君が笑うなら、たとえ幻でも (氷×主)


の歌声が、音楽室に響いている
透明、そんな印象を受ける澄んだ声
ピアノを弾きながら、氷室は楽譜を目で追い歌うの横顔を見た
憂い、その色があの日から少しずつ失せていく
誰かの代わりに義人という存在を得たからか
彼によって、悲しみが癒されているからか

君がそれで、いいのなら

そっと息を吐いた
あれ程に少女を憂いさせていたものが、そう簡単になくなるのか
よく似ていても、義人は彼ではなく
の求めているものにはなりえないのに
・・・」
「はい」
「君はいつも同じところで音がずれるな」
「・・・音痴なんです」
「前の低音に引きずられて上がりきれていないんだ」
「先生、そんなのよくわかりますね」
「私は音感はいい方だからな」
の持っている楽譜に、二重に赤○がつけられている
前回もそう注意した
ここが上がりきれないから、この歌が悲しく聞こえるのではないか
の憂いが影をひそめた今なお、歌声が切ないのはそのせいではないか
「もう少し注意深く歌ってみなさい」
「はい」
氷室は、また伴奏をはじめた
1ヶ月に2度だけ時間をとって練習するこの発表会のコーラス曲
本番は4月だから、まだ3ヶ月も先
その頃には、は義人に癒され、あの中学の時の名簿のように明るい顔で笑えるようになっているのだろうか
悪戯な目を、取り戻してくれるのだろうか
そしてこの歌を、希望と優しさをもって歌ってくれるのだろうか

翼をください
翼をください
この大空に翼を広げ飛んでゆきたい
まるで、の心の叫びのような、歌

何度繰り返しても、の歌声は悲しかった
痛む心
は、本当は癒されてなどいないのではないか
まぼろしを追いかけ、まぼろしを求め、まぼろしに愛されていると錯角している
だから、憂いは落ちても心は悲しいまま
自分を誤魔化して、いるのではないか

(私には・・・関係のないことか・・・)

苦笑した
あの日、が泣いた日気付いたことがある
心が捕われている
この悲しい目の少女に、自分は捕われている
そして、それでもは自分を必要とはしていないということ
気付いて、苦笑した
今さらこの感情の名を知ったところでどうにもならない
には、義人がいる

その日の帰り、が微笑した
「先生、明日はクリスマスですね」
「そうだな」
「義人さんのお店に、来ますよね」
「ああ」
「私、明日あのお店のお手伝いをするんです」
「そうか」
「御来店おまちしています」
にこり、
の微笑、見なれる程になった
さようなら、と音楽室を出ていく姿
見送って、息を吐く
この想いの行き場など、始めからない


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