君は何を想うのだろうか (氷×主)


音楽室から、ピアノの音色が聞こえてきていた
今日は、との練習日
昨日くらいから、風邪で咽が痛いと言っていたから 今日は歌うのは無理だろうと
だから休みにしてもいい、とそう言ったはずだった
それでも、来たのだろうか
それとも別の誰かが、ピアノに触っているだけなのか

・・・・・」

だった
丁度夕雲が開け放たれた窓から見えた
室内は、ストーブがついているが、寒かった
「風邪ぎみなのでは、なかったか?」
話し掛けても、はピアノをやめなかった
気付いているのは知っている
ドアを開けた時、チラ、とこちらを見て微笑した
弾くのをやめないのは、今、弾きたいからなのだろう
氷室は開けっ放しの窓を、閉めた
室内がこんなに冷えていては、手もかじかむだろうに
ピアノを弾く指が、冷たく凍るようになるだろうに

「先生・・・」

ピアノが止んだ
知らない曲だった
そういえば、いつかの日 ここでクラスの女の子達に囲まれて弾いていた曲も氷室の知らない曲だったっけ
「その曲の名は?」
「・・・前に、教えましたよ」
「微笑する天使に逢う夢・・・?」
そう、と
は悪戯な目をしてみせた
「この間の旋律とは違うな」
「私が弾く曲はいつもそういう名前です」
目を伏せて、鍵盤に再び指をのせる
奏でるのは悲痛なメロディ
それでも、先程と同じタイトルなのだろうか
の言うとおり
「君が作ったのか」
「思い付いたままです」
が顔を上げた
「歌えるのか?」
「無理かも」
「では、帰ってよろしい
 本来ならバイトがある日だろう?」
「バイトは休んであるから、いいんです」
が立ち上がった
氷室にピアノを譲るようにする
「先生のピアノ聞かせてください」
「・・・何故」
「聞きたいから」
「必要以外では弾かない」
「先生、私の声 悲しいって言いましたよね
 悲しくない「翼をください」弾いてみせて」
その言葉に、氷室は苦笑した
何度注意しても、切な気な歌声で、
希望や優しさの感じられない歌になるから、の楽譜にはメモだらけ
発表会までもう少しなのに、いつまでたってもこうだから
「少しは気にしてるんです」
「そうか、それはいいことだ」
氷室は、言うと窓際から離れて、ピアノの前に座った
一呼吸、そしてを見遣る
ピアノにもたれるようにして、楽譜を見つめている
その横顔に、また苦笑がもれた
この時間
二人きりでの練習の時間
心は時折、切なさで溢れてしまう

翼をください
いつも弾く伴奏だけではわからないのだろうか
メロディをつけて、奏でてみた
この曲は純粋で、優しい曲だ
の澄んだ声なら、より良く聞く者達に感じさせることができるのに

「先生は、何を想って弾くんですか・・・?」

ふと、気付けばがこちらを見ていた
揺れるような目
音は続き、氷室は弾きながらの顔を見つめ返した
「先生のピアノは先生みたい・・・」
わずかな微笑
そして、は目を伏せた

何を想って弾くかだと
それは、君のことだ
君の憂いと悲しみが、少しでもどうか癒されますように

「歌の解釈ができるか?」
「・・・解釈?」
「どういう歌なのか、ということを考えたことがあるか?」
「ありません」
弾き終わると、にそう問いかけて
は氷室の言葉に 眉を寄せた
高校一年生の、幼い顔をしている
出されたテスト問題に悩んでいる、そんな顔
「解釈に答えなどない
 人それぞれに、想うことがあり、感じることがある
 また、どう伝えたいかによっても 歌い方は変わる」
は、答えはしなかった
考えているという様子で、歌詞を読んでいる

翼をください、翼をください
この大空に翼を広げ、悲しみのない自由な空へ

は、何を想うのだろうか


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