強いから好きだと、君が言う (氷×主)


カラン、
気持ちいい音がして、店に午後最初の客が入った
「いらっしゃいませ」
カウンターの花瓶の花を見ていたは振り返り、客の顔を見て僅かに笑った
「先生、走ってきたんですか・・・?」
もうここの常連のようになっている氷室にそう言って水のグラスをテーブルに置く
今日も外は暑い
太陽が容赦なく照りつけて、空気がギラギラしてる
そんな午後の時間
「・・・君は今日は何時までバイトだ」
「6時までです」
「休憩は?」
「1時からです」
いつも涼し気な顔をしている氷室の頬がわずかに赤い
時間に遅れそうで急いで来たのだろうか
氷室と待ち合わせらしき人陰は まだ店にいないけれど
「君に知らせたいことがあった」
何も聞かずにアイスティーを出したに、氷室は言った
綺麗な色、氷が涼し気な音をたてた
が紅茶しか煎れられないというから、氷室の注文は最近ずっと紅茶ばかりで
夏になると勝手に、がアイスティーを出すようになった
氷室は黙ってそれを咽に流し込む
何度いらないと言っても一緒にもってくる液糖の瓶が 窓からの光にキラ、と輝いた
「知らせたいこと?」
時計はあと5分程で1時を指す
のバイトの休憩が何分あるのかは知らないけれど
そしてここから学校まで の足でならゆうに20分はかかるのだけれど
「ひまわりが咲いた」
そう言って、氷室はテーブルにグラスを置いた
側に立つを見遣る
一瞬、氷室の言葉を理解できず、が瞬いて
それから 何か言いたげに口を開き
何も言えず、ただ氷室を見つめた
「さきほど登校したら、咲いていた」
太陽の化身のような花
今まで全く咲かなかった 夏の光
黄色い花びらを開いて、照りつける太陽に向かって
それは誇らし気に咲いていた
夏休みももう終わるこの時期
園芸部や、職員室の先生や、
毎日クラブに出てきている運動部の生徒達
そしてが待っていた、あの花が今朝咲いた
「君も、待っていただろう」
まるでのようなひまわりの花
夏なのに咲けなくて、太陽を失ったかのように堅く心を閉ざして
気になっていた、ずっと
早く咲けばいいと、祈るような気持ちでいた
だからとても嬉しかった
ああ、咲いた
ようやく花が、輝いた

「本当ですか・・・?」
「嘘を言ってどうする」

がもう一度瞬きをした
魅き込まれるように見つめた
その目はゆら、と揺れて揺れて

「今から見にいく・・・っ」

はきびすを返すと、カウンターに盆を置き、つけていたエプロンを外した
「待ちなさい、私も一緒に・・・」
慌てて、氷室も立ち上がる
だが、聞こえていないのか
はカウンターの中のマスターに休憩に入ると伝えると そのままドアに手をかけた
・・・っ」
追い掛ける間もなく、ガラス窓の外をが通り過ぎていく
駆け出した足は、氷室の想像よりも早く視界から消えた
遠く、制服の少女は走っていく

「・・・・・」

仕方なく、氷室は席に座り直すと の煎れたアイスティーのグラスを傾けた
からん、と
気持ちのいい音がする
さきほど、登校してまっ先に目にしたひまわりの花
もうすぐ夏休みも終わりだから、新学期になればもこれを目にするだろうと思って
だが、職員室に着く頃には なぜかいてもたってもいられなくなっていた
何かの衝動に突き動かされたように、入ったばかりのドアを出て
夏の日ざしの強い中 あの喫茶店へと向かっていた
いつもより足が急く
こんな炎天下の中、会いに行ったのは いつまでも咲かないひまわりのような少女
不安気な目の

40分ほどで、は店に戻ってきた
頬を紅潮させて、
出ていった時と同じく走って戻ってきて
まだ店内にいる氷室をみつけて駆け寄ってきた
「先生」
そうして、氷室の側に立つ
まだ息が弾んでいるから、全速力で駆けたのだろう
今ばかりは、あの憂いの表情はみあたらなかった
見遣って、ドクン、と
何かが胸の中で鳴った

「先生、咲いてました」
「ああ」
「とても、綺麗でした」
「そうか」

何と言えばいいだろう
この感情を
ひまわりの咲いたのを、に伝えたかった想い
駆けていって、戻ってきたの表情に 魅かれた想い
特別なこの感情

もう、どうしようもなく

「私、ひまわりって好きです」
強いから、と
は言って、笑った

ドクン、

それが、ひまわりのような笑顔だと の想い人が誉めたものか
くったくなく、はにかんだように
は笑った
君の本当の笑顔は、そんなにも輝いているのか

喫茶店を出て、再び学校へと戻りながら 氷室は小さく息を吐いた
強いから、好きだと言った夏の花
同じ様に笑ってみせたが、いつかあんな風に誇らし気に
まっすぐ立つ日が来ればいい
輝く日が来ればいい
泣いてないで、憂いでないで、偽ってないで

本当の君を、見せてほしい

夏空を見上げた
白い太陽が照りつけている
嫌いではなくなるかもしれない
この季節が、この身を焦がすような夏の熱さが


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