クリスマスプレゼント (氷×主)


その日、夕方から理事長宅で毎年恒例のクリスマスパーティがあった
礼服(といってもそれほど華美なものではない)を着て、でかける
早めに会場についた氷室は、集まってくる生徒達を見ていた
1年生から3年生まで、それぞれにパーティらしい服ででかけてくる者もいれば、いつもの変わらぬ服装で友達と笑いあっている者もいる
明日から冬休みだ
それでなくてもクリスマスの夜
生徒達は浮き足立っているし、教員も皆 いつもの緊張感がない
(まぁ、当然か)
冬休みには来年の授業の予定をみっちりたてる
そんな風に構えているのは氷室くらいかもしれない
教師になってから、氷室はクリスマスだからといって特別何かを思ったことはなかった

「氷室先生、こんばんわ」
いつのまにか何人かの生徒が周りにいて、氷室に笑いかけた
 もその中の一人だった
彼女は成績ナンバーワンの氷室学級のエースで吹奏楽部である
授業中も、放課後も 氷室のお気に入りの生徒の一人である
「先生はお酒は飲まれるんですか?」
が小首をかしげて問いかける
何か持ってきてくれるつもりなのだろうか
いつも思うが細かいところによく気がついて、感心する
「いや、こんな場所では飲まない」
やわらかく断って、氷室はのドレスを見た
ふわりとした印象の、薄桃色のドレス
彼女の長い髪に、それはよく合っていた
「よく似合っている、我が氷室学級に相応しい服装だ」
満足気に氷室はいい、その言葉には頬をそめて笑った
その時、入り口が騒々しくなり何人かの生徒が入ってくる
ーーっ」
数名の女子が氷室との側を通り過ぎて入り口にかけていった
(・・・・・・・・・)
ガヤガヤと騒がしく入ってきた何人かの中にがいて、
その隣に、黒のスーツを着ていつもより大人びて見えるまどかがいた
他にも数名氷室のクラスの男子生徒がいる
、その服可愛い〜」
「ほんと? 先週買ったんだ〜」
の声がここまで届く
にこにこと友達に囲まれている様子に、みいってしまう
ドレスという程に気合いが入っているわけでもなく、
かといって普段着というわけでもない服
ノースリーブのミニの赤いワンピースにブーツ
ふわふわとした雪のようなバックを肩からかけて、腕には銀色のブレスレットが光っていた
(・・・・)
いかにも、らしいと氷室は微笑する
氷室の好きな「ピュア」な服装ではないものの、見ていて不快感を与えない
それに、いつもより大人びてみえる
少々露出が多い気はするが
「じゃじゃじゃーん、このブレスはなんとっ
 姫条くんがくれたのだー」
「えー、本当に?!」
「せやでー! なんやかんやでちゃんにはお世話になってるからなー
 感謝の印や、愛の証やー」
どっと、と皆が笑う
も、まどかも笑っている
その様子を、氷室はみつめていた
自分でも無意識に
氷室の中で、何かいいようのない感情が揺れる

パーティの間中、氷室は気づけばを見ていた
最初はまどか達と話していたも、今は別の女子と話している
相変わらず友人が多いんだな、と
口元に微笑が浮かべ、氷室はグラスの液体を一気に飲み干した
さわやかな炭酸が咽を通っていく
「先生、おかわり持ってきますね」
「え?」
ずっと側にいたが、言ってバーの方へと歩いていく
一緒にいた女子も数名従って、氷室は残った吹奏楽部の生徒達と2.3言葉を交わした
どうも、今日は集中力がない
生徒達が何を話しているのかさっぱり記憶にないし、今までずっと側にいたや他の生徒のことも あまり気にしていなかった
ただばかりを見ていた
今も

