体育教師現わる (氷×主)


最近、生徒達の間で話題の体育教師は、29才で独身
スポーツ万能で優しくて、顔が良くて、さわやかなところが女子に大人気だった
「先生っ
 恋人いるんですか〜?」
「いやぁ、こないだふられたとこ」
「えーっ、じゃあ私が彼女に立候補する〜」
昼休みにきゃあきゃあと、体育教官室で盛り上がっている様子をは何度も目にしたし、実際クラスの女子も何人か 彼のことを好きだと言っている

「まぁ格好いいわよねぇ・・・」
「そぉだなぁ
 私はもーちょっとクールな方が好きかなぁ」
「あんたの氷室はクール通り越して冷たいってゆーの」
「・・・・あそこまでとは言ってないでしょー」
体育の授業の後、ボールの片付けをしながらは奈津実と話していた
体育教師は先週まで怪我で入院していて、やっとの復帰
まってましたと、一気に人気が復活したのだ
「あんまり興味ないな〜」
「でも親しみやすいよね、氷室の100倍くらい」
「そりゃ・・・先生があんなだったら嫌だ〜」
「スポーツ万能だから氷室より頼りになりそうだし」
「だから何で先生と比べるのよ〜」
「あはは、あんたの反応がおもしろいから〜」
ケラケラと、笑った奈津実をねめつけながら はふと考える
体育教師のと、氷室
の好みからいえば、まどかと同じタイプのの方が好きなはずなのだ
ノリはいいし、明るいし、
何より優しくて、奈津実の言うとおり頼りになりそうな感じなのだ
男は女を守れるくらいじゃなくっちゃ、と
奈津実が言ったのを聞きながら、は溜め息をついた
それでも氷室の方が好きだと思うのはおかしいのだろうか
「人って好みのタイプの人間を好きになるわけじゃないんだね〜」
「そーかもね」
つぶやきに、奈津実がおかしそうに同調してくれた

さて、今月 は体育の当番で、とは頻繁に接触があった
「御苦労さん」
授業のあとの片付けなんかの時に、は毎回ねぎらいの言葉をかけてくれたし、授業の準備や何かを当番の生徒にまかせっきりではなく、手伝ってくれた
「先生は優しいですね〜」
「そんなことはない
 女の子にはこれくらいしないと」
2クラス分のノートを職員室へ運ぶのを手伝ってもらって、は言った
「そーかなぁ
 今までの先生は手伝ってくれなかったんですよ」
「そーなのか?
 それは悪いことをしたな・・・」
「でも先生、怪我治るのにだいぶ時間かかりましたね
 もぉ痛くないんですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
そうですか、と
は笑って 丁度職員室の掲示板のところに氷室の姿を見付けた
「せんせー」
大声で呼ぶと、氷室がこちらを見て顔をしかめた
、廊下で大声を出すんじゃない」
「はぁい
 先生 何してるの?」
「テスト範囲をはり出している」
「きゃー、もぉ決まってるの?!」
駆け寄って、は氷室の貼った紙を見た
見ているうちに、が追い付いて、の運んでいた分のノートも受け取った
「先生、持てますか?」
「大丈夫
 ありがとう、
「はい」
にこり、と
山積みのノートを抱えて職員室へと入っていったを見送って は内心苦笑した
どうも慣れない
あの先生は仲のいい生徒を名前で呼ぶのだが、それがにはどこか居心地悪いのだ
まどかや奈津実が呼ぶのとはわけが違う
教師にそういう風に呼ばれるのは、なんだか妙な気分だった
一方氷室は、ぴくり、と
の言葉に反応していたが、それをには悟られないように必死の努力中だった
、と
彼は今、そう呼んだ
が、お気に入りの生徒を名前で呼ぶのは知っている
そういえば親しみやすいと人気の教師だったっけ
氷室から言わせれば、馴れ馴れしすぎるのではないかと思うのだが
特に、今 猛烈にそう思うのは、彼がを名前で呼んだからか
本人は、さして不快に感じていないようだし、
彼が仲のいい生徒達を名前で呼んでいるのは有名なことで、
むしろ嬉しいことだと受け入れている生徒は多い
「コホン、君は先生と仲がいいのか」
「ふぇ?」
テスト範囲を生徒手帳に書き写していたが 急の質問に顔を上げた
「・・・・いや」
つい口をついて言ったが、やはり変な質問だっただろうか
氷室は居心地悪く、もう一度せき払いをした
「私 今月は体育当番なんです」
だから手伝いが多いんだと、は氷室を見上げて笑った
もしかして、ちょっと気にしてくれているのだろうか
自分より仲のいい先生がいるのか、と妬いてくれたりしているのだろうか
「そうか」
だが、氷室の表情はいつも通りの鉄仮面だったし、言葉からは何も読み取れなかった
(ちぇっ
 先生が妬くわけないかぁ・・・)
期待する方がおかしいか、と
は苦笑して、それから生徒手帳を閉じた
「じゃね、先生」
そして、氷室にピラピラと手を振ると 廊下を走っていった
その後ろ姿を見ながら、氷室は溜め息を吐く
どうも、を意識しすぎている
なんとかしなくては、と思っているのに 日に日にひどくなるのは何故か
どうしたらいいのだ、と
氷室は今や、悩んでいる

職員室に戻ると、がにこにこして近付いてきた
は可愛い生徒だな
 いつも笑ってるところとか、一生懸命なところとか」
は笑っていった
氷室の胸に、いい様のない不快感が広がる
「怖いもの知らずというか何というか、あの性格がいい
 平均台の上で側転をした時には正直いって驚きましたよ」
得意気に、自分の知らない体育の授業中のの様子をペラペラと語られて
氷室はイライラと相手の顔を見た
は当番も文句一つ言わずにしてくれるし、頼むこちらも、頼みやすい
 まったく可愛い子だ」
まるでが自分のものであるかのように話すのも気に入らない
そして、
、と
名前で呼ぶのが耐えられない
氷室が嫌味の一つも言ってやろうかと、口を開こうとした途端 がああ、と
思い出したように言った
「今度のH.Rでのクラス対抗球技大会ですが、準備にを借りていいですか?
 あの子なら嫌がらずにやってくれると思うんですが」
それで、イライラもピークに達していた氷室は溜め息と共に言葉を一気に吐き出した
「どうぞ、御自由に
 H.Rの前は昼休みですからどう使おうとの自由です
 彼女に直接、言ってください」
の、と
意識してそこを強調したが、どうやらには通じていないようだった
「そうですか、ありがとうございます
 じゃあ、はお借りします」
そうして、去っていくの後ろ姿にイライラしながら 氷室は打倒学級と心の中でつぶやいた
今度のH.Rは2年生の体育委員主催の球技大会
種目は男子サッカー、女子バスケット
対抗というよりかは、親睦をはかるためのものなのだが、今の氷室にはそんな意識はなかった
のクラスを叩き潰す
イライラとして、氷室は席についた
決戦は今週末

さて、球技大会の日
の宣告通り は手伝いにかり出され、昼休み返上でグランドにラインをひいたりボールを出してきたりと忙しかった
(氷室先生いるかと思ったのにいない〜)
的には、担任の先生は皆 何かしらの準備でこの場にいると思っていたのだが そういうわけではないようで、見渡すかぎりと、体育委員、そしてのように手伝いにかり出された数名の生徒しかいない
(つまんなーい)
グランドの真ん中で、大きくのびをした
今日は数学の授業がなかったから朝のS.H.Rでしか氷室を見ていなくて、つまらない
球技大会が始まれば見れるのだけれど、競技でそれどころではないだろうし
何より少しでも長く氷室を見ていたかった

やがて、競技がはじまった
は最初の試合に出て勝ち、その後は男子の応援に回った
グランドに2面、サッカーのフィールドの小さい版をとって、右ではのクラスが
左ではまどかのクラスが試合をしている
(どっちも応援したいよ〜)
思って奈津実と二人で、二つのコートの間をいったりきたりしていた
しばらくすると、ボール拾いがたりないとに呼ばれた
「遠くに飛んでいったボールを拾ってくれ」
「はーい」
男子の試合は白熱して、ボールはバンバンラインを超えて飛んでくる
「も〜とばしすぎーーーっ」
何度も遠くへ転がっていったボールを追い掛けて、ゴールの側にあるボール入れに入れた
その様子を側で得点をつけながら見ている氷室は、平静を装いながら実は内心ひやひやしていた
さっきから何度もの側をボールがかすめるのだ
当たりはしないけれど、気になる
男子は本気でやっているし、飛んでくるボールはものすごいスピードなのだ
もし当たったらどうするのだ
もう少し気をつけて拾いに行きなさい、と
注意しようとした時だった
っ、危ないっ」
コートから、まどかの声が飛んできた
側で女子の悲鳴が上がる
シュートだと言って蹴ったボールがそれて、猛烈な勢いでに向かって飛んできている
同時に、氷室は動いていた
我ながら、よく動けたものだと感心する
ばかり見ていたから そのおかげか
思った時には バシンっ、と腕に痛みが走って
もう片方の腕で、の身体を抱き寄せた
っっ」
「先生っ」
ばたばたと何人かの生徒達が走ってきた
「せんせ・・・」
自分の腕の中で、が驚いたようにこちらを見上げていた
よかった
には、ボールは当たらなかったようだ
「あぶねーーーっ、さん 大丈夫か?」
、怪我してへんか?」
試合を止めて、男子もわらわらと走ってきた
「だ・・・大丈夫
 先生が・・・」
ドキドキした
まどかの声が聞こえて、ボールが飛んでくるのが見えたけれど自分ではどうしようもなかったから ぎゅっと目をつぶった
途端に、氷室に抱かれた
痛みはまったくなかった
そして目をあけたら、こんなに側に氷室がいる
「先生大丈夫?
 手にあたった?」
は、氷室の自分を抱いているのではない方の手に取る
それで、氷室がの身体を放した
「問題ない、大丈夫だ」
「あっ、スーツが汚れてるーーっ
 手は? 怪我してない?」
ぐいっとスーツの袖をめくられて、氷室は苦笑した
「大丈夫だ」
心配してくれるのは嬉しいが、おかげで試合が中断してしまっているし、
何より恥ずかしい
が無事だったのだから、それでいい
「試合を続けろ
 それから、このボール入れはもっとこちらへ移動させるように」
こんなゴールの側にボール入れがあるから ボ−ルを入れに行ったが怪我をしそうになったのだ
それくらい予想できるだろうに、と
氷室は溜め息をついて、向こうのコートで女子のバスケの審判をしているを見た
のことを抜きにしても、氷室はのことは好きになれそうもない

その日、のクラスは見事優勝を勝ち取った
「まかせてよっ」
そういえば、体育祭でも大活躍だった体育系のクラスだった
久しぶりのクラス対抗ものに、俄然燃えたようで 皆イキイキとした顔をしていた
「素晴らしい、それでこそ氷室学級だ」
そして、のクラスは結局最下位
ふふん、と
たまったものがすっきりした気がして、氷室は気持ちよく微笑した
この結果は大変気分がいい

「せんせーっ」
放課後、が職員室へやってきた
「先生、保健室行った?」
「いや」
「腕、はれてない?」
「大丈夫だ、心配ない」
「うそだーっ、
 だってバシーってすごい音してたもんっ」
「大丈夫だ」
言うのもきかず、は氷室の腕をとった
またしてもスーツの袖をめくろうとする
「こら、やめなさい」
「だめー
 先生は私を守ってくれたんだから、手当てくらいしなくっちゃ」
「いいと言っているだろう」
だが、言ってきくようなではなかった
保健室から借りてきたのか 救急箱まで用意している
まったく、と
氷室は苦笑した
「あんっ、もぉっ、めくれないーーー」
(・・・・・当然だな)
スーツのそでを折ろうなどと無駄なことを、と
思っていると、今度ははスーツごと脱がしにかかった
襟の部分をもって、無理矢理に脱がせようとひっぱっている
「こらっ、っ」
慌てて氷室はの腕を掴んで抵抗した
まったく何をしだすのやら
本気での行動は予測ができない
「だってーーーっ
 先生が心配なんだもんっ
 先生 私のせいで怪我しちゃったんだもんっ」
氷室に腕をつかまれて、は今にも泣き出しそうな声で言った
目に涙を浮かべている
そんなにクラリ、と
氷室は目眩に似たものを感じた
ダメだ
自分はどうかしている
本当にどうかしている
今、を抱きしめたいと思ってしまった
こんな風に心配だと言ってくれることが愛しくて、嬉しくてたまらない
「わかったから・・・」
観念して、氷室は自分でスーツの上着を脱いだ
シャツの袖のボタンをはずして、腕まくりをする
「あーっ、やっぱりはれてるっっ」
「たいしたことはない」
「あるーーーーっ
 先生の大事な腕なのにーーっ
 ピアノ弾けなくなったらどうするのよーーっ」
耳もとで叫んだに、氷室は顔をしかめる
「君が怪我をするよりはずっといい」
それで、言った後せき払いをした
が真っ赤になったのを、また愛しいと感じた

それからは氷室の腕にシップを貼って包帯を巻いた
「大袈裟な・・・」
「いいのー、これくらいで」
できあがった処置に、は満足気に笑う
守ってもらった瞬間、とてもドキドキして嬉しかったのだ
氷室の腕の感覚がまだ残っている気がするし、
何より、自分を犠牲にして庇ってくれたのが嬉しかった
だがすぐに、サー、と血がひく思いがしたのだ
氷室が怪我をしてしまった
自分の代わりに
自分がちゃんと注意してボール拾いをしていなかったせいで
「先生ごめんね
 私がもっとちゃんと周りを見てたら良かったのに」
「いや、君だけが悪いんじゃない
 あんな場所にボール入れを置いた先生にも責任がある
 今回のことに関しては、君は何も気にしなくていい」
優しく微笑され、はまた赤くなった
ああ、やっぱり好きだ
自分は氷室が大好きだ
こんな風に微笑まれると顔が勝手に赤くなる
いつも怒ったような顔をしているから余計に笑った顔が貴重で、嬉しかった
しかも今は、自分に笑いかけてくれている
は、もう帰れるのか?」
「はい、先生は?」
「私ももう帰る」
「じゃ一緒に・・・」
最後まで言い終わらないうちに、氷室がうなずいて立ち上がった
「送っていく」
またドキっとした
家までの距離 氷室と二人きりでいられる
少しでも長く、少しでも多く氷室と一緒にいたい
先にたって歩く氷室の後ろ姿を追い掛けながらは胸を踊らせた
それはまた、氷室も同じであったけれどお互いに、
まだお互いの気持ちを知らない
似たような想いを抱えてそれぞれに、もう人気のない廊下を歩いてゆくのである


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理