lover (氷×主)


 、と生徒手帳に書いてあった
拾った時に、あの子かなと
雨の日に会った少女を思い出した
一言も話さず、雨の中立ってた子
まるで今にも泣き出しそうな目で、こちらを見ていた
印象に残ったのは、彼女が自分の母校の制服を着ていたから

「君・・・」

生徒手帳を届けて、買い物を済ませた後店に戻ると そこにがいた
うつむいて、途方に暮れたように立っている
12月のこの時間の、冷たい風の中
ここだけまるで時間が止まっているかのように、動きもせずに
「何してるの?」
「あ・・・・っ」
声をかけたら、は顔を上げて何かを言おうとして、
そして、黙ってしまった
言葉が出ない、そんな感じだった
自分を見て、突然泣き出した少女
生徒手帳の名を告げたら、零一が、自分のクラスの生徒だと言っていた
てことは、高校1年生
まだ たったの16才
「あの・・・っ私・・・・」
声が、震えた
また泣くのかな、なんてふと思った
その目は、不安気にユラユラと揺れている

「おいで」

鍵をあけて、店のドアをあけた
そろそろ日が暮れる
開店は7時から
それまでなら、店に高校生がいたってかまわない
「あの・・・ごめんなさい」
「あやまってばかりだね、君は」
「私・・・」
の背の向こうで、ドアがしまった
落ち着いた照明の店内を、それ以上中には入ろうとせず、はそこで立ち尽くしている
「私・・・・」
今にも泣き出しそう
何かを言おうとして、言葉を探して、呼吸さえうまくできないようで

、」

その名を呼んだ
ぴくん、と
震えて、それからこちらを見上げた目から 涙が落ちた
不思議な感覚だった

知らない少女が自分を求めている、こんなにも

「側にいさせてください・・・」
その告白は、悲痛だった
泣きながら、たった16才の少女が、1度会ったきりの俺に、何を求めて
「あなたの・・・側にいさせて・・・」
今にも崩れそうなその身体に、そっと触れた
冷たい頬に、涙はすぐに熱を失う
見つめて、苦笑した
彼女の痛みなどわからないけれど、心が