花まる (氷×主)


夏休み
今年は見事、テストで70点以上という快挙をなしとげ、は休みをまるまるゲットした
「守村くんのおかげ〜っっ」
「そんな、さんが頑張ったからですよ〜」
桜弥と二人、手をとりあって喜びあったのは つい2週間程前
8月に入って、恒例の数学の補習が始まっても は休みを満喫していた

その日は数学補習の最後の日
補習メンバーにめでたく入っていないには、そんな日程、知るはずもないのだが
その日はクラブで学校に出てきていた
昼頃、クラブを終え鍵を返しに職員室へ行くと、一人の教師がバタバタと忙しそうに走り回っている
「ああっ、さんっ、いいところに来てくれたわっっ」
「?」
その教師はへと走りより、その手をしっかりとつかむと必死の形相でいった
「あなたクラブは終わったのよね?
 今日は急いで帰らなきゃいけないの?
 先生ね、急用で帰らなくちゃいけないんだけど、氷室先生の補習が終わる時間までここに誰かいなきゃいけないのよっ
 ね、あなた急いでないなら ほんの少しだけここで留守番しててくれない?」
一気にまくしたてられ、は目をぱちくりさせた
今は夏休み
昼過ぎという微妙な時間で、運動部の先生達は練習中
他の先生でここにいられる先生がいないのだろう
かといっていつ誰が戻ってくるかわからない職員室に鍵をかけて出るわけにはいかない、と
「・・・いいですよ」
あんまり先生が困っているので は苦笑して言った
「氷室先生の補習って何時に終わるんですか?」
「3時頃だって聞いてるわ
 それまで宜しくねっ」
本当に嬉しそうにして、その教師はもう一度の手を強く握ると、メモに事情を走り書きしてあわててかばんを掴んで出ていった
慌ただしかったのが、急に静かになる
「・・・変なことになったなぁ」
職員室の留守番
氷室が戻ってくる前に誰か他の先生が戻ってこれば帰ってもいいのだろうが、運動部は大抵夕方まで練習をしているし、
他に文科系で来ているクラブはなかった
夏休み明けに作品展をひかえている手芸部は、ここのところ毎日来ているけれど
「どーしよ・・・」
職員室
いざ、留守番しろと言われたら どこに座っていいのやら それさえわからない
キョロキョロと誰もいないその広い部屋を見回して、
は奥の一角へ歩いていった
氷室の席だ
担任の机なら、座っていても叱られないだろう
キィ、と椅子をひいて、座った
机の上は綺麗に片付けられていて、無駄なものが一切置いていない
「性格出てるなぁ」
がさがさと、隅の方に置いてあったプレントをひっぱりだして見た
数学の問題
見るとどうやら今回の補習用の問題らしい
「ふむふむ」
隙だったので、はペン立てからエンピツを取り出して問題を解き出した
夏休み前に必死でやった練習問題によく似た問題たち
夏休みに入ってからも、何度か桜弥と図書館で一緒に宿題をしたり、こないだのテストの復習をしたりしたのだ
ちゃんと頭に入っている
解き方も、公式も
(私って頭いい〜)
苦手な数学の問題が解けるということほど、気持ちのいいものはない
スラスラと、それでも注意深く片っ端から解いていって、とうとう最後の応用問題も解き終わった
「ふふ、私天才〜」
大きくノビをした
時計を見ても、まだ30分程しかたってない
「・・・・・・・」
早くも、暇になってしまって は机に頬杖をついた
「暇だなぁ・・・」
何か本を読もうにも、氷室の机に置いてある本は数学書ばかりで読む気にはならず、
かといって他の先生の机を漁るのは気がひけた
「つまんない・・・」
もう一度のびをして、それから机の上につっぷした
目をとじたら、授業中みたいに眠くなって、眠れるかもしれない

3時すぎ、職員室のドアが開いた
「・・・・?」
誰もいないことに不審に思って 氷室はそれから自分の席に生徒を一人見付けた
?」
机につっぷしてすやすやと眠っている生徒
他に誰かいないのか、と
氷室は辺りを見回した
ふと、当番だった先生の書き置きをみつける
急用で帰るから、に留守番を頼んだと走り書きしてあった
(それで・・・・)
それで、誰もいない職員室にがいるのか
なぜ自分の席で眠っているのか、それは謎だがともかく
氷室はを起こそうとして、そこに置いてある解かれた問題用紙を見付けた
「・・・これは・・・・」
今、まさに補習組に解かせてきたテスト問題だ
余った分をここに置いておいたのを、隙つぶしにでも解いてみたのか
以前なら考えられないことに、氷室は感動しつつそれを手に取った
となりの先生の机に座って、赤ペンを取る
上から順番に、採点した
だんだんと、感動が大きくなっていく
信じられない、とつぶやいた
最後の問題まで、完璧
一問の間違いもなく、正解だった
100点、と
名前の横に書きながら 氷室は満足気に微笑した
たとえ補習組用に作った問題で、基本問題が多いとはいっても、満点などなかなか取れるものではない
今回のテストで75点をとったは、
きっと夏休みに入っても、宿題や復習をしたのだろう
その結果がこれなのだろう

嬉しさに、声がうわずらないよう意識して氷室はを起こした
、起きなさい」
肩をかるく揺すると、ぱちとが目をあける
「あ・・・・・先生、補習終わった?」
寝起きの顔をしているところを見ると、こんなところで熟睡していたのか
おかしくて、氷室は笑った
「ああ、すまなかったな」
言って、先程の満点をの前にピラ、と出した
「え?」
「素晴らしい、満点だ」
誇らしかった
あのが、満点などと
教師として、担任として とても誇らしかった
「えぇ?! 何で?!!」
自分の答案に満点
氷室よりも驚いた顔をして、がそれを奪い取った
「え・・・・嘘じゃないよね・・・」
「嘘ではない」
満足気に微笑んだ氷室に、の顔が真っ赤になって、そしてみるみるうちに笑顔が広がった
「すごーーーいっ、私数学で100点なんて取るのはじめてっっ」
嬉しそうにはしゃいで、はキラキラした目で氷室を見上げた
「よくやった
 この問題など、あざやかだ」
最後の応用問題を指して、氷室が言い が嬉しそうに氷室を見た
「ねっ、先生
 これ花まる?」
「ん? そうだな、完璧だ」
「ねぇっ、だったら花まるしてっ、特大の花まるっっ」
「花まる・・・?」
されたことのない欲求に一瞬戸惑いながら、氷室はが差し出すプリントを受け取った
(・・・花まる・・・・?)
高校教師である氷室には、花まるなどした経験はないのだが
それでも期待の眼差しで見ているに負けて、赤ペンを取った
そっけなく普通にまるをつけていたところにぐるぐるとまるを足す
そして多分こうだろう、と
なんとなくで花まるをした
少々いびつになった気はしたが、
は嬉しそうにはしゃいでプリントを取り上げた
「きゃーーーーーーっ、花まるっ100点っ」
そしてそれを大事そうに鞄に入れて、にっりと笑った
「家に帰ったら飾るんだ〜」
その台詞がおかしくて笑った
はじめてつけた花まる
がはじめて取った100点
飾る程のものでは、と思いつつ 氷室も心底嬉しかった
が帰っていった後も、その喜びは残った

その日から、の部屋にはいびつな花まるのついた妙な答案用紙が飾られることになる
今度は本当のテストでの満点をめざして、ますますやる気になるために


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