錯角 (氷×主)


あなたの側にいさせてください
これが夢でないのなら
ごめんなさいと、愛してる
伝えたかった想い
私は、あなたが大好きです

「側にいさせて・・・」

学校から去っていくあの人の後ろ姿
息が止まりそうになった
行かないで、おいていかないで
洋平と同じように笑って、同じ声で名前を呼んでくれたあの人
掴んだ手は、簡単にはずされた
嫌、ほどかないで
じゃあね、って
そう言って歩いていく
嫌、おいていかないで
あなたは誰? 誰でもいい
お願い、側にいさせて

「洋平・・・、まって・・・・・っ」

その姿が消えるまで、見ていた
足は動かなかった
声も出なかった
心臓が、止まりそう
苦しいよ、どうしたらいいの
洋平がいってしまう
あんなにあんなに待っても会えなかった人
また、これは夢なんだろうかと考えるのは嫌
今、捕まえなければ二度と会えないかもしれない

「まって・・・・・っ」

涙がこぼれるばかりで、足は少しも動いてはくれなかった
氷室の冷たい声が降り掛かる
「彼は、君の呼ぶ誰かではない」
涙でくもって何も言えない
先生に、何がわかるの
今、ここにいたのに
洋平が、いたのに
笑って、名前を呼んでくれたのに

あなたがたとえ、洋平でなくても

心が求めてる
こんなにも、あの人を追い掛けてる
頭でなんか考えられない
出会ってしまったの、あの人に
届かない夢ではなく、現実の世界で

「あなたの側にいさせてください・・・っ」

氷室に聞いた店の名前
がずっと待っていたのは、普段はあまり使わない裏口で
その一つ隣の路地に、店の看板は出ていた
そこでずっと待ってた
あなたに会えるなら、私は何時間だって待ち続ける
あの日から、もう1年が経とうとしている

「いいよ」

落ち着いた照明の店内
彼の指が頬に触れた
ああ、こうやって洋平も涙をふいてくれた
優しく見下ろして、仕方ないねって、言ってくれた
あなたも同じようにしてくれる

「いいよ、じゃあ今から俺達は恋人同士だね」

彼は笑った
大人びた微笑み、落ち着く声
熱くなる
彼の腕に抱きしめられて、目を閉じた
もう何も考えたくない
あなたの側で、目を閉じていたい

1時間程、はその店にいた
カウンターの向こうで音楽のボリュームをいじりながら煙草をふかす義人をぼんやりと見やる
白い煙
ゆらゆらと、音もなくまわる換気扇へと吸い寄せられていく
「俺は夕方から夜は仕事だからね」
「はい・・・」
「デートは週一でいい?」
「はい・・・」
「最初のデートは明後日だね、どこへ行きたい? ドライブでもする?」
「・・・・車は・・・」
あの、と
言い淀んで顔を上げたに、義人はクスと笑った
「車は好きじゃない? じゃあバイクは?」
「平気です・・・」
「海に行こうか、少し寒いけど」
「はい」
「じゃあ明後日、迎えに行くよ」
「はい・・・」
トントン、とすすむ会話
さっき義人が出してくれたグラスに、手をのばした
夢みたいな、時間
夢なら覚めないでと、そっと祈った
カラン、
手の中の透明な液体、中の氷が音をたてた

あなたが笑いかけてくれる、私に

帰り際、義人はキスをくれた
洋平がしてくれたみたいな優しいキス
触れて、その後微笑んでくれる
まっすぐに目を見て、おやすみと言ってくれた
あなたが、そこにいると、思った
夢ならどうか覚めないで

冬の帰り道、ひとりきり
冷たい風に、体温は一気に下がっていった
吐き出した白い息が、義人の煙草の煙に似ていて、
そのことを考えながら歩いた
他には何も、考えたくなかった
今は、目を閉じていよう
あなたのことを想いながら


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