落とし物　(氷主)

今週の校庭の掃除当番

　　以下4名

「校庭掃除って好き〜」
大きく伸びをして、誰かがいった
軽やかな音楽が学校中に響いている
今は5時間目の前の掃除の時間
グループごとに毎週掃除場所がわりふられる
今週は、私達のグループが校庭の掃除当番
教室の掃除に比べて、外は楽
見張りの先生もいないし、何より晴れの日は気持ちがいい
「適当にゴミ拾いしてさぼろーぜー」
男子がさっそくほうきをでチャンバラをやりだした
うん、同感
目立つゴミだけ拾って、あとは友達と喋って終わりのチャイムを待つ
今週は、それが私の楽しみ

「あ、氷室」
急に男子がコソコソと壁ぎわにひっついて上を見上げた
つられて見ると、3階の音楽室の窓があいて、窓際に氷室先生が立ってるのが見えた
そういえば、先生は吹奏楽部の顧問だったっけ
クラブでもものすごい厳しいって、誰かが言ってたな
あそこの掃除監督なのかな
それとも、何かクラブの準備でもしてるんだろうか
「やべー見つかるとこだったよー
　あっち行こうぜー」
見つからないうちに、みんなでこっそり移動した
せっかくの楽しい掃除の時間(もといサボリの時間)を真面目な氷室先生に見つかるなんてゴメンだもん

その日、ハンカチがないのに気付いて慌てて教室中を探した
クラブの課題の刺繍入りで、昨日徹夜で仕上げたのに
いつの間にかなくなって、クラブの時間まであと少しなのに見つからない
(どっかで落としたかなぁ、でも今日は体育もないし移動教室もなかった・・)
誰もいない教室で途方にくれていると、ガラリとドアがあいた
「」
「あ、先生」
氷室先生が立っていた
手に私のハンカチを持ってる
「あっ、それ私のっ」
慌てて駆け寄ったら、先生は眉を寄せてそれを差し出した
「よかった〜
　どうして先生が? 私どこかに落としたみたいで・・・」
「校庭に落ちていた
　音楽室の、丁度真下だ」
それで、あっと
掃除の時に落ちたのか、と納得した
見つかってよかった
あんなに時間がかかったものを、また一からやり直しだなんて気がめいる
本当に見つかってよかった
「ありがとうございます〜先生っ」
「気をつけなさい、課題だろう」
「はいっ」
それで、またはっとして先生を見た
どうして私のものだってわかったんだろう?
名前なんか書いてないのに
「・・・それは・・・・・・声が・・・・」
「え?」
「いや、掃除の時間に君の声が下でしていたからだ」
「え?!」

一瞬、驚いてまじまじと先生の顔を見つめた
3階にまで聞こえるような大声で話してたってこと?
掃除の時間は学校中に音楽が流れてるのに、それでも聞こえる程ってこと?
「私そんなに大声でした?」
ちょっとだけ恥ずかしくなって、それからバツが悪かった
それじゃあ先生には私達が掃除をさぼってたのがバレバレだったってこと?
もしかしなくとも、そういうこと?
「サボルのは誉められることではないな」
「すみません・・・・」
「罰として君達の班は来週も校庭の掃除だ」
「え?!」
(それは、罰にはならないような・・・むしろラッキー)
喜んだのがバレたのか、先生はまた眉を寄せた
「・・・・まったく君は・・・」
あきれたように一つせき払いをして、先生が言った
「校庭の掃除監督の先生がいないようだから、明日から私がすることにする
　時間中きっちり掃除させるから、そのつもりで」
「えーーーーーーーーーーーーーっ」
今度は不満が思いっきり出た
また先生が顔をしかめたけど、そんなことにはかまってられない
掃除時間のバラダイスがなくなっちゃう
「えーではない
　そもそも掃除というのは普段使用している教室などを綺麗にし、心身ともにリフレッシュするために・・・」
「わー、わかりましたーっ
　明日からちゃんと掃除しますーーーっ」
またいつもの説教が始まってはクラブに遅れる、と
慌てて言って愛想笑いを一つした
「先生っ、これありがとうございましたっ
　今度お礼に何か作ってあげますねっ」
「・・・・・」
あからさまに、一方的に話を終わらせられて不機嫌そうにしながらも
先生は自分もクラブに遅れると、時計を見た
「早く行きなさい」
「はーいっ」
慌てて廊下に出て、走って手芸部の家庭科室までいった
ついてるんだか、ついてないんだか
刺繍のハンカチが見つかったのは良かったんだけど、いらないおまけまで付いてきちゃった
(掃除監督が氷室先生だなんて最悪・・・・)
明日から、どんなにみっちりと掃除させられるのかと思うとうんざりする
それに、
(私ってそんなに声大きいんだ・・・・・)
それはそれで、恥ずかしいのでは
3階まで筒抜けだったということは、いつもみたいにバカな話をしていたのを全部聞かれてしまっていたということか
(うわー、まさか先生の悪口とか言ってなかったよね〜)
一瞬サァーと寒気がして、
それから、今日のおしゃべりの話題が「クラスの気になる人」についてだったことに気付いてホッとした
良かった、それなら聞かれてもさして不都合はない
だいたいクラスで気になる人なんかいないんだから
まるで子供みたいにほうきでチャンバラなんやりたす男子には興味がない
うん、とりあえず、まずいことは聞かれてないはず

新しい課題をしながら、ふっと思いいたる
落ちているハンカチを見付けて、わざわざ届けてくれたんだよね
放課後だったから、わざわざ私を探してくれていたんだよね
(ちょっと意外・・・・)
今さら、優しいなぁなんて気付いて嬉しくなった
見た目あんななのに、
こないだから何だか先生の新しい部分ばかりを知っていく
そしてそれが、なんとなく嬉しい
(私、先生のこと嫌いじゃないなぁ)
別れ際に適当に言ったこと
「今度何かつくってあげる」
本当に、何か作ってあげようかな
このあいだ送ってくれたお礼と、今日ハンカチを拾ってくれたお礼に
何がいいかなぁ
何だったら喜んでくれるかなぁ
いつもの仏頂面を思い出して、少しだけ笑った
先生のために何かを作る
それってちょっと楽しそう