将来の夢 (氷×主)


今日の国語の授業で作文の宿題が出た
将来の夢
高校2年にもなって、まるで小学生みたいなテーマだと思いながらも、
3年になったら嫌でも進路を決めなくてはならない、その準備なのかな、とも思う
将来の夢
の夢は、昔からひとつしかなかった
女の子なら誰でも最初にそう言う
「お嫁さん」

放課後、クラブの後、鍵を返しに職員室へ行くとドアのところで氷室とはちあわせた
「ひゃんっ」
背の高い氷室の胸あたりに顔をぶつけてはフラリとよろめいた
・・・気をつけなさい」
とっさに腕を支えてくれた氷室が、呆れたような声で言う
「ふぁい」
見上げたら、可笑しそうに笑った氷室がいた
「帰るのか
 私も今から帰るが・・・」
「えっ、じゃあ一緒に帰りましょっ」
氷室の言葉に嬉しくなって言った
予想していたのか、かまわない、と
言うと氷室はそのまま職員室を出た
慌てて鍵を返して、も後につづく
氷室とこうして一緒に帰るのは、とてもとてもくすぐったくて嬉しい

帰り道、助手席からは何度も氷室の顔をチラリと見た
今は教師という仕事をしている氷室だが、学生の頃からそういう夢を持っていたのだろうか
「どうした、私に何か聞きたいのか?」
「え?!」
「そういう顔をしているが?」
盗み見していたのがバレていたのか、氷室は前を見たまま苦笑していた
「何だ?」
「えーと・・・・先生の夢って何でしたか?」
「夢・・・?」
怪訝そうに、氷室が眉を寄せた
「先生は先生になりたかったから先生になったの?
 音楽の道に進もうとかって思わなかった?」
今日、作文の宿題が出たのだとは言って氷室を見た
吹奏楽部の顧問で、その活動に力を入れていて
氷室の育てた生徒達は優秀で、申し分ないハーモニーを奏でる
自身もピアノがうまくて、音楽を愛している
そんな氷室は、どうしてその道ではなく教師への道を選んだのだろう
「音楽か・・・・・
 あれは仕事にするものではないな」
氷室は微笑した
ひとりごとのように、前を向きながら
「私は以前は別の道を目指したいと思ったこともあったが・・・
 思い直して、教職を選んだ」
「別の道って? なんでめたの?」
「・・・・・・才能の問題だな」
「へ?」
コホン、と
いつものせき払いが聞こえた
見るとどことなく照れているようで、それ以上は氷室は話す気はないようだった
は、将来は何になりたいんだ?」
「え?!」
突然、自分にふられては真っ赤になった
お嫁さんだなんて子供っぽい夢は、言えない
高校生にもなったら、皆大抵 もっと具体的な職業を言う
OLとか、アナウンサーとか色々
「えー・・・と、雑貨屋さんとか・・・」
口をついて出てきたのは、このあいだの文化祭でのバザーが楽しくて、
手芸部の皆と雑貨屋さんをやりたいなどと話していたからだった
「雑貨屋・・・・?」
ふむ、と
氷室は意外な答えに笑った
「だがまずは、進路を決めるのが先だな
 大学へ進学するのか、専門学校へ行くのか、就職するのか」
そして急に、教師の顔に戻る
「そうだよね・・・
 3年になったら進路決めなきゃならないんだよね・・・」
は大きく溜め息をついた
今の段階で、何がしたいなどと具体的に考えたことがない
進路といわれても、ピンとこないのである
「先生はどうやって大学を決めたの?」
「成績で」
簡潔な答えが返ってきた
「うわぁ・・・頭良かったんだぁ」
「良い悪いの問題でない
 必要なことをするかしないかだ」
「ちなみにどこの大学ですか?」
「もちろん一流大学だ」
想像していた答えに、は笑った
氷室らしい
あんまり氷室らしくて、おかしかった
「楽しかった? 大学」
「ああ、友人も多くできたしな」
自由な校風で、勉強以外のやりたいことものびのびとできた
音楽も、目指したものも
「いいなぁ、私もそこに行こうかなっ」
氷室の顔を見て、は言った
氷室の卒業した大学へ行ったら、氷室の後輩になれるということか
氷室が過ごしたキャンパスで
氷室が授業を受けた教室
想像すると、楽しかった
「・・・・・・・・それもいい」
見ると氷室は満足気に笑っていた
「でも私じゃ入れないかも」
「いや、今のまま頑張れば狙えない学力じゃない」
教師の顔をして、まるで進路相談みたいに氷室は言った
が自分と同じ大学へ行く
気まぐれに言っただけかもしれないその言葉が氷室には嬉しくて仕方がなかった
一流大学へ進学
今のがこのままこの調子で成績をのばしていけば、それは冗談ではなく本気で合格できると思うのだ
だから一層、嬉しい
「あそこはいいところだ」
「先生の母校だもんね〜」
にこりっ
明るい顔で言ったが愛しかった
本当に、そうなったらいいと思う
自分が色々なことを学んだあの場所で、が笑う
想像して、氷室は温かい気持ちになった

が車を下りた後も、氷室はそのことを考えていた
3年生になってが進路を決める段階になって
もし彼女が一流大学への進学を希望したら、それはどんなに嬉しいことだろう
キャンパスを楽し気に走る少女
想像に、氷室は微笑した
同時に、チクリと胸が痛んだのを感じる
その時には、卒業という形で、彼女はもう自分の側にはいないのだけれど
自嘲気味に氷室は溜め息をついてつぶやいた
「生徒はいつか卒業するものだ・・・」
車は走る
複雑に思考する、氷室を乗せて


車内で。車で送ってくれるってエロいですよね〜先生ってば(笑)

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