祈り (氷×主)


はじめて義人の部屋へ行った
ベッドにラッピングされたままの大きなヌイグルミが置いてあった
驚いて立ち止まったら、彼が笑った

「それ、にあげるよ」

クリスマスに店を手伝ってくれたお礼、と
振り返った先で、片手にカップの二つ乗ったトレイをのせて義人が笑う

寒い休日の朝
ここは、あたたかい

「クリスマスにはプレゼントを貰いました・・・」
「うん、それ実はアレのおまけ」
「このうさぎが?」
「そう、アレ買った店がなんとかフェアやっててね
 クジ引けっていうから引いたら そいつが当たった」
「こんな大きなの・・・?」
「店にはさすがに持っていけなかったからね
 帰りは家まで送るから 、こういうの嫌いじゃなければ引き取って」
頼むよ、と
言った義人に はクスと笑った
義人とヌイグルミって似合わない
彼のくれたクリスマスプレゼントは大人っぽいブレスレットだった
アクセサリーなんて、他にはペンダントが一つしか持ってないからびっくりした
洋平は、こんな風なヌイグルミばかりくれたから
いつもいつも、私のこと子供扱いしてたから
「私、ヌイグルミ好きです」
「そう、よかった」
義人が笑う
促されるままベッドに座って、湯気のたつカップを受け取った
いい薫り
義人の煎れるものは何でもおいしいと、そう思う
「上手に煎れるコツってあるんですか?」
「飲ませる相手を好きだったら、おいしく煎れられるもんだよ」
「・・・義人さんの煎れてくれるのは いつもおいしいです」
「俺が、を好きだからね」
落ち着いた声
優しく笑って、義人は自分のカップを側のテーブルに置いた
ドキン、ドキン、と
心臓が熱くなる
アップルティーって、初めて飲んだかもしれない
こんな風に少し甘くて、ふわっと香って
一口、二口、
飲んで顔を上げたら その長い指が頬に触れた
熱くなってる、今
あなたの言葉で
甘い、優しい言葉に酔ってる

「私もあなたのこと、好き・・・」

義人を見上げたら、彼は静かに笑った
ちょっとクセのある髪
明るい色は、陽にあたるとキラキラしてた
大人なくせに、子供っぽい目をするところとか
声が落ち着いてるところとか
けして怒ったりしない優しい話し方、言葉、視線、微笑
全部全部好きだった
今でも、あなたが好き
あなただけを見てる

「・・・ごめんなさい」

小さく、つぶやいた
大好きな人
大好きな洋平
そして、彼にあまりにも似過ぎているあなた
「あやまらなくていいよ、」
いつも、必ずそう言ってくれる 優しい優しい、義人
こんな私を許してくれるの?

いつもそうしてくれるみたいに、義人の腕が身体を抱いた
大人の人の強い力
安心する、あたたかさ
目を閉じていい?
思考を止めていい?
あなたのことだけ、考えていたい

まるでここに、あなたがいるみたいに

「義人さん、もし、翼があったらどこに行きたいですか?」
義人を見上げた
壁に背を預けて を腕に抱きながら 義人が天井を仰ぐ
「翼ねぇ・・・」
「どこか行きたいところがありますか・・・?」
そうだなぁ、と
しばらく考えて、義人は笑った
「もし、翼があったら にあげよう」
「え・・・?」
「俺には必要ないから」
「私に・・・?」
は、行きたいところがあるだろ?」

翼があったら、あなたに逢いにゆく

ドクン、と
胸が鳴った
切ないような苦しいような そんな感じになる
見上げた義人は、いつもみたいに優しく笑ってた
「私は・・・」
あなたに、逢いにゆく なんて
こんなにも優しい人の腕に抱かれながら
そんなこと考えてる私は、なんてなんて、嫌なやつ

「想いは罪じゃない、想うことは無駄なことじゃない」

目を閉じて、義人は言った
も目を閉じる
開けていたら、涙がこぼれそうだったから
こんな風な自分を許す義人の前で、泣く権利なんかない

翼をください、翼をください
もしこの背中に鳥のような白い翼があったなら、私はあなたに逢いにいきます
大好きなあなたのところへ、飛んでいきます

「ごめんなさい・・・」

言葉にはならなかった
まるで祈りのような、
義人の口ずさむ外国の曲を、ぼんやり聞いた
心が、温かくなった

あなたからもらった翼で、私はあの人に逢いにゆく


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