ふと視線を動かすと、は違うクラスの守村桜弥と話をしていた
(・・・・?)
二人が一緒にいるところなど見たこともないし、まどかならともかく、大人しい桜弥とが気が合うなどとは考えつかずに氷室は不思議に二人を見つめた
ここまで声は聞こえてこないが、明るい顔で話すに、
少し戸惑ったような、それでいて嬉しそうな桜弥が笑いあう
不思議な光景で、
30分も二人は話して笑いあった
最近が勉強を頑張るようになって、
誰か勉強の得意な友達でもできたか、と思っていたがどうやら
この様子では桜弥がそうなのかもしれない
二人で数学の問題を解いている様子を想像すると、それはそれで微笑ましい
「先生、プレゼント交換がはじまりますよ」
いつままにか、や他の女子が戻ってきている
側のテーブルにはグラスが置かれてあり、手がつけられないままになっていた
(・・・どうかしている・・・・・)
いつ新しいグラスが置かれたのかもわからない
それ程自分は、と桜弥の様子を見つめていたのか
周りのことが何も目に入らない程に
「私はペンケースを出したんです」
「ほぅ、なかなかいい選択だな」
「氷室先生は何を出したんですか?」
「私は・・・・」
答えようとした時に、サンタに扮装した男(毎年理事長が雇っているのだ、まったく凝り性なことだ) が、それぞれに入り口で回収したプレゼントを配って回った
「アナタはコレですよ」
手渡された包みは、可愛くラッピングされピンクのリボンがついている
(・・・・・・・・)
明らかに女の子に回ることが前提となった包みで、氷室は苦笑した
これだけの人数のプレゼント交換だから、欲しいもの もしくは使えるものが回ってくる確率は半分程
男子には女子の好みがわからないし、逆もまたしかりだ
それが教員になれば、もっとわからない
「私のは誰のだろう?」
がガサガサと側でプレゼントを開けるのを見ながら氷室は苦笑した
その包みは自分の出したものではない
氷室印の特製数学書だから、のような生徒に回ればいいと思っていたのだが
(では誰に回ったのだろう)
しばし話すのも食べるのもやめて、プレゼントをあける生徒があちこちで歓声を上げたり溜め息をついたりしている
こういう光景も面白いものだと、思っていたその時
「わっ、氷室印?!」
後ろの方ですっとんきょうな声が上がって、
その側で何人かが笑った
「・・・・・
振り向いて、声の主を確認して氷室は溜め息をついた
が手に持っているのは、まさに自分の出したものである
「やっぱりこれって先生の?」
へらっ、と笑ってが中身をめくった
「そうだ、冬休みのいい暇つぶしになるだろう」
自分でもわけのわからない喜びのようなものが、胸に広がっていくのを氷室は感じていた
同時にどこかくすぐったい
「暇じゃないもんー、冬休みは遊びの予定でいっぱいだもん」
「両立させればいいことだ」
「だってこれ難しそう〜」
「授業をしっかりきいていれば問題ない
 冬休み明けに提出するように」
「えーーーっ?!」
「えー、ではない
 返事は?」
「ふえーん」

まったく、と
氷室は苦笑してを見た
周りの友達に慰めてもらいながら(それも失敬な話だが) どこか楽しそうなに、自然と微笑がもれる
自分と同じ
せっかくのプレゼントを喜ばないに苦笑しながらも、どこか嬉しくて口元が緩む自分と同じ
(まったく矛盾している・・・)
氷室は、ようやく落ち着いた気がして、手許のグラスを取り上げた
一口飲む
炭酸が、会場の熱気と空調で火照った身体に気持ちいい
「あっ、先生それ何飲んでるの?」
「ん・・・? さぁ、何だったか・・・」
突然、が氷室のグラスを取り上げた
「?」
「お酒じゃないよね、いただきますっ」
「は?!」
こくり、
止める間もなくはそのグラスの液体を飲み干し、唖然としている氷室に空のグラスを返して笑う
「さっきから喋りっぱなしで咽乾いてたんだっ」
「だったら自分で取ってきたらいいだろうっ」
「だって遠かったんだもん」
にこり、
驚きのあまり声の震えた氷室に悪戯な笑みを向けて、はくるりと身を翻した
「お邪魔しましたっ」
そうして中央で踊っている友達の輪の中に帰っていく
途中振り向いて、一度だけこちらを見た
まだ状況を整理しきれていない氷室に、遠くから声が飛んでくる
「ヒムロッチの持ってるプレゼント、私の出したやつだよっ」
それで、はっとして手に持っていた可愛らしい包みを見た
もう一度に目をやった時には、その姿はダンスの輪の中に消えていた

まったく、と
生徒達が全て帰った後、車に乗り込んで氷室は溜め息をついた
助手席には、が出したというプレゼントが置いてある
予想できない行動をするに、翻弄されてまだ動揺している
あんな風に、人の飲んでいたグラスを取り上げて飲む奴があるか
女の子同士ならまだしも、
そして今夜のパーティの間中、ずっとを追い掛けていた自分にも気付いている
どうしたというのだ
結局、側にいたや吹奏楽部の生徒達の話を全く覚えていない
自分はどうかしている、と
氷室は溜め息をついて、助手席の包みを取り上げた
「・・・・・ものすごい確率だな・・・・・・」
計算して、苦笑する
こんなことがあるのだろうか
あの人数の中で、お互いのプレゼントが当たるなんて
ピンクのリボンをはずして、中を開けた
また、苦笑する
なんともかわいらしいテディペアが出てきた
このテディベアのは手作りだろうか
彼女は手芸部だったから、これくらいはお手のものだろう
(ヌイグルミか・・・・・)
これが男子生徒や、教員にわたるとは思ってもみなかったのだろう
女の子なら喜びそうな、とても可愛いプレゼント
苦笑して、氷室はハンドルの向こうにそれを置いた
違和感がある
だが、悪くなかった
けして趣味なわけではなけれど、の作ったものならば、と
そのまま氷室は車を発車させた
クリスマスの夜はふける


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