君の歌声 (氷×主)


その日、は朝から憂鬱だった

、クラブ行こ?」
「ごめん、今日は行けないの
 私、こないだ休んだ時の歌のテストがあるんだー」

先日、風邪で学校を休んだ日にたまたま音楽で歌のテストがあったらしい
欠席者は後日、再テストをします、と通知され 今日がその日
は朝から憂鬱だった
(歌って苦手なんだよね・・・・)
一人、音楽室に向いながら溜め息をつく
得意な子からしたら、なんでもない簡単な歌
それでもリズムは合わないし、楽譜はよくわからないしでには毎度毎度頭を悩ます教科だった
(でも、ラッキーだったよね
 一人でテストだから皆の前で歌って恥かかなくてすんだし)
ものは考えようだ、と開き直りながら は音楽室のドアを開けた
そこでアレ、と首をかしげる
中には氷室が一人でいた
「先生何してるの?」
「君をまっていた」
何度言っても敬語を使えないに、氷室が眉をよせながら立ち上がる
「担当の先生は急用で帰られたから私が代わりに君のテストをする」
準備しなさい、と
氷室は言って、教室の隅に歩いていった
「えーーーっっ
 先生がテストするのーーっっ?!!」
「何か問題か?」
「あるーーーっっ
 そんな、恥ずかしいもんっ」
「何をバカなことを言っている
 一回かけるから、練習しなさい」
テープのスイッチが入れられ、いきなり音楽が流れる
(本気で?!
 なんか、なんか、恥ずかしいっ)
オタオタと、とりあえず荷物を机の上に置いて、教科書を開いて歌詞を追った
ロクに何もできず1番が終わり、2番だけなんとか歌った
「あーんっ、音楽の先生がよかったー」
「・・・・」
わめくを無視して、氷室がテープを巻き戻す
「文句を言わずに練習しなさい
 嫌なら君は不合格だ」
「そんなーーーっっ」
また音楽が流れた
仕方なく、今度は本番だと思って歌ってみる
(なんでよりによってヒムロッチなのよーーーっ
 なんか余計に恥ずかしいっ)
ただでさえ、自分が下手で恥ずかしいのに、
それを音楽の先生ではなく担任に聴かれるなんて
(拷問だーーーっ)
急用なら別の日にしてくれたらよかったのに
それでも氷室の言うように、不合格になるのは困る
ただでさえ苦手科目なんだから
必死で楽譜を追いながら、声を出す
さっきよりはマシだけれど、いつのまにかテープの音とずれていた
(わかんないよーっ)
こうなると、リズムが狂ってどこを歌っているのかわからなくなり音低までが狂い出す
ようやく歌い終えると、氷室は小さく苦笑した
(ようするに・・・・)
今度はテープではなくピアノの方へと歩きながら氷室はチラ、とを見た
(ようするに、リズムが正確に取れないんだな)
時々はずれるが、音はそんなに悪くはない
歌詞に気をとられて曲を聴いていないから、テープとずれてくる
それを無理に合わそうとして色んなものが狂ってくるのだ
だったら好きに歌わせてやればいい
そうすれば、こんなにひどい歌にはならないだろう
、ここへきなさい」
「え?」
教科書を見てブツブツ言っていたが顔を上げ、ピアノに座った氷室の側まで来た
「教科書を貸しなさい
 君はそこに立てば見えるだろう」
ピアノの椅子のすぐ横に立たされ、の教科書はピアノの前に広げられた
(え・・・・・?)
氷室の目がしばらく楽譜を追い、それから鍵盤の上に指が置かれた
「本番だ」
「えぇ?!」
長い指が音をはじき出し、前奏がながれる
テープより深みのあるメロディ
突然のことへの驚きと、それから緊張にの心臓がドキドキしだした
(何?! 何?!
 先生がピアノ弾いてる?!!!)
やがて前奏が終わった
とにかく歌わなくては
ピアノの前にたてられた教科書を見ながら歌う
さっきより歌いやすくて、音もずれなかった
2番に入るとやっぱりちゃんと音は合った
(なんでだろっ、すごいっ)
ドキドキしながらも、嬉しくなって歌った
思ったとおりに歌い終えると、自分でも驚く程に満足した
「ふむ、いいだろう」
ピアノの音が止まる
悪くなかった
テープに合わせられないなら、伴奏が合わせてやればいい
いささか過保護な気もするが、
それであんなメチャクチャだった歌が、聴けるようになるのだから
そこのところを評価してやらなければならない
リズム感については、どれだけひいき目に見ても点数はやれないけれど
「合格 ?!」
「60点」
「うわーん、ぎりぎり〜」
氷室の横で、それでもは嬉しそうにはしゃいだ
「先生ってピアノ上手なんですねっ
 すごいなぁっ
 さっきのより全然歌いやすかったっっ」
「そうか
 はもう少し曲をよく聴くように心掛けなさい」
「はぁいっ」
60点が彼女にとっては大満足らしく、
にこにこしながら笑っている
その様子に、氷室は苦笑した
どうやら、数学といい音楽といい
は自分とは得意分野がまったく正反対らしい

「先生、ありがとうございましたっ」
「気をつけて帰りなさい」
「はぁいっ」
音楽室を出ていくを見送って、氷室は微笑する
高い、ちょっと不安定な歌声
彼女の声に合わせて弾きながら、ふわりと優しい気持ちになれたのは気のせいではない
時々遅くなったり早くなったり、まるで彼女みたいな気紛れな歌
それを聴きながら、伴奏をつけるのが新鮮だった
不安定な不完全な歌
そういうのが新鮮で、心地よかった
という少女に対しての、氷室の意識がまた揺れる


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