ダイエット騒動 (氷×主)


最近、の様子がおかしい
授業中もどこかボンヤリして勉強に身が入らない様子である
時々うつむいたり、溜め息をついたりしているのもよく見かける
(・・・どうかしたのか?)
顔色も、そういえば良くないような気がする
何か悩みでもあるのだろうか
氷室はその日の帰り、下校しようとしたを捕まえた

車でを家まで送りながら、氷室はそれとなく聞いてみる
「最近、元気がないようだが」
警戒心を与えないよう、自然にさりげなく言う
するとはハァ・・・とまた溜め息をついた
「どうした?」
おもわずの顔を見た
「なんでもないです
 私、甘いものとか好きだからなんか最近太っちゃって・・・
 嫌だなぁ、もうすぐ体重測定なのに〜」
助手席でつぶやくに、氷室は苦笑する
この年頃の女の子はいつでもそうだ
たいして太っていないのに、太った太ったと
そんなに痩せているのがいいのか、皆なぜかガリガリを目指してダイエットなどに励んでいる
「君の年齢と身長からしてけして太っているとは言えないが」
「そんなことないもんっ
 先生は男だから女の子の気持ちがわからないんだもんっ」
「・・・・とにかく」
反論を続けようとしたを遮って氷室はいった
「とにかく、ダイエットをしようなどとは思わないように
 君はそのままで充分魅力的だ」
一瞬、の動きが止まって顔が真っ赤になった
「コホン、
 痩せ過ぎている女性というものには魅力を感じない
 ・・・私個人の意見だが・・・」
慌てて、氷室は言う
最近どうも、ポロっと思ったことを言ってしまうのだ
相手は生徒だというのに、どうも女性を相手にしているようなことまで口から出てくる
相当にきているな、と自分に苦笑しながら氷室は珍しく恥ずかしがってうつむいているを見た
太っているなどとは思えないが
そういえば、頬のあたりが以前よりふっくらしてきたか

それから数日後、授業中にあてられたが、立ち上がって黒板へ向かう途中に倒れた
っ?!」
慌てて駆け寄って、その身体を抱き起こして氷室はの身体を抱き上げた
教室内が騒然とする
何人かの仲のいい女の子が、心配気に側へ寄ってきた
「私はを保健室へ連れていくから、君たちは問題集の続きを解いておくように
 36ページまで残った分は宿題にする」
言い残して、氷室は教室を出た
は気を失っているようで、今はぴくりとも動かない
まさか本当にダイエットをしていたのだろうか
ロクに食べていないのだろうか
倒れる程に弱ってしまったら何にもならないではないか
そんなこともわからないわけではあるまいに
このあいだ自分が言ったことを聞いていなかったのか

グルグルと頭の中でさんざん心配しながら、氷室は保健室へとを運んだ
「あら・・・・貧血ですか?」
「わかりません、急に倒れたんですが・・・」
が倒れた時の状況を説明して、それから氷室はダイエットのことでと話したことがあると告げた
「ダイエットねぇ・・・」
保険医は、ベッドに寝かせたの熱を計って脈を取った
それから、首元に手を触れた
途端にぱち・・・とが起きて、それからイタ、と
小さく声を上げた
「あなた倒れたのよ、覚えてる?」
「え・・・・・?」
身体を起こして、は心配気にこちらを見ている氷室を見付けた
それで教室でのことをうっすらと思い出す
、まさかダイエットをしてるんじゃないだろうな」
といつめるような口調に、は首をすくめた
学校で倒れるなんて、自分でもびっくりした
ダイエットをしている、というわけではないのだけれど、食べることができない
くだらない、と
きっと氷室は怒るだろう
それでもにとっては重要な理由で、最近は食事ができない
「そういうわけじゃないんです・・・・・」
上目づかいに保険医を見上げた
彼女の目がの表情から何かを読み取ったかのような顔をして、
それから呆れたように言った
「私は助けてあげられませんよ
 さん、子供みたいなことを言っていないで病院へ行ってきなさい」
「う・・・・・・」
やれやれ、と
保険医は、の側から離れてコップに赤い液体を入れて持って来た
「これで口を濯いで
 少しは痛みがマシになるでしょう」
「えっ、本当?」
「あの・・・・・・」
保険医とのやりとりを見ていた氷室が間に割って入った
「病院とは・・・?
 は大丈夫なんですか?」
ダイエットではないとすると何なのだ
女同士にしかわからない何かか
それとも自分が思い付かないようなことなのか
「歯ですよ、歯
 虫歯を放っておいたら怖いのよ、ちゃんと治してらっしゃい」
「は?!」

