文化祭 (氷×主)


文化祭の季節がやってきた
達手芸部は、3年が引退して、達が主導権を握っていた
毎年特に何の出し物もしない手芸部だったが、今年は達が中心となって張り切っていた
バザーをやるのだ
自分達で作った小物やアクセサリーや服など
それから、特別に調理室を借りてクッキーも焼くことにした
「繁盛するといいね〜」
「するって! 絶対!」
1年の時は文化祭委員なんてものをして大変だったが、今年はそんなこともなく
クラスの出し物は巨大建造物で、校庭にでっかい時計塔を作ることになっている
時間になったら時計の下のステージで、オルゴールの人形に扮した男子と女子がダンスを踊る
そんなパフォーマンス付きのものだった
にわりあてられた仕事は、オルゴールの人形風の可愛いドレスを作ること
男の子はピーターパンで、女の子がウェンディ
一応そんな設定があるようで、は絵本を片手に今、デザインをきめているところである
ステージと時計塔は男子が設計して、木材から作りはじめている
脚立に乗って、校庭での作業で
先にカラフルにペンキで色付けされた木材を組み立てながら、それは日に日に完成していく
クラブの準備もあるものの、クラスのことも放っておけなくて、は毎日のようにペンキ塗りやら何やらで居残りをしていた
側ではダンスの子が練習を、
音楽の子が演奏の練習を繰り返していて、校庭はいつもにぎやかである

さて、本番
ダンスは1時間ごとに、きっかりの時間にはじまる
それまでは、クラブにいてもいいと言われ、去年はまったく見てまわれなかったものをウロウロとした
パンフレットには、そろそろ吹奏楽部の演奏が始まると書いてある
(・・・先生、今年もあんまりクラスのこと見てくれなかったなぁ・・・)
去年、自分が委員をしていた時にも あまり手伝ってくれなかった
生徒達でやる文化祭だから当然なのだが、それでも他のクラスの先生は一緒に作業したりしている
それを見ると、少し寂しい気持ちになって、
それから 氷室がかかりきりになっている吹奏楽部がうらやましかった
そう、氷室はクラスよりも吹奏楽部が大切なのだ
クラブに力を入れている先生として有名だし、吹奏楽部はコンテストで賞を取るくらいにうまい
きっと、クラスの出し物にかまっていられない程に練習も高度で、今から始まる演奏も素晴らしいものなのだ
講堂に入って、は一番後ろで立って見た
舞台がよく見える
今はじまったばかりのようで、重厚な演奏が響いていた
(すごいな〜これ高校生が演奏してるんだよね〜)
圧巻である
音楽というものが身近でないにとって、それは遠い遠い世界に感じる
(・・・・先生と私って合わないんだなぁ・・・・)
溜め息をついた
クラスの出し物では、一生懸命頑張っても氷室と何かをわかちあうことはできない
吹奏楽でなければダメなのだろうか
舞台に立ち指揮をする氷室の後ろ姿を見つめながら、はいい様のない切なさに襲われた
(先生って遠いなぁ・・・・)
あの舞台の上に自分がいたら、氷室の顔を見て、氷室の指揮のままに演奏をして
氷室と一つのものを作り上げることができるのに
自分はここで、後ろ姿を見ていることしかできない
舞台はこんなにも、遠い

何曲か演奏が終わり、氷室が初めてこちらを向いた
客の拍手の中、一礼する
顔を上げた時、ふとこちらを見た気がした
(・・・・見えてるのかな)
小さく手を振った
切なさが、一気に胸を支配した

氷室はクラブの発表を終えて、それから13時のクラスのダンスを見に行った
今年も結局、クラブにかまいすぎていて何もしてやれなかった
それでも立派にカラフルな時計塔を作り上げ、ダンスの練習も演奏も完璧
衣装もピーターパン風に見事に出来上がっていた
すでに朝の10時から何度もダンスを披露していて、先生方や客からは評判上々
パフォーマンス部門と巨大建築部門の二つで賞を取るのではないかといわれている程だ
氷室は朝からクラブにかかりっきりで、これを見るのははじめてだった
二階の窓から校庭を見下ろす
そろそろはじまる様子で、時計塔のまわりには人が集まりだしていた
13時を告げる鐘が鳴り、音楽が始まり、ダンスがはじまる
2分程でダンスはおわり、時計塔の奥へと人形に扮した生徒は帰っていった
「皆さまありがとうございます
 次の時間は2時です」
わらわらと帰っていく客、時計塔の前で写真を取る客
それらを見ながら氷室は感心して苦笑した
たいしたものだと思う
これだけの巨大な建築物を作り上げ、それだけではなくパフォ−マンスまで行う
大変だっただろう、と
氷室はクラスをかまってやれなかったことに恥じた
去年もたしか、そう思ったはずだった
思い至って、氷室はの顔を思い出した
さっきの舞台で、
曲の後、を見た
一番後ろで立っていたから目立っていた
が吹奏楽など聞きに来るなんて珍しくて
嬉しくなったのだが、あの時のはとても
なんというか、寂しそうな顔をしていた
いつものようにヒラヒラと、小さくこちらに向かって手を振ったものの
その顔がどこか辛そうだった
それは遠目の錯角だろうか

気なって、氷室はを探していたのだが、このパフォーマンスは当番じゃないのか校庭にはいなかった
は次の当番だから、それまでクラブの方にいってますよ」
誰かが教えてくれて、それで今朝みたパンフレットのデータを記憶の隅からひっぱってきた
の手芸部はたしか、今年はじめて文化祭で店を出すのだ
手作り品のバザーだとかで、3階の調理室の隣の教室でやっているはずだった
わいわいと、人がたくさんいる
ちょうどクッキーが焼けたのか あたりにいい匂いが立ちこめていた
「すごい人だな・・・」
客はやはり女の子が多く、中にはクマのヌイグルミや手編みのマフラーや帽子、小物入れからバッグ、アクセサリーに至るまで何でもかんでも ところせましと並べられている
「あっ、先生っ、いらっしゃいませー」
氷室が中に入ると、奥からが出てきた
その様子には、いつもの元気がないように思われる
普段通りにふるまってはいるが、どこか無理をしている気がする
そう思った
だが、それよりも
「・・・・・?!」
の格好に、一瞬氷室の動きがとまった
なんだ、それは
一体何の格好だ
予想外のことに、急には対処できなかった
一体どうしてそんな服をきているんだ?
言いたかったが、言葉にならなかった
体温が上がる気がした
「えへへ、可愛い〜?」
くるくる、と目の前でが回った
自慢気に、販売衣装なのだろう そのふりふりの服を見せている
「それは・・・何だ・・・」
「これはメイド服〜!!!」
「メイド?!」
必死で顔が赤くなるのをこらえた
落ち着くためにせき払いを一つする
一年の時にがクラスの女子全員に作ったウェイトレスのエプロンなんかよりも全然しっかりした衣装
清楚なイメージを与えるそのメイド服は、どうやら氷室の好みにぴったりらしい
「可愛い?」
動揺を必死に押さえている氷室の顔を覗き込んでは言った
「そ・・・そうだな、似合っている」
コホン、とせき払いをした
「私は好きだ」
それでようやく、が笑った
とても、嬉しそうに

その日、二人の心にそれぞれに、
切なさと、愛おしさと、わずかに動揺が響いていた
2年目の文化祭が終わろうとしている


「メイド服です☆」
コ・・・コスプレさせてしまった(笑)
メイド服は男のロマンなんですよっ、許してください〜(´△`;)

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