白い子猫 (氷×主)


新しいクラスになって、そろそろ慣れてきた頃 は校庭の隅で子猫を見付けた
「うわぁ・・・見てっ」
「可愛いですね〜」
全部で3匹
ぶちと黒と白
どれもやっと目が開いたばかりといった感じで たよりなくて小さくて可愛い
「か・・・かわいいよ〜」
思わず白いのを抱き上げてなでてみた
あたたかくて、ふわふわしている
「親はどこに行ったんでしょうね・・・
 こんなところにいたら弱ってしまうのに」
今は丁度掃除時間
校庭の掃除当番だったは、今この隅の方のゴミ拾いをしていた
今年一緒のクラスになった守村桜弥と一緒に
「このままここにいて先生に見つかったら処分されるよねぇ・・・」
「そうですね、野良のようですし、放っておいたら増えてしまいますから」
困ったように、二人で顔を見合わせる
は、遠くの方で掃除監督をしている氷室を見た
多分、彼に相談しても何の解決にもならないだろう
「処分しなさい」
彼の台詞など、容易に想像できた
「よしっ、飼い主を探そう」
「そうですね・・・友達に聞いてみます」
「私もっ」
側のしげみに3匹をおしやって隠して、二人はとりあえずその場から離れる
「このことは先生には内緒よ」
「はい」
二人して、うなずきあって氷室の元に戻った
何でもないような顔をしながら、時々茂みへと目をやって

その日から、は桜弥と二人で手当りしだいに友達に子猫をもらってくれないかと頼んで回り、1週間後には、2匹の子猫がめでたくもらわれていくとこになった
「よかったね、あと一匹だ」
「僕の家で飼えればいいんですが・・・」
「私の家もダメだった
 お母さんがアレルギーなんだって」
二人して、校庭の隅のしげみでの与えたミルクを飲んでいる白い子猫を見下ろした
人懐っこくて、やんちゃで、目のぱちくりした子猫だった
「あと一人なのになぁ
 奈津実やたまちゃんが先輩と後輩に聞いてくれてるんだけどなかなか・・・」
自分のクラブの子も全滅で、
もちろん桜弥のクラブもダメだった
行き詰まって溜め息が出る
「どうしよう・・・大きくなったらますます貰い手がつかなくなるよぉ」
こうなったら、チラシでも作って町内に配るか
二人して思案にくれていた時だった
ふ・・・と、二人の頭上に影がさした
「君達か、ここで餌をやっているのは」
ぎくり、と
の身体がこわばって、そうっと声の主を見た
氷室が、難しい顔で立っていた
「先生・・・・」
「あの・・・僕達飼い主を探しているんです・・・」
桜弥が立ち上がって説明し、はそれにうんうん、とうなづいた
「捨てられてて親もいなかったから このままじゃ死んじゃうと思って誰か飼ってくれる人がいないか探してたのっ
 2匹は見つかったんだけど、この子だけみつからなくて・・・」
怒ったような氷室の顔に、二人は焦って説明する
ダメだ
よりによって最悪の人に見つかってしまった
「先生方から苦情が出ている
 校内で動物を飼うことは禁止されているし、野良ネコにエサをやるのもダメだ」
氷室は知らなかったことなのだが、ここで誰かが野良ネコにエサをやっているのを運動部の顧問が見付けて職員室の会議で報告した
ネコの食べ残したエサを狙って、犬なんかが校内に入ったこともあるのだという
それで、様子を見にきたのだ
そうしたら、ここにと桜弥がいた
「そんなこと言わないでもーちょっとだけ待ってっ
 飼い主絶対見つけるからっ」
「ダメだ」
冷たい氷室の言葉に、も桜弥もどうしようもなかった
こういう時の氷室は、何を言ってもゆずらない
規則だと言い、許されないことだと説教する
わかるけれど、
だけど、それじゃあこの子猫はどうなってしまうのか
「今から保健所に電話をして処分する」
「えぇっ?!」
悲痛な声を、が上げて今にも泣き出しそうな顔をした
「嫌っ
 お願い先生、あと少しだけ待って!!」
必死に言ったが、氷室の表情は少しも変わらなかった
「そんな・・・保険所なんて・・・」
桜弥の声も震えている
とここで見付けてから、2週間程たった
毎日ミルクをあげて、もう情が移っている
飼い主が見つかる度に二人して大喜びして、この子が最後だったのに
「君達はわかっているのか
 ここは学校であって君たちの家ではない
 野良猫は不衛生だし、食べ残したエサは野良犬なんかを寄せつける
 ここでこんな風にしつづけて、誰かが犬に怪我をさせられたとして、
 君達にその責任が取れるのか
 ここが学校である以上、全ての責任は学校にある
 こういうことを、許すわけにはいかない
 今回も、今後も一切だ」
突き放すような氷室の言葉に、は怒りが一気にあふれた
「何よっ
 そんなのこの子達のせいじゃないでしょっ
 ここに捨てた人が悪いんじゃないっ
 なのに野良猫だからって死ねって言うの?!
 飼い主探してるのにっ、手伝ってもくれないでそんなこと言うの酷いっ」
今はもう自分になついている白い子猫
とっても元気でとっても可愛いのに
この子のせいで、野良になったんじゃないのに
「何を言ってもそれは君たちの都合だ
 ここが学校であるということと、自分達の立場を理解しなさい」
氷室は、それでも冷たく言い放った
表情一つ変えない
その様子に悔しくて、腹立たしくて
はうつむいてボロボロ涙をこぼした
信じられない
こんなにも簡単に処分すると言ってしまえるなんて
遊びでここで飼っていたんじゃないのに
そう説明しても、少しも待ってくれないなんて
ほんの少しも、理解してくれないなんて
「今日はもう遅い
 下校時間はとっくに過ぎている、早く帰りなさい」
追い討ちをかけるように、氷室の声が降ってきた
どうしようもない位、怒りで頭がいっぱいで、
それからとても悲しかった
やっぱり氷室は、こういう時力を貸してはくれないのだ
自分達の気持ちをわかってくれないのだ
どうしようもない
家に連れてもかえれない
飼い主は探しても探してもみつからない
自分達には本当に、どうすることもできなくて それがすごく悔しかった
「早くしなさい」
怒った口調が強くなった
それで、顔を上げて氷室を睨み付けた
「先生なんか大嫌いっ」
大人の氷室には、きっと自分達より力があるはずなのに
規則だとか学校だとか立場だとか
そんなことしか言ってくれないなんて
こんなに可愛い子を、処分してしまうなんて
「あの・・・じゃあ僕が連れて帰ります」
隣で桜弥がいったけれど、それも氷室が却下した
「飼えないのなら連れて帰るのは許さない
 二人とも、帰りなさい」
何度も言わせるな、と
氷室はいうと、目で桜弥をうながした
を連れて、早く帰れ と

