バレンタイン (氷×主)


先程から、氷室は壊れたチョコレートを前に溜め息を繰り返していた
ブルーと白のリボンがかけられた小さな箱
彼女が持ってきた時、それはとても可愛らしくあったのだけれど今は見る影もなくひしゃげてしまい、中に入っていたチョコレートは壊れてしまっていた

今日は、バレンタインデーである

放課後のH.Rの後、教室から出たところをが追い掛けてきた
「先生っ」
ちょうど階段の側で彼女につかまり、何だ、と
答えたら 可愛くラッピングされた箱を渡された
「はいっ、バレンタインチョコっ」
差し出されたそれに、ああ、と
溜め息をついて、氷室はパタパタと側をかけていった生徒達を横目に見た
毎年毎年、女の子というものは飽きもせずによくやるものだ
この時期、授業中もどこかフワフワとした雰囲気が漂い、授業に身が入らない生徒が多くなる
仕方ないと言えば仕方ないのだろうが、教師としてはやはり気に入らない
チョコの心配をする暇があったら、少しでも勉強すれば良いものを
、教師へのチョコレートは職員室の箱へ入れておきなさい」
溜め息まじりに、氷室はいった
今日で何回目か
このセリフを言うのは
多少うんざりした様子で、氷室はの顔を見た
「後で先生方全員に配られる」
笑っていたの顔が、瞬間ムッとしたものに変わるのを感じる
表情が、よくコロコロと変わるものだと感心した
こんなときに、何だけれど
「私は先生にあげるっていってるのっ
 他の先生にあげるために作ったんじゃないんだから先生がもらってよ」
まるで突然テストを言い渡されたかのような、不満気な声
目にきつい色が浮かんだのを氷室は黙って見ていた
(・・・まったく毎年毎年・・・・)
「生徒からの贈答品は受け取れない」
こんなことには意欲を示すくせに、どうして授業中にこの姿勢が出ないのだ
今日も、クラス中の大半がいつにもましてボンヤリしていた
も例外ではなく、眠そうに何度も目を擦っていたのを見ている
「せっかく頑張って作ったのにっ」
「勉強で頑張ってもらった方が嬉しいんだが」
それが、決定的に彼女のかんに触ったのだろうか
の頬が紅潮して、それからバシンッ、と箱が廊下に叩き付けられた
「!?」
「何よっ、そんな風に言うことないでしょっ
 先生なんか人の気持ち何もわかってないくせにっ
 大っきらいっ」
ラッピングされた箱が、思いきり床にたたきつけられ 氷室の足下でへしゃげてしまっていた
は大声で叫ぶと、きっと氷室を睨み付け そのままきびすを返して廊下を走っていく
その後ろ姿に、しばらく氷室は唖然と
ただ立ちすくんでいた
たぶん、誰かが見ていたらとても間の抜けた顔をしていただろうと思う

驚いた
それが、正直な気持ちだった
朝から何度もチョコの受け取りを断って、職員室の箱へ入れなさいと繰り返してきたのだが
しょんぼりと帰っていく生徒はいても、あんな風に自分の持ってきたチョコを投げ捨てて怒って帰っていった生徒はいなかった
あんまり驚いて、氷室はことを理解するのに時間が必要だった
呆然と、走っていくの後ろ姿が消えてからようやく、
溜め息を吐いた
そして、つぶれてしまった箱を、拾い上げた
リボンがはずれて、不様な姿になってしまったチョコレートの箱
中をあけると、入っていたチョコはいくつかに割れてバラバラになってしまっていた

溜め息をつく
職員室に戻って、机の上にひしゃげた箱を置き、氷室は何度も溜め息をついた
人の気持ちがわからない、といっていたっけ
そんなに言われる程のことをしたか?
たかだか担任の教師へのチョコを、断ったくらいで
(・・・わからない・・・・)
最近彼女とはよく接触がある
授業中にわからなかったことなどは自分から聞きにくるようになったし、
社会見学にも参加するようになった
だから彼女からしたら「仲のいい先生」にチョコレートを渡しに来ただけのこと
そう理解したのだが
(・・・・・・・何をあんなに・・・・・・・・)
一生懸命手作りした風なことを言っていた、その気持ちをくだらないといった態度で傷つけてしまったのだろうか
たしかに、バレンタインのムードにイライラとして、に当たってしまったかもしれない
感謝の言葉も言わなかった
「・・・・・・」
また溜め息をついた
明日は、そのことについては謝罪をするべきなのだろう

その日、氷室の自宅に持ち帰られるのは唯一、
壊れてしまったチョコレートと、ひしゃげた小さな箱
ハッピーバレンタインは遠い


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