寝顔 (氷×主)


氷室先生が寝ている
私の目の前で、居眠りしている

(・・・・ひどいなぁ・・・・・帰っちゃおーかなぁ・・・)
放課後、窓際の自分の席で 与えらた問題を解きながらはチラと顔を上げた
の席は前から3番目
窓際に置かれた教師用の机は、前に生徒がいなければ大分近くに感じられる
今は補習で、教室にはと氷室の二人しかいない
はじめた時は5人いたのに、今や皆 問題を終えて帰っていった
(わかんないよー)
は数学がどうしても苦手である
さっき氷室が解き方を黒板で説明したがそれもイマイチわからなかった
基本問題はなんとか解いたのだ
だが最後の応用問題がさっぱりわからない
(先生、起きて教えてよ〜)
心の中で、わめいてみる
だが机に頬づえをついて眠っている氷室には聞こえるはずもなく、答えるはずもなく
(このまま提出して帰ったら 怒るよね〜)
そぅっ、と立ち上がってみた
それで氷室が起きるかと思ったが、いっこうに起きる気配はなかった
そのまま近付いて、一番前の席にすわる
おどろく程近くに氷室の顔が見えて、それでは少しだけ赤面した
(・・・やっぱ格好いいなぁ・・・)
入学したての頃は、ただ怖いだけの冷たい先生だと思っていたのだが、最近は氷室と仲がいい
少なくとも自分ではそう思っている
帰りだって何度が送ってもらったことがあるし、
時々氷室が優しい顔になるのも知っている
何か自分だけの宝物を見付けたような気分で、は嬉しかった
知らなかった氷室の素顔のような部分を見つけるたびに、
嫌いで苦手だった先生が、好きな先生へと変わっていく
それを感じていた
それに何より氷室は格好いい
一部の女子の間では人気で、こっそりとファンクラブまであってしまうのだ
本人が知ったらくだらない、と
怒るかあきれるか、とにかく相手にはしないだろうけれど
最近には、その子達の気持ちがよくわかる
(だってこんなに美形なんだもん〜)
芸能人顔負け、というような整った顔だち
冷たく見えるのはこのせいだろう
あとはあの厳しい口調か
淡白で、面白みのない性格か
(あれはあれで、面白いのになぁ)
からかうと、と
は氷室の髪に手をのばした
起きない
うつむいているからはらり、と落ちた前髪がきれいで
触っても氷室は起きなかった
(・・・・疲れてるんだなぁ)
もしかして、こういう補習なんかが余計に氷室の仕事を増やしているのだろうか
思えばこんなにも補習や何やと世話をやく先生はいない
生徒にとったらテストも補習もありがたくないものだけれど、
よく考えたら氷室はやらなくてもいいことまでしてくれているのだ
自分のようなバカな生徒のために、自分の時間をさいて
「ごめんね、せんせー」
ちょっとだけ反省して、は苦笑した
「だってね、わかんないんだもん、むずかしくって」
今度は頬に手をのばしてみた
そっと触れてみた
ドキドキした
(わー、私、何してんだろっ)
瞬間我に返って顔が赤くなるのを感じた
(先生にさわっちゃったー)
慌てて手をひっこめて、それから氷室が起きていないのを確認した
(よかった・・・・・)
もぉ帰ろう、と そっと席を立つ
氷室が起きても起きなくても、ここにいられそうもなかった
配られた問題を提出していくかどうか迷ったが、持ってかえることにした
鞄をつかんで、そぅっと教室を出た
あとは廊下を走っていった

「・・・・・・・・」
パタパタと足音が完全に聞こえなくなってから、氷室は目を開けた
教室に誰もいないのをたしかめて、深く息を吐く
驚いた
人の気配に目を覚ました瞬間、髪に触れられてとても驚いた
起きるに起きれなくなって、寝たフリを決め込んだのだが
(・・・・・驚いた・・・・・・)
まだドキドキしている
我ながら、どうしようもないくらいに動揺している
の手が頬に触れた時、思わず目を開けそうになった
あんまり驚いて
(・・・君の行動は予測不可能だ・・・・・)
そしてその前につぶやいていた「ごめんね、先生」は何だったのだろう
さっぱりわからず、
ただの手の感触だけが残って
氷室は誰もいない教室で一人赤面した
何がなんだか、自分でもよくわからなかった

次の日、朝一番にが職員室に来た
「おはようございますっ、センセー」
「おはよう」
昨日はすまなかった、と
居眠りしたことを謝ると はにこっと笑った
「ヒムロッチの寝顔見ちゃった〜」
悪戯な顔
それをねめつけて、内心氷室はほっとした
いつもの
あの言動の意味はわからず、さして深い意味もないのかもしれないがとにかく
がいつもどおりでよかった
「はい、これっ」
かばんをゴソゴソやって、が昨日の問題用紙を差し出す
「先生寝てたから家でやった」
見るとちゃんと全問埋まっている
(・・・・・)
これにはいささか感動して、の顔を見た
得意げに、彼女は胸を張らんばかりの勢いで
「ちょっとだけ友達に聞いたんだけど」
と、告白してまた笑った
「私、勉強も頑張りまっす」
「え・・・?」
の書いた答えに目を走らせていた氷室が、顔を上げると
はくるりと背を向けた
「じゃねっ、せんせー」
パタパタと職員室を出ていくの後ろ姿を、氷室はポカンと見送った
何と言ったか
聞いていなかった自分も悪いが、聞き返したのに答えずに行くとは相変わらず
マイペースというか、何というか
(まぁいい・・・・・)
氷室はまた手許の問題に目をやった
丁寧に、教えた通りに解いてきている
最後の問題も、散々消したり書き直したりしたあとがあり苦労したのが伺えて微笑ましい
そして何より答えが合っている
(友達に聞いたといっていたが・・・)
誰に聞いたのだろう
答えだけを聞いたのではないことは解いていく過程をみれば分かる
苦手だ嫌いだと散々わめいている数学にも、こうやって取り組む姿勢が愛しいと感じる
氷室は無意識に頬に手をふれた
今もまだ、の手の感触が残る気がする
その感覚は、氷室の胸にも温かな痕を残す
無意識の下に


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