特別 (氷×主)


さんは、我、氷室学級のエースだった

「私のこと忘れないでね」
「あたりまえでしょ! 文化祭は遊びに来てねっ」
秋に入って、文化祭の準備がそろそろはじまるという時期になって、の親友がとなり町に転校することになった
「メールちょうだいねっ」
「ずっと友達だよ」
別れを惜しんで、彼女は学校を去り 寂しい気持ちのままは日常に戻った

今日のH.Rの議題は文化祭委員の選出についてである
実は先日転校してしまった彼女が文化祭委員だった
誰かが彼女のかわりに委員をしなければならない
「投票でいいですか?」
「はい」
紙が配られ、投票が行われる
(委員かぁ・・・大変そうだなぁ)
ボンヤリと、積極的に「私がやる」といった親友のことを思い出して、は頬づえをついた
彼女には本当にぴったりだったのに
いったい誰に彼女の代わりができるというのだろう

ボンヤリしているうに紙が集められ、開票が始まった
クラス委員の子が手際よく開票し、黒板に名前が書かれていく
さん、ですね」
その言葉に、はっとしては黒板をみつめた
「え?!」
 19票
クラスの半分以上の票が自分に入っており、それでは唖然として隣の席の友達に助けを求めた
「だってアンタがあの子の一番の親友だったじゃない
 アンタだったらあの子の代わりになれるよ〜」
友達は、無責任に笑って言って、後ろの席の子も「そうそう」とあいづちを打った
「そんなぁ・・・私、委員なんかやったことないのに」
「大丈夫だって
 僕達も準備委員会には出るからさん一人に仕事が回ることはないし、やってみればそんなに辛いものでもないよ」
クラス委員の男の子の、その言葉に パラパラと誰からともなく拍手が起こり、それがやがて教室中に広がった
(うわーん、私クラブもあるのにー)
だが、こうなってしまったらもう断れない
「・・・・がんばります」
観念して言ったら、誰かの声が飛んできた
さんならオレだんぜん協力しちゃうなー」
(だったら代わってよ〜)
生まれてこのかた委員なんてものにはなったことがなく、
いつも誰かしっかりした子がやるのを見ていただけだった
いきなりやれと言われてできるものなのか
でももう今さら後にはひけない

その日の放課後、さっそく会議があった
指定の教室で、出し物の規定や場所の説明などを受けながら、ぼんやりと窓の外を見る
夕焼けの色に染まろうとしている校庭に、氷室がいるのが見えた
(あ、先生だ)
今帰りかな
そういえばもう6時をまわった
この会議も早く終わればいいのに
長い説明はいつまでもいつまでも続き、は初日からうんざりした
(私も帰りたーい)
もう一度、校庭に目を移した
氷室の隣に、女の子が立っていた
(・・・・さん・・・・?)
長い髪の、きれいな女の子
クラス一勉強のできる 氷室学級のエース
彼女が氷室と一緒に並んで歩いている
(・・・・・なぁんだ・・・・・・)
氷室の車で、一緒に帰るのだろうか
以前の雨の日、自分を送ってくれたように 彼女も家まで送るのだろうか
(・・・・私だけじゃなかったんだ)
考えてみれば、当然だったけれど、それがなぜか悲しかった
急につまらないような、寂しいような気分になる
雨の日、家まで送ってくれたことをはしっかり覚えている
あの日から、嫌いで苦手だった氷室が 少しだけ身近に感じられるようになった
そんなに嫌いじゃなくなった
だって、彼の素顔を見た気がしたから
(きっと、気のせいなんだ)
氷室は、自分の生徒ならきっと誰でも送っていくし、
彼女となら、自分の時とは違って勉強のことなんかで話に花が咲くのだろう
気まずい沈黙になんかならないに違い無い
雨なんか降っていなくても、のことは送っていくのだ
ガックリとした気分で、は残りの会議をやり過ごした
つまらない
本当につまらない
それから、どうして自分がこんな気分になっているのかがわからない
(いーもんっ、別に先生なんかっ)
強がってみても気分は晴れなかった
自分がもう少し、さんと同じくらいに勉強ができたら 氷室は自分のことも特別扱いしてくれるのだろうか

それから週に3日、会議は開かれ、そのたびには氷室の姿を見た
毎回、と一緒に帰る その様子に溜め息がこぼれる
(あーあー、そんなに勉強ができる子がいいんだ)
たしかには美人で、大人っぽい
先生にとったら ああいう優等生タイプの方がいいんだろうな
なんとなく、悔しくてはまた溜め息をこぼした
どうやら、に嫉妬しているようで、その理由が自分でもよくわからなかった

「・・・ようするに」
自分の考えを整理しながらはつぶやく
今日も会議で、その後クラスで使う備品の買い出しに行かなければならなかった
「つまり、私はヒムロッチのことがお気に入りで、それを取っちゃうさんが嫌なんだ」
つまり、それは子供っぽいワガママ
お気に入りの玩具を一人占めしたいと思う子供みたいで
はそんな自分に苦笑した
「・・・・なんでヒムロッチなんかのことで悩まなきゃならないのよー」
バカらしくて、一人大きく伸びをした
本当にバカらしい
自分のものなわけでもないのに、どうして一人占めなんかできよう
担任の先生を取られたと思うなんてどうかしてる
そんな風に思っていたら、クラス中の人に嫉妬しなきゃならない
(アホらしー)
もう一度だけ伸びをして、いつもの教室に入った
今日も会議が始まる

それから2時間後、とっぷりと暮れた空を見上げて、は溜め息をついた
予想はしていたけど遅くなった
これから買い出しに行くなんて、なんて面倒なことだろう
委員って本当に大変なんだな、と
ちょっとだけ愚痴りたくなった
その時
、会議は終わったのか?」
氷室の声が廊下に響いた
コツコツと規則正しい足音で、彼が廊下からこちらに歩いてくる
もうとっくに帰ったと思っていた
彼女と、一緒に
「・・・・先生、まだ帰ってなかったんですか?」
「君を待っていた」
「え?」
「買い出しに行くのだろう、早く来なさい」
「・・・・・え?」

ワケのわからないまま、氷室の車に乗せられる
静かに、それは目的の店へとむかった
「どうして待っててくれたんですか?」
「一人では大変だろう」
「・・・・偶然じゃなくて私のために?」
「何か問題があるか?」
「・・・・うれしい」
にこっと、自然に笑みがこぼれた
「・・・・・・?」
怪訝そうに氷室がチラ、とこちらを見たがかまわなかった
委員が誰でも、氷室はきっとこうして送ってくれるのだろう
買い出しが一人では大変だろうと、会議が終わるのを待っててくれて、店まで連れてきてくれるのだろう
それでも、
それでも、今、自分のためにそうしてくれていることが嬉しかった
「先生優しいなぁ」
にこにこと、笑みがこぼれっぱなしで、は言った
頑張った甲斐があったというものだ
こうして二人きりで、夜のドライブができるんだから

結局、買い物を終えて氷室が家まで送ってくれた時には10時を過ぎていた
「先生、ありがとっ」
車のドアを閉めて、一歩下がった
「おやすみ」
「おやすみなさいっ」
彼が微笑した気がした
すぐに車は発車して、やがて見えなくなる
その灯りが道の向こうに消えるまで はそこで見送っていた
こんないいことがあるなら、少しくらい大変でも またやる気が出てくる
氷室がちゃんと見ててくれて、頑張っていることを認めてくれるなら 大変でも頑張れる
は満足気に笑った
まだそれは、恋ではないけれど


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