ひなた色 (氷×主)


「あなた、クラスと名前は?」
突然、後ろから腕をつかまれ は驚いて立ち止まった
「え・・・?」
「あなたのクラスと名前をいいなさいと言っているのよ」
そこに立っていたのは生活指導の先生で、彼女は眼鏡の奥からジロリとを睨み付けている
生活指導に呼び止められるようなことをした覚えはないけれど
彼女の手はしっかりとの腕を掴んで放さない
「あの・・・1年B組の・・・です」
仕方なく、に向かい合っては答えた
何だろう
ジロジロと人のことを眺め回して、何かアラでも探している目で
「ああ、氷室先生のクラスね」
今度は薄い唇の端がにっと上がった
「・・・そうですけど、何ですか?」
もったいぶった言い方がむかつく
今からクラブで、今日は新しい作業に入るから早く行って準備しようと思っていたのに
廊下にさっきまでバタバタとクラブに急いでいた生徒達もほとんど消えた
「あの、何ですか?
 クラブ、はじまっちゃうんですけど」
「何ですかって?
 あなたのこれは何なんですか? 私が聞きたいわ」
突然、ぐいっと髪をひっぱられては小さく声を上げた
「いたいっ」
慌てての手を払うと、彼女は軽蔑したような表情で腕組みをした
勝ち誇ったようにを見下ろし、薄く笑っている
「ちょっと明るすぎるわね、その髪の色
 染めているのかしら? だいたいまだ一年でしょう?
 勉強もロクにしないで、学校に何をしにきているの?」
「染めてませんっ、最初からこういう色なんですっ」
ムカっときて、は声を荒げた
クラブがはじまる時間になってしまった
突然こんな言い掛かりをつけられて
何もしていないのに、染めてるだなんて怒られて
「はじめからそんな色ですって? 嘘ばかり
 最近の子は嘘をつくことなんか平気なんでしょうね
 氷室先生もどういう教育をしているんだか
 まぁ、担任は初めてだというから こんな生徒がいても手に負えないのかしらね」
せせら笑うようにいった教師の言葉に 今度は声が出ないくらいにむかついた
久しぶりだ
こんなに誰かにむかついたのは
勝手に嘘だと決めつけて、挙げ句の果てに先生の悪口まで
先生と仲が悪いのか知らないけど、だからってそんなこと言うなんておかしいし、
この先生の言ってることの方がよっぽど呆れる
「私、クラブがあるので失礼しますっ」
相手になんかしてやらない、と
腕をふりほどこうともがいた
相手は女なんだから、なんとか逃げられると思った
だが、意外に彼女の力は強い
「待ちなさい、話は終わっていないでしょう
 何がクラブですか
 その髪の色を黒くしてあげるからいらっしゃい」
反対にぐいっとひっぱられて は盛大によろけた
「ちょ・・・・何よっ
 中学校じゃあるまいしっ
 何が黒く染めるよっ、いいかげんにしてっ」
転ばないように必死に、なんとか彼女を振りほどこうとする
「放してよっ、バカ力っっ
 はなしてーーーーーーーーーーっっっ」
わめきながらもがいていると、ガラ、と奥の教室のドアが開いた
氷室が眉を寄せて怪訝そうにこちらを見て、それからの姿を確認すると教室から出てきた
? 何をしている」
「先生っ、助けてっっ」
ぱっと顔を輝かせて氷室を見た途端、気が抜けて力も抜けた
同時にぐいっとひっぱられて、今度こそは廊下に転んだ
「きゃっ」
かろうじて手で支えたものの、膝を思いきり床にぶつけた
「いたぁいっ」
先生・・・・私の生徒に何をしているんですか」
驚いて、氷室がに駆け寄った
へたりこんでいるのを助け起こしながら、まだ笑みを浮かべている教師をにらみつける
が何かしましたか? ひっぱるなんて乱暴な・・・」
「先生のクラスは、髪をそんなに明るく染めるのを許可しているんですか?」
「は・・・?」
一瞬、氷室が事情を理解しかねてを見下ろした
