 すごいんだね、ちゃんってのは」
「だ・・・・っ、誰だって?!」
ちゃんだろ、お前にそんな顔させてる女神は」
にやり、
顔を寄せて意地悪く笑ったに、氷室は体温が一気に上がったのを感じた
どうしてこいつがこんなことを言うのか
ここにを連れてきたのはたったの一度で
その時に、そんなそぶりを見せた覚えなんてない
いや、今迄ずっと
自分がを想っているだなんてそぶりを見せたことなど一度もなかったはずだ
自分に言い聞かせ続けて、誤魔化し続けてきたのだから
は生徒で、自分は教師なんだからと

「あのね、お前の親友何年やってると思ってんの?
 甘いよ」
バレてないとでも思った? と
不敵に笑ったに、氷室は何も言えなかった
「言ってしまえばいいだろ?
 好きなんだったら、好きって言やいいんだ」
簡単じゃないか、と
はグラスにシャンパンをついだ
心地いい音が響く
透明な液体で満たされていくのを見ながら また重苦しいものが心にたまっていくのを感じた
相手が生徒で、どうやって言えと?
簡単だなんて言うけれど、
この想いを伝えることが、簡単であるはずがない
こんなにも痛ましい、こんなにも重いものなのに
言えば、が今自分に抱いてくれている教師氷室への信頼を、失うことになるかもしれない
今迄の関係が、崩れ去ってしまうかもしれないのだ
教師である自分が、に対してこんなにもドロドロとした想いでいたなんて
知ればはどう思うか
軽蔑されるかも、しれない
「・・・簡単ではない」
溜め息をついた
自覚してしまった想いは、燻り続ける
どうしたらいいのかなど、わからなくて
それで毎日のように鍵盤を叩くように弾いているのだ
声に出せない想いを、吐き出すかのように

チラ、と店に置いてあるピアノを見た
「弾いていいか?」
「いいよ、珍しいな」
自分から弾くというなんて、と
は、サラリと笑った
席をたち、ピアノの前に座ると、す・・・と体温が下がる気がする
酒でふわふわとした気持ちになっているものも、ふと冷静になる

ポーン

一音はじいた
店内にかかっていた音楽がス・・・とボリュームダウンして、静かな空間に、ピアノの音が響き出す
氷室には、今は何も聞こえない
ただ、自分のたたき出す音だけ
それだけ

君を想う
君を想う
これほどに、激しいものが自分の中に生まれるなんて
君を想う
君を想う
こんなにも、狂おしいほどに君だけを

「ああ、ショパンだね」
他の客と話をしながらがつぶやいた
「不器用だなぁ、あいつも」
先生と生徒ということに、何の問題があるのか
大切なのは本人の想いだけ
それだけなのにな、と
激しくも力強い音に耳に、は苦笑した
不器用な彼は、ピアノを弾くことでしか その想いを表現できない
今にも窒息しそうになって、ここにいる

君を想う
君を想う
これほどに、苦しい夜があったか
これほどに、愛しい人がいたか
君を想う
君を想う
失いたくないと、君を想う


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