唖然として、氷室はを見た
つまり、歯が痛かったと?
それで食事ができずに空腹で倒れたと?
「ちがうもんっ
 歯が痛くて気が遠くなったんだもんっ」
訂正したを、氷室はにらみつけた
「バカ者!
 どちらも同じだ、君はそれでも高校生か?!」
「ひぇっ」
身をすくめて、がおどおどと氷室を見た
「だって歯医者って怖くて・・・・・」
「何を子供みたいなことを
 ほら、行くぞ」
「えぇ?! 今から?!」
「当然だ」
言い放った氷室に、は反抗的な目を見せた
「いやだもんっ
 行かない・・・・・・・・・・」
はっし、とベッドのシーツをつかんで、上目遣いで臨戦状態
あんまり呆れて、
心配した自分は何だったんだ、とバカらしくなって
氷室は大きく溜め息をついた
「君は子供か、いいかげんにいなさい」
「子供だもんっ」
何がなんでも動かない気のに、氷室はつかつかと近寄った
「うっ・・・」
が身構える
まったく、歯医者くらいでここまでの騒動を起こしておいて
の言動一つ一つに右往左往させられているこちらの身にもなってもらいたいものだ
シーツをしっかりとつかんでいるの手を掴んで、ぐい、とひっぱった
「やーーーんっっ」
所詮女の子の力だ
大人の男である自分が本気を出すまでもなく、いとも簡単にその手はシーツからひっぺがされた
「いやーーー先生見逃して〜」
「・・・・・・いいかげんに諦めなさい」
まだジタジタと暴れるを、
先程そうしてきたように、抱き上げた
「きゃぁっっ」
驚いて、は今度は氷室にしがみついてきた
「な・・・何っ?!
 せ・・・・先生?!!!」
一体、をこんな風に運ぶのは何度目か
思えば世話のやける生徒である
「このまま歯医者まで連れていく」
「えぇーーーーーーーーーーーーっっ?!!!」
保険医に礼を言って、氷室はを抱いたまま保健室を出た
さて、ここから一番近い歯医者はどこだったか
未だわめきながら、それでもしっかりと氷室にしがみついている
やがて疲れたのか観念いたのか、大人しくなった
「痛くないとこにしてねっ、ねっ、先生っ」
「そこまで放っておいたら、何をしても痛いだろうな」
「そんなぁっ」
「まぁ、罰だと思って耐えることだ」
「・・・・・先生のいじわる・・・・・」
が涙声になって、氷室は苦笑した
まったく、子供っぽい面の多い生徒だとは思っていたが、
ここまで子供な面ははじめてみた、と
新たな発見に呆れて、氷室は苦笑した
やがて学校の近所の歯医者へと到着する

1時間後、ぐったりした様子では氷室のところへ戻ってきた
「痛かった・・・・・・」
じとっとこちらを見上げてのセリフに、当然だ、と
答えて氷室は笑った
まったく、人騒がせなことだ
虫歯くらいでこんなにも大騒ぎ
結局授業をほったらかして、歯医者のつきそいをしてしまった
「帰るぞ、まだ授業が残っているだろう」
「歩けないもん」
「・・・・・
ソファに座って、がこちらを見ている
どこか拗ねたような顔に、苦笑した
「まったく君はたいした生徒だ」
これは完全に自分の負けだ
もう一度を抱き上げて氷室は再び歯医者を出た
「お姫様みたーーーいっ」
行きのメソメソはどこへやら、
帰りははしゃいだ様子のに、氷室は苦笑の連続である
「先生力持ち〜
 私、重くない?」
「重くなどないと言っているだろう
 ダイエットなど必要ない、歯が治ったらちゃんと食べるように」
「はぁいっ」
それから、と
氷室は今度は咎めるような顔をした
「今後、二度とこのようなことがないように
 君は半年に一度 歯科の定期検診をするように」
「えぇ?!」
「今度虫歯を放っておいたら、私が特別に麻酔なしで治療してもらえるように頼んでやろう」
「そんなぁっ、痛みで死んじゃうーーーっ」
「だったら虫歯なんか作って放っておくんじゃない」
「ふえーんっ」
氷室に抱かれながら、泣きべそをかいては定期検診を約束させられ
虫歯ごときで振り回された氷室は、それで当面は仕返しができた
「まったく君は、まるで確信犯だ・・・」
小さなつぶやきは、歯医者のことで頭がいっぱいのには届かなかった
二人は仲良く、学校へ戻る
昼前の、のどかな道を


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