「私、染めてませんっ」
半ば泣きそうになりながら訴えるに、ああ、と
ようやくことを飲み込んで、それから氷室はを立たせた
「大丈夫か?」
「・・・・大丈夫じゃありません」
足は痛いし、先生はむかつくし
疑われたままだし、クラブには大幅遅刻だし
先生、のこの髪の色は染めているんではありません
 ちゃんと確認してありますし、入学の手続きの時に何の問題もありませんでした」
まっすぐにをみつめ、言い切る様子に彼女の笑みが一瞬ひいた
「ではそれが地毛だとして、そんな色は学校生活にはそぐわないでしょう
 黒く染めるべきです」
彼女がの腕をまたつかまえようとしたのを、ス・・・と氷室がを背に回してかばった
一瞬、ドキとの心臓が鳴る
背の高い氷室の背に守られながら、見上げると氷室がいつもよりきつい目をしているのが見えた
(先生、私のために怒ってくれてる・・・?)
それは、なんだかとてもお姫様になったような気分
いつもは厳しくて、口うるさい先生だけど、こういう時はちゃんと庇ってくれるんだ
守ってくれるんだ
私の味方をしてくれるんだ
「学校の規則に、髪色が明るすぎてはいけないとは書いてありません
 むしろそれは個人の個性として尊重すべきです
 先生、はあなたに指摘されるような違反はいっさいしていませんし、
 あなたの言うような学業に専念しない生徒ではありません」
私が保証します、と
睨み付けた氷室に、は何か言いた気に口をパクパクさせた
「おわかりいただけたら、戻ってもかまいませんか?
 今はクラブの時間です
 クラブも大切な学校生活の一部ですから」
そうして氷室は相手の返事もきかずに の背中を優しく押して歩かせた
「・・・いいの?」
「かまわない
 君は何も悪くない
 保健室に行きなさい、ひどく痛むようなら病院に連れていくが・・・」
「大丈夫
 歩けるし、もう痛くなくなった」
心配気に自分を見下ろす氷室に、は笑った
「先生 何で来てくれたの?」
「・・・あれだけ廊下で騒いでいたら嫌でも耳につく
 あそこは音楽室だ」
私もクラブの指導中だった、と
氷室は言うと、ふ・・・との髪に視線を落とした
「・・・・明るすぎるって思いますか?」
その視線を追って問いかけたに、氷室は少しだけ笑う
明るすぎる? 学校生活にそぐわない?
そんなことを思ったことなどない
むしろ、
「いや、ひなたの色だ
 君の雰囲気に、よく似合っている」
きれいだ、と
その言葉に ぱぁっ、と
の中に温かいものが広がった
「えへへっ、ありがとセンセ」
にっこり笑ってはヒラヒラと手を振った
「髪の毛ほめてもらうって、女の子にとったらすごく嬉しいことなんだよー」
最悪な気分から一気に抜け出して、は廊下を走っていった
それを見送りながら、ふわふわとそのひなた色の髪が揺れるのを氷室は見つめ、
その後ろ姿が完全に廊下の奥に消えると、自分も教室へ戻った

きれいな髪だ、本当に
は窓際の席だから、ひかりに透けて午後の授業の時など本当にキラキラしている
よく笑う彼女にはぴったりだと、いつも思っていた
思っていたことを言ったまで
(・・・・あんなに喜ぶとは・・・・)
めったに自分に向かっては笑わない彼女
作ったような愛想笑いではない、あんな無邪気な笑顔を初めて見た気がした
氷室にとって、それは自分でも驚くほどに嬉しかった
との距離が少し、近くなった気がした
それは担任として、とても喜ばしいことなのである
(やはり笑顔がよく似合う)
満足気に、氷室は微笑した
このことで、少しはが自分の前で笑うようになるだろうか
いつも教室で見せる作ったものではない、本当の笑顔を
 


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