海へ (氷×主)


テストが終わった
一学期の間、必死に勉強したけど、結局結果は1位にはなれなかった
「ああーーーーもぉーーーーーーーーーーっっ」
発表された結果を見て、泣きたくなった
成績は上がっている
でも、にはかなわない
余裕で彼女は学年1位で、続いて葉月、そしてだった
「いやいや、ウチのクラスでワンツースリーやねんから上出来やろ
 、無理したら身体こわすで」
「でも〜〜〜」
まどかが、あきれたように笑って ぽんぽんとの肩を軽く叩いた
「バイトもしてんねやから、ほんまに身体壊すで
 たまには息抜きしなな」
「うん・・・」
どうしても、数学がダメなのだ
他は追い付いているのに
数学だけは、どれだけ頑張っても難しくて、結局今回も80点
まどかの言うとおり、上出来なのだ
自分は寝る間も惜しんで頑張ったし、遊ぶのだって我慢して毎日毎日勉強した
それなのに、
それなのに、
きっとどれだけ頑張ってもにはかなわない
本当に、どうしようもない
氷室に認められたいのに
頑張ったことを誉めてほしいのに、結果として出ない
こんなんじゃ、何のために頑張っているのかわからない

あんまり落ち込んで、は昼休みだというのに沈んだ顔で教室にいた
そこへ、まどかがやってきて苦笑した
「まーだ落ち込んでんのか?
 らしくないなぁ、オレが息抜きに連れてったろか?」
「・・・・・どこに?」
「どこでも、
 1.2年はテスト休みやってのに、3年だけ授業なんてかったるいやろ
 テストも終わったことやし、遊びに行こうや」
ブンブン、と
バイクのハンドルを回すフリをしたまどかに、は無意識にうなずいた
そうだ、
ここにいたら息がつまる
たまには、気分転換したい

それから、二人して学校を抜け出してまどかの家まで行った
彼の愛用のバイクに乗って、ただ走った
「どこ行くーーーー?」
「海ーーー!!!!」
感じたことのないスピードに心を踊らせながら、は深呼吸した
どうしても拭えない焦燥感が、まだここにある

6限目が終わり、帰りのH.Rに教室へきた氷室は、とまどかがいないのに眉をひそめた
と姫条はどうした」
「サボリです」
誰かが答えた
ざわざわと、おもしろがるような声があちこちから聞こえる
「昼休みからいませーん
 二人で出てくのを見ましたー」
「やっぱあいつらつきあってんのかな〜」
不愉快な声に、氷室は顔を曇らせての席を見た
最近ほんとうに、がわからない
まどかはともかく、がこんな風にサボるなど、今までなかったことなのに

次の日、
もまどかも いつものように授業に出ていた
放課後、生徒指導室へ二人を呼んで ひととおり説教した後氷室はまどかだけを帰した
「ごめんな、
 オレ 今日バイトやから」
「うん、頑張ってね」
助かった、とばかりにまどかは走って帰ってゆき、部屋には二人だけになる
「最近、どうかしているぞ 
言いたかった一言を、氷室は言った
の肩がぴく、と震える
「どうした?
 君は節度はわきまえる生徒だったはずだ
 授業をさぼるなど、今までなかっただろう?」
本当に、昨日のことは氷室なりにショックだった
聞けば二人でバイクで海まで行ってたとか
気分転換です、と
まどかは悪びれもせずに言ったものだが
「だって・・・・・・・」
うつむいたが、ぽつ、と口を開いた
「疲れたんだもん」
「疲れた?」
意味がわからず繰り返した氷室を、顔を上げてが見つめた
「私、今回のテストもその前もその前も、ずっとずっと頑張った
 遊ぶのも我慢して、一生懸命やった
 でも、結果が出ないの
 だからなんか・・・・疲れた」
の目が、揺れた気がした
泣くのかと、思った
「何を言っている・・・?
 結果は出ているじゃないか
 君は確実に成績を伸ばしている
 今回も3位で、前回より上がっているじゃないか」
やはりわからない
の言わんとしていることが理解できずに、氷室は困惑した
「そんなの意味ないもん
 1番じゃなかったら意味ないもんっ」
「何を・・・・」
「だっていつもいつもいつもっ
 私、さんにかなわないもん
 どれだけ頑張っても一番になれない
 氷室学級のエースになりたいのに、なれないんだもんっ」
まるでまくしたてるように、が一気に吐き出した
勢いで、ぼろぼろと涙がこぼれていった
唖然、と
氷室はのその様子を見て、それで何かを理解したような気がした
・・・・・・」
「一番じゃなきゃ意味ないもん
 先生の・・・・・・一番になりたいんだもん
 どれだけ頑張っても さんが一番で、私なんか・・・・っ」
しゃくりあげて、はわんわん泣き出した
それこそまるで子供みたいに
苦笑して、
氷室はそ・・と、へと手を伸ばす
その震えている肩を抱いて、側へと引き寄せた
まったく、この生徒は高校生にもなって子供みたいに
こんなことを考えていたなんて、思いもしなかった
なんて、愛しいんだろう、と
氷室はをそっと抱きしめると、ぽんぽんとその背中を軽くたたいた
「ふ・・・・・ふぇ・・・」
それから、大分長く伸びた髪をなでる
驚いたように身を固くしたに、氷室は言った
「私はちゃんと君を評価している
 君が努力しているのも知っているし、その結果も認めている
 、私には誰が一番などというものはない
 も君も、同じ氷室学級の大切な生徒だ
 成績が一番だからといって、そんな特別扱いはしていない
 皆、同じように接しているつもりだ」
「だって・・・・先生毎日さんと一緒にいるんだもん・・・っ」
「進路懇談をしているんだ
 彼女は進む道を迷っている
 相談に乗るのは担任として当然だ」
途中で懇談を終わらせて帰った誰かさんのセリフではないだろう、と
氷室は意地悪く笑った
そして、
「皆、同じに接しているが・・・こんな風にするのは、君だけだ」
優しく抱きしめて
まるで子供をあやすみたいに、その髪を撫でて
氷室は、自分の胸に顔を埋めているに苦笑した
我ながら、いつもには、考えるより先に行動してしまう
今も気付けば抱きしめていた
あんまりが、けなげで可愛いことをいうものだから
「・・・・先生、どきどきしてる」
「き・・・・・・・・、君にこんなことをしているからだろうっ」
もう泣き止んだのか、
いつもの顔で笑ったに、氷室はあわててを放した
だが、今度はかに抱きついて その胸に頬を寄せた
「やんっ、もーちょっとだけ」
「・・・・だったら余計なことは言うな」
「はぁい」
へへ、と
もうの目に涙はなく
その胸に、あの嫌な焦燥感もなかった
氷室が認めてくれたなら、つらい勉強も頑張れる
また頑張ろうという気になる
氷室は、それからしばらく
が自分から離れるまで、長いこと髪を撫でていてくれた
こんなことをするのは君にだけだ、と
その言葉が何よりも嬉しい

帰り道、氷室の車は寄り道をした
「どこに行くの?」
「海だ」
「え?! 海?!」
昨日まどかと行った海に、氷室も向かっているのか
「どうして?」
「君は海が好きなんだろう」
「うん・・・」
見上げた氷室の顔が、どこか苦笑しているように見えたのは気のせいか
「気分転換ならいつでも私が連れてきてやるから
 今後絶対に、二度と姫条のバイクになど乗らないと約束しなさい」
「えぇ?!」
また驚いて氷室を見た
前を見たまま、運転を続ける氷室の顔からは何も読み取れない
「どうして・・・?」
「どうしてもだ
 だいたいバイクの二人乗りなど危ないだろう
 あの姫条の運転なんて、命を捨てるようなものだ」
「それは・・・・言い過ぎ・・・・」
「言い過ぎではない
 息抜きがしたいなら、私に言いなさい
 ・・・・・・・・わかったか?」
「本当にいつでも連れてきてくれるの?」
「ああ」
「忙しくても?」
「ああ」
「・・・・・・・・うん、じゃあ約束する」
にこり、
くすぐったくなって、は笑った
いつでも氷室が連れてきてくれるというのなら、
他の誰かなんていらない
氷室がいれば、他は何もいらない
「約束する」
それで、氷室はようやく落ち着いた
昨日からくすぶっていた まどかへの嫉妬のようなものが 今やっと消えた
そういう気がした

を送り届けてから、氷室はの言葉を考えていた
一番になりたいと言った
先生の一番になりたいのに、と
あんなにも泣いた
愛しくて、どうにかなってしまいそうだった あの瞬間
へと、無意識に手を伸ばしてしまった
あんまり愛しくて、この手に抱いてしまった
あれほど長く

氷室は苦笑した
止められない
この想いはもう、止められない


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