桜 <氷×主>


入学式の日
間新しい制服に身を包んで、少し緊張したような顔をして新入生達が講堂を目指している
4月、よく晴れた朝
新しい一年がはじまろうとしている

氷室は今年、一年を担任することになった
1週間前に渡された自分のクラスの名簿はもう完璧に頭に入っている
中学の制服をきて写っている写真をパラパラとめくりながら、氷室は満足気に微笑んだ
教師として、クラスを担任できるということは喜ばしいことだと思う
授業に専念できないから、担任などわずらわしいだけだという教師もいるが、彼はそうは思わない
自分のクラスの生徒達の、その成長を見守り、導いてやれるということに誇りを感じる
そして、身近に接する発展途上の生徒達から何かを教わるであろう可能性も信じている
(楽しみなことだ・・・)
氷室にとって、このクラスが記念すべきはじめての担任
一度、産休の先生のかわりに2 年生の担任を一時的にしたことがあったが、
やはり担任というなら一年生から持ちたいものだ
もう一度、満足気に微笑して、氷室は立ち上がった
まだ時間には早いが、少し散歩でもしよう

外へ出ると、氷室はまっすぐへ教会へ向かった
あそこは今は使われていないから静かだろう
側の桜も見事に咲いているだろうし、
今の彼の、晴れやかな気持ちにはぴったりの場所だ
裏道を通って、喧噪から離れ、氷室は今は閉鎖されている教会へ向かった
この学校では、2番目に気に入っている場所だ
静かで、何かを考える時にいい
心が落ち着くし、何より秘密めいた神秘的な空間が心地いい
(桜もあと1週間程か・・・・)
満開の時期に入学式ができて良かった
新入生達を歓迎する意味で植えられた桜
去年は暖冬で早くに咲きすぎ、入学式の時には緑色をしていたっけ
それでは雰囲気に欠けるというものだ
今年は順調
氷室は満足した
その時

ドンっ
「きゃっっ」

角をまがったところで思いっきり誰かにぶつかった
ぶつかった拍子にフラフラとよろめいた相手の腕をつかんで氷室は苦笑した
新入生の女の子だ
間新しい制服に、ピカピカの鞄
明るい色の髪に、ピンク色の桜の花びらがついている
「・・・君、式は向こうの講堂だ」
「はっ、はいっ、ぶつかってすみませんっ」
背の高い自分からしたら、とても小さく感じられる女の子
晴れた今日の日に、その違和感ある桜の花びらが目に妙に新鮮だった
「ごめんなさいっ」
ペコリ、とおじぎをして、女の子は去っていく
慌てたように走る様に、氷室はもう一度苦笑した
(・・・・・私のクラスの子だな・・・・・)
見覚えのある明るい髪色
幼い顔
たしか、 といったか
(迷子にでもなったか?)
もうすぐ式がはじまるというのにこんなところで
送っていってやれば良かっただろうか
思った時、ざぁっと強い風が吹いた
木々のざわめきが聞こえて、顔をあげると見事な桜が空を全面ピンクに染めていた
(ああ・・・・)
あの子はこれを見ていたのか
それで髪にあんな花びらをつけていたのか
おかしくなって、氷室は笑った
取ってやるか、もしくは注意してやれば良かったのに、そのままにしてしまった
彼女はピンクの花びらをつけたまま 式にのぞむのだろうか

それから式を追え、教室に入って氷室は窓際の席にをみつけた
興味しんしんにこちらを見ている彼女に、苦笑が浮かぶ
スカーフがまがっている
ああ、もしかして自分とぶつかった時にまがってしまったのだろうか
女の子が、そんなことにも気づかないで、そのままだなんて
この年になったらオシャレばかりに気を回す生徒だっているというのに
、スカーフが曲がっている、直しなさい」

新しい一年が始まる
30人の生徒と一緒にはじまる
その中に、桜の印象を与えた彼女もいる


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