とぼとぼと歩いていく二人の姿が消えてから、氷室は大きく溜め息をついた
まさか泣くとは思っていなかった
だが、氷室にだってどうすることもできない
これは職員会議での決定なのだから
「困ったものだ・・・・」
優しいのはいいのだけれど、
こんな風に捨てられたものを、ただたわむれに餌をやっていただけではなく ちゃんと飼い主を探していたのだから、それは感心すべきことなのだけれど
ここは学校で、その中では色々と問題も多かった
ここにいたのがじゃなければ良かったのに
もしくは、二人のいない時に処分できれば良かった
そうしたら、あんな風に泣くを見なくてすんだのに
「先生なんか大嫌い」
耳に残った言葉に苦笑した
の言葉は、どうやら自分でも思っている以上に影響を及ぼすようなのだ
ひどく滅入った気分で、氷室は足下の子猫を見下ろした
恐れもせずに、そこにいる
にゃあと一声鳴いて、それは氷室の足にすりよってきた
「・・・・まったく」
自分を処分しようとしている相手に対してもこれか
見ていると気が抜けて、氷室は苦笑した
「そんなことでは、野生で生きていけないだろう」
人見知りをしないタイプなのだろうか
怖いものしらずというか、なんというか
まるでのようだと、氷室は苦笑した
泣き顔は初めて見た
胸が痛んだ
いつもあんなに楽し気に笑うものを、泣かせてしまったなんて
あんな風な目で見られたことなど一度もない
まるで憎んでいるような、激しい目だった
(・・・・・)
たしかに、この子猫のせいではない
悪いのはここに捨てた飼い主である
はそれを助けようと努力したのだ
桜弥と二人で、2匹の命を救った
これが最後の一匹だったのに
あと一人、飼い主が見つかれば は笑って「良かった」と言えたのに
「・・・・・・」
氷室は、足下の子猫を拾い上げた
にゃあ、と小さく鳴き、だが子猫はおとなしかった
そのまま連れて車まで戻った
ぽん、と中に入れると助手席でそれは小さくなってまるまったのだ
警戒心のかけらもない
よほどと桜弥に可愛がられたか、それとも生まれつきなのか
「私が戻るまで大人しくしていたら連れて帰ってやろう」
パタン、とドアを閉め、氷室は報告へ職員室へ戻った
夕日が、氷室の車に影を与える

結局、その日氷室が車に戻ってきた時には 子猫は助手席にまるまったまま眠っていた
そのまま乗り込んで発車させ、自宅へと向かう
仕方がない、今回だけだ
つぶやいて、氷室は子猫に視線を落とした
飼うのならば、名前をつけなくてはならない
によく似た、ひとなつこい この白い子猫に


守村くん初描き。めっさ描きやすくて感動(笑)
やっぱ子供は描きやすいなぁ・・・(>_<。)

女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理