恋愛相談 (氷×主)


夏休みも終わりに近付いたある日
氷室は園芸部に出ていた桜弥に花壇の側で会った
その日は桜弥が一人で水撒きをしていて、
氷室はたまたまクラブの帰りだった
「守村・・・・・花壇が水浸しだが大丈夫なのか?」
どこかボンヤリとホースを掴んで宙を見ている様子に、氷室が声をかける
氷室が桜弥に気付いてこちらへ歩いてくる間中、桜弥の持つホースは、一ケ所へと勢い良く水をまき続けているのだ
今も、
「え・・・?! あ、氷室先生」
我に返って、桜弥は笑った
「水たまりになっているが・・・」
あきれて、氷室はせきばらいを一つした
「え?! あっ」
ようやく事態に気付いたのか、桜弥は慌てて水をとめに走った
その様子に苦笑して、氷室はわたわたとしている桜弥に声をかける
「どうした、何か心配事でもあるのか」
いつも落ち着いている桜弥とは思えない様子だった
あまりにもぼんやりしすぎている
何かあったのか、と
氷室の言葉に 桜弥は一瞬すがるような目をして
それから、意を決したように口を開いた

「あの、さんってつきあっている人、いると思いますか?」

季節は夏
夕方といってもまだ暑い
だらける空気の中、氷室は唖然として桜弥を見た
聞き間違いか?
今、桜弥は何といった
「・・・・・が?」
とりあえず、聞き直してみた
「先生は1年の時もさんの担任でしたよね
 さん、姫条君と仲がいいですけど、あの二人はつきあってるんでしょうか?」
桜弥はいたって真剣で、
まっすぐに自分をみつめるその目に、氷室は目眩を覚えた
がまどかとつきあっているかって?
そんなこと知らない
こっちが教えてほしいくらいだ
「・・・生憎、そういうことは知らないが」
とりあえず、そう言った
そうですか、と桜弥は肩を落とし、そして溜め息をついた
完全に、恋する者の顔になっている
そういう気はしていたが、どうやら桜弥はが好きなようだ
わからないでもない
あれだけ可愛くて、あれだけ明るくて、あれだけ人なつこければ誰だって
同級生ならなおさら、好きになるだろう
恋をするには充分な相手だ
という生徒は
「あの二人、クラスも違うのにすごく仲がいいんです
 僕は最近仲良くなったんで、どうしても姫条くんにはかなわなくて・・・」
溜め息まじりに桜弥は言った
驚いた
大人しそうな印象の、優等生の桜弥が、こんな風に恋の悩みを打ち明けてくるとは
そして、
うらやましかった
こんなにも、が好きなんだと素直に言えることが
「す・・・すみません
 急にこんな話してしまって・・・」
「いや、いい」

夏のあつい空気の中、申し訳なさそうに桜弥がうつむいた
それから力なく笑って、もう一度ホースから水を出した
今度はまんべんなく、水がかかる
それを後にして、氷室は溜め息をついた
のことを好きだと思っている男子生徒は一体何人程いるのだろうか
彼らは少なくとも、堂々と言える
が好きだと
それだけで、充分贅沢だと氷室はひとりごちた
夏のあつさに、普段は意識して止めている思考が流れ出している
自分は、とめなくては

廊下の窓から、校門が見えた
クラブを終えて帰っていく生徒の中に とまどかもいた
仲良く並んで歩いている
「あの二人、つきあっているんですか?」
桜弥の言葉を思い出して舌打ちする
「そんなこと、私がききたい」
高校2年ともなれば、恋のひとつや二つするだろう
誰かとつきあったり、告白したりされたりもあるだろう
のように、いい子ならなおさら
(・・・・・私には関係ない)
溜め息をついて、氷室はその場から離れた
これはお気に入りの生徒に対する、父親的な思考なのだ
けしてそれ以上ではない
そうであってはいけない

暑さで手放しかけた戒めに似た理性を取り戻して、氷室は職員室へ戻った
あと数日で夏休みが終わる
可愛い生徒であるのいる教室で、授業をする
自分にはそれで充分だ
教師として、他に望むものは何もない


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