KISS ME (氷×主)


氷室との、いつもの帰り道
彼の車の助手席に乗って、はチラ、とその横顔を盗み見した
(・・・・やっぱ格好いい・・・・)
整った顔に、きゅっと結ばれた唇
視線を釘付けにされ、は一人頬を染めた
(格好いい・・・・)
クラスの男子とはやはりどこか違う、大人の表情
成長途中を思わせる幼さがないのがまた素敵に感じる
冷たそうな印象を受ける目も、
その内面を知っている今なら、怖いとも思わない
小さく、溜め息をついた
自分よりいくつも年上の氷室は、当然自分よりも多く人生というものを経験しているだろう
きっと、いくつも恋愛をして、何人も彼女がいたかもしれない
そして今も、誰か大人の女性とつきあっているのかもしれない
(チェー・・・・)
もう一度、その顔を盗み見した
たわいもないことを話しながら、はどうあがいても追いつけない距離があるのを感じる
年齢という距離
それから、先生と生徒という距離
遠いな、と
最近そればかり、は感じている

「ね、先生はキスしたことある?」
「・・・・は?」

今、女の子の間での一番の話題はそれだった
2年にもなれば、男の子とつきあっている子も多い
そんな中で修学旅行があり、お互いの親密度が上がり最近キスしただなんて言っている子が増えた
聞くたびに、いいなぁ、と
は思うのである
「先生はどんな風にキスするの?」
大人の女の人と
今つきあっている、きっと美人な恋人と
「先生、キスって何回くらいした?」
今度はちゃんと、氷室を見た
呆れたような、困ったような複雑な顔をして 氷室は黙っている
子供っぽいとあきれたのだろうか
だって、今一番興味がある話題だし、
何よりそういう年頃なんだからしょうがないじゃないか
自分は、氷室のように大人じゃないんだから
「ねっ、先生ってばっ」
「何故そんなことを聞くんだ・・・」
いつもの口調
前をむいて運転をしながら、淡々と
「だって、してみたいんだもん」
みんなしてるって言ってたもん、と
はつぶやいた
してみたい
好きな人と
ここにいる、氷室と
どういう風にするんだろうとか、
どういう時にするんだろう、とか
そういうことになったことがないには、未ださっぱりわからない
「してみたいなぁ・・・」
つぶやいて、溜め息をついた
「私も彼氏、作ろっかなぁ」
順番としては、彼氏を作ってからキスをする
彼氏もいない自分では、どうしようもない
「そんなものでいいのか?
 できれば、相手は誰でもいいのか?」
また呆れたような声が返ってきた
「そーゆうわけじゃないけど・・・」
そう、そういうわけじゃない
だから、未だに彼氏も作らずこうしてここにいるんじゃないか
「そういうことは、本当に好きな相手としなさい」
「・・・だって・・・・」
本当に好きな相手はここにいる
ここで、この話をくだらないといった風に聞いている
まるで子供のたわごとみたいに
「好きな人となんてできるわけないじゃない」
うつむいてくちごもった
氷室を好きなんだから、氷室にしてほしいのに
そして、
そんなことはありえないと自分でもわかっている

「ねっ、先生はどんな風にするの?
 今つきあってる人と、どんな風にする?」
気を取り直して、聞いてみた
どういう女性を恋人として選ぶのだろう
想像では、大人っぽいおしとやかで優しい女性
きっと家庭的で、頭も良くて、一緒にいて安心する人
氷室の好みからして、そんな感じかな、と
は思って 内心苦笑した
(・・・私と反対だ・・・)
自分には、おしとやかのかけらもないし、
一緒にいて安心だなんてもってのほか
多分、氷室は手のかかる生徒だと思っているだろうし、何より
こんなに子供な自分を、氷室は生徒として以外には見てくれないだろう
「ねっ、教えてっ」
「どうして私の話になるんだ・・・」
心なしか、氷室が頬を染めて勘弁してほしいと言った様子で声を荒げた
「だって先生のこと気になるんだもん」
気になる
だから聞く
子供なんだから仕方がないじゃない
知りたいことを聞きもせずに
好きな人のことを、遠いからって諦めきれない
今はまだ、好きでいたい
だから、知りたいのだ
どんな女性と、どんな風にキスするのか、とか

「今つきあってる人いるの?
 ねぇ、どんな人?」
「つきあっている人などいない」

溜め息まじりに氷室は言った
「ええ?!
 なんで別れたの?!」
ふられたのだろうか、ふったのだろうか
その人のこと、まだ好きなのだろうか
一気にまた、疑問で頭が一杯になる
「質問は以上だな」
「ええーーーーっっ
 それくらい教えてくれてもいいでしょーーーっ」
「答える気はない」
氷室の顔を見つめると、いつもの鉄仮面
何を考えてるのかわからない
どう思っているのかもわからない
大人には、こんな話題はつまらないのだろうか
それとも、
氷室はあまりこういう話は好きじゃないのだろうか

車が走る間、ずっと氷室の恋人だった人のことを考えていた
彼女と、どういう会話をして、どういうデートをして過ごしたのだろう
大人同志だと、自分とはしないような落ち着いた会話をするのだろうか
自分には、想像もつかないような

「どうした? 着いたぞ」
「・・・・・うん」
止まった車の中で、氷室を見上げた
素敵な人
きっと、いろんな人が氷室を好きで、色んな人と恋をしただろう
自分なんか、数にも入っていないんだろうな
大勢の、大人の女の人から見たら

「先生、キスして」

見上げて、言った言葉に 一瞬氷室が驚いたような顔をした
それから、呆れたような いつもの困った顔をする
「だって先生、今は恋人いないんでしょ?
 だったら私としても怒る人いないよね」
冗談だけれど、半分本気
絶対に、そんなことしてくれるわけないと思っているけど、
氷室以外の人となんて、多分したいとは思わない

だって、先生が好きなんだもん

(誰よりも・・・・)
溜め息がふってきた
「では、目をとじなさい」
「えっ?!」
思い掛けない言葉
何かを考える余裕もなく、目を閉じた
ス・・・と、気配を感じて それから頬に何かが触れた
軽い、キス
「・・・・・・・!!」
目をあけると、氷室がいつもの教壇で見せるような顔をしていた
「君のような子供にはこれで充分だ」
「ひ・・・ひどーーーーーーいっっ」
途端に、胸がバクバクいって、身体中の熱が上がった気がした
まさかまさか、本気で氷室が自分に触れるなんて思っていなかった
頬に軽いキス
それでも、こんなにもドキドキして、どうしようもないくらいに舞い上がってしまう
だって自分は、氷室のことが、こんなにもこんなにも好きなのだから

車を下りてからもドキドキが止まらなかった
「バカなことを考えていないで早く寝なさい」
「はぁい」
今日ばかりはマトモに顔が見れなかった
まだ頬に感触が残っている
「おやすみなさい」
言って、家の中に駆け込んで、ドアの向こうで車の発信する音をきいて、ようやく溜め息をついた
「び・・・びっくりしたぁ・・・・」
本当にびっくりした
頬を手でおさえて、その熱に自分でもおかしくなる
緊張している
こんなにも熱くなって、
まさか、あんな冗談に氷室がこたえるとは思っていなかったから
きっと、怒るかあきれるかして、早く帰りなさい、なんて言うんだと思っていたから
頬を染めながらは自室へと戻った
明日、教室でちゃんと氷室の顔が見れるだろうか


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