雨上がり (氷×主)


その日はいきなり土砂降りの雨
天気予報では、雨だなんて言ってなかったのに
今日はクラブで遅くなって、友達もみんな帰っちゃったし・・・

「しょーがないなぁ・・・・やむまで待とう」

正面玄関の横の、靴箱の側にある傘立てに腰をかけた
あたりまえだけど、傘立てはからっぽ
一体いつから降ってたんだろう
作業に夢中で全然気づかなかった
今日は今つくっているものを完成させてかえろうと、張り切ってたから
(もー、残んなきゃ良かった )
誰か友達が通らないかな
そうしたら傘に途中までても入れてもらうのに
暗い空を見上げて、溜め息をついた

待ってる時間は長い
5分が30分くらいに感じてしまう
それに雨は、嫌い
暗くて、じとじとしてて、なんだか気分がめいってしまう気がするから

「あーん、もぉっ、走って帰ろうかなっ」

もともと気が短いんだ
今日は宿題だってたくさん出たし、いつまでもこんなところで待ってなんかいられない
幸いまだ6月だし、濡れても風邪なんかひかないよね
心を決めて、カバンを抱きしめ、勢い良く立ち上がった
座ってた傘立てが、カチャン、と小さな音をたてた
その時

? そこで何をしている?」

ふと、聞き覚えのある声
そして、実はあまり印象の良くない声がした
「あー・・・・先生」
そこには担任の氷室先生が、いつもの難しい顔で立っていた
「雨やどりです」
「・・・・・・雨?」
この春入学して、氷室先生が担任になって、そして入学式の日にいきなり注意されてから 私はこの先生が、ちょっと苦手
いつもつまらなさそうな顔をしてるし、
授業は難しいし、宿題は多いし、
何よりなんだか真面目そうで、とっつきにくくて、気難しそうで
とにかく私とは合わない感じ
そういうのが、見てるだけでびんびんと伝わってくるから

「傘は持ってきていないのか」
「はい」
(持ってたら、こんなとこで雨宿りなんかしないもん)
「いつ何が起こるかわからないんだ
 傘など邪魔にならないものは予備にロッカーに置いておくなどしておくように」
「・・・・・はい」
(うわー先生は絶対置き傘してそう〜)

私の側まで来て、先生は空を見上げた
「まぁいい
 今日は送っていっていく、来なさい」
「え?」
「私の車で送ると言ってるんだ、来なさい」
「え?!
 そんな、いいですっ
 先生、遠回りになっちゃうし、私走って帰りますからっ」
(うわーん勘弁して〜
 氷室先生と車の中で二人っきりなんて、私何しゃべったらいいの〜?)
「何をばかなことを言っている
 この土砂降りの中を濡れて帰る気か?
 風邪をひいたらどうする」
「大丈夫ですっ
 私、こう見えても丈夫だし、走るのだって嫌いじゃないんですっ」
「いいから来なさい、

結局、
先生の命令口調にはかなわなかった
最後の方なんか怒ったみたいに怖い目で言うんだもん
一生徒としては、従う他に道はありません

「あの・・・・・・」
「なんだ?」
「・・・・先生はいつもあんなに遅いんですか?」
車の中、静まり返った雰囲気に耐え切れず、とうとう私が切り出した
沈黙って耐えられない
仏頂面で黙って運転して、楽しくもなくともないんだもん
ひとこともしゃべらないし、
こんなんならやっぱり走って帰ればよかった
「いや、今日は明日のテストを作っていた」
「え?! テスト?! そんなこと一言も言ってなかったのにっ」
「日頃きちんと予習復習をしていれば、抜き打ちテストなどなんでもないだろう
 毎日の積み重ねが大切だと、私は何度も言っているが?」
「・・・・それは・・・・そうですけど〜」
ふてくされた私に、チラ、と先生が視線を移したのを感じた
あーもーサイテー
帰ったらメールでみんなに教えてあげなくちゃ
ああでも、今さら勉強なんかする気にならないよぅ
「何か不満か?」
「いえ・・・・・・べつに」
あーあ、もっと優しい話のわかる先生が担任だったらなぁ
こんないつも怒ったような顔をしてる、怖い先生じゃなくて
テストとかもしなくて、授業も楽しくて、
二人で車に乗ってても話のはずむ人だったらいいのに
は、どうしてあんなに遅かった?」
尋問みたいな口調にちょっとだけカチンときた
そりゃ下校時間はとっくに過ぎてて、校内に残ってる生徒はほとんどいなくて
そのせいで、先生がわざわざ私を送るはめになったんだけど
「クラブだったんで」
そっけなく答えたら、また先生が私をチラとみた
こういう、一瞬だけ視線を移す
そういう仕種が嫌い
人のこと見るならちゃんと見たらいいのに
まるで盗み見みたいで感じ悪いじゃない
(まぁ・・・運転してるから仕方ないんだけど・・・)
は手芸部だったな
 そうか、夏休み明けにある作品展の出店物を作っているのか・・・」
驚いて、私は先生を見た
いくら担任だからって、自分のクラスの生徒のクラブを全部覚えているもの?
ああでもまるでコンピューターみたいなこの先生ならありうるかも
しげしげと、先生の顔を見てたからかな
少し戸惑ったような顔をして、先生はつけたした
「いや、4月に集めた雑巾が・・・合理的で、かつ均整のとれた美しい縫い目だったから・・・」
途端に、本当に無意識に 私はぷっと吹き出していた
そのまま笑いが止まらなくて、
声を上げて笑ってしまった
雑巾?!
私の縫っていった雑巾の縫い目が綺麗だったからって?!
「あはははっ、先生ってばっ、雑巾をそこまで熱く語る人はじめて見た〜っ」
ケタケタと、お腹をかかえて笑い転げたら、
先生はあっけにとられたように私を見て
それからまた眉を寄せた顔になった
「・・・・何が・・・おかしいのだ、まったく・・・・」
「何がって〜っ」
不機嫌そうにハンドルを握って、前を見ながらまだブツブツと、雑巾の縫い目についてどうのこうのと言ってる様子がおかしくて
私はなんだか、あの仏頂面までおかしく思えてきてしまった
(あはは、まさか照れてるとか?)
そう思ったら、不機嫌そうな顔も前ほど嫌じゃない
というよりか、怖い印象だったのに、結構天然だってことを発見してしまった
なんか、なんか、
「先生って可愛い」
笑いながら言ったら、先生はまた顔をしかめた
「・・・・そういう言葉は教師に対して使うものではない」
「だって可愛いんだもん」
「それから教師には敬語を使いなさい」
「はぁい、先生」
「・・・・・」

眉を寄せたまま、相変わらず無口に運転する先生と
なんだか全然先生が怖くなくなってしまった私
いつもの調子で、「ああ」とか「そうか」とかしか返さない先生相手にくだらない話をしている間に、
いつのまにか空が晴れた
雨が、上がった

「あー、すっきりー」
窓を開けると、しめった風がはいってくる
「雨は嫌い」
「そうか、私は好きだが」
「え?! どうして?!」
「・・・・・・・いや、」
急に照れたようにハンドルを握り直して、先生はまた無言になった
「雨が好きなんて変わってるなぁ・・・・氷室先生は」
「たまにはいいものだ」
「そうかなぁ」
「ああ」

それから車はゆっくりと、家の前に到着した
「ありがとうございましたっ」
「ああ」
ブルルンと去っていく車を見送って、それから空を見上げた
私は晴れの方が好き
でもたまには、
今日みたいな雨ふりならいいかもしれない
氷室先生の、意外な素顔が見られたから


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