朝陽 (氷×主)


夏休みに入った最初の朝、不思議な夢を見た
音がまったくない 雨の朝の夢
見なれた風景
洋平を失ったあの場所に、生きていた時と同じ笑顔で彼が立ってた

そして、ふわっと笑った

「・・・洋平・・・?」
目を覚ますと、まだ外は暗くて、太陽も上ってないような時間
目覚ましはまだまだ先の時間にセットされていて 物音は何もしなかった
眠りが浅かったのか、はっきりと夢の内容を覚えている
もう何度も何度も夢に見た 痛い雨の朝の、あの場所で、確かに彼は笑っていた
まるで、大好きだよと、言ってくれた時のように

(・・・洋平の夢・・・ひさしぶり・・・)

彼を失ってから、見る夢はいつもいつも痛いものだった
雨が降っていて、冷たくて
は一人で、彼は息をしていなくて
だから眠れない日々が続いて、まるで幻影に捕われるように彼のことばかり探していた
代わりを見つけて、必死に求めて
義人に与えられた優しさに、悲しい夢は姿を消した
それがたとえ自分を誤魔化している行為でも、
義人は、洋平ではありえないとわかっていても、
それでも良いと思っていた
涙に溺れるよりはずっとずっとましな日常
色んなことを勉強して、優しい女になりなさいと
言った義人は、洋平と同じ様に明るい笑顔で笑っていた
その言葉は、今もの心に残っている

なんとなく、洋平が呼んでいる気がして、
は着替えると外に出た
あの日から、一度も近寄っていなかった あの交差点の脇
怖くて、
辛くて、
行けなかったあの場所
今朝は、行ける気がした
夢の中で、彼が笑っていた場所が そこだったから

こんな時間には、車が時々通るくらいで、人は誰も歩いていない
道路の脇に置かれた花は、まだ新しくて
それを見て ひどくひどく心が痛んだ
来たくても、来れなかった最後の場所
大好きな人を永遠に失った雨の朝
立ち尽くして、しばらくその花を見ていた
洋平の家族が、今でも時々花を供えているのだと思った
優しかった彼の母親や姉に会うたびに、この人たちと自分は いつか家族になるんだと勝手に考えていた
幼かった、あの頃

「今まで・・・これなくてごめんなさい・・・」

自分も花をもってこればよかった
洋平の好きなひまわりの花
明日きっと、持ってくるからと そう言ってはそこにしゃがみこんだ
もっと早く来ればよかった
ここで、彼は待ってたかもしれない
あの日からもうどれたけ時間がたったのか
待ちくたびれて、今朝 夢で呼んだのだろうか
逢いに来て、と

不思議と、心は落ち着いていた
悲しみに溺れていた頃、葬儀にも行けず、この場所にも来れず
ただ夢の中で 彼ばかりを追い求めて
いつしか現実の世界でも、彼だけを探し
世界を閉ざしていた自分が、ここでこんなに落ち着いていられるなんて
今朝の夢で、優しく笑った彼が 鮮明に思い出される
大好きだった笑顔
いつも、優しかった彼
大好きだよ、と
求めるたびに言ってくれたのに、どうして信じられなかったんだろう
どうして、その心を疑ったんだろう
目に見えるものしか信用できなくて、
人の想いが計れたら、なんて本気で考えていた

私があなたを好きな程、あなたは私を好きなの?
その、証明をしてみて

子供だった自分
困ったような顔で笑ってた洋平
そういうのがわかるようになったら一人前、だなんて言って
いつも、誤魔化されていると思い込んでいた
今なら、わかる気がする
代わりにと言った自分を 本気で想ってくれた義人や、
氷室へと向かっていくこのどうしようもない想いは、
何かで計れるものではないし
目になど見えなくても、確かに確かに存在する
そして、それを信じることができる

今なら

「ごめんなさい・・・私、こどもだった・・・」
そして、バカだった
全霊をかけて彼を想い、全身でそれを伝えようとしていた
不器用で、ワガママで、優しくないこどもだった
もう少し早く、今みたいな自分になりたかった
そうすれば、洋平を失わずにすんだのに
優しい義人を傷つけずにすんだのに

ふわっと、風が吹いていったのに なんとなく顔を上げ、ビルとビルの向こうが明るくなっていくのを見た
薄い赤紫の雲
空は金色
なんて綺麗なんだろうと思って、それから あの空の色は洋平の髪の色によく似てると思った
もう誰も傷つけない、優しい人になりたい
そして何より、強くありたい

その場所には心地よい風が吹いていて、それはまるで洋平が与えてくれていた想いのようだと感じた
今朝の夢で彼が笑ってくれたから
ここに、こんなにも気持ち良い風が吹いているから
涙が出るほどに、感じてしまった
今朝ここへ来たを、洋平は許すだろうということを

「ごめんなさい・・・、ありがとう」

そして、大好き
あなたに逢えて、あなたを好きになって良かったと
今なら、心からそう想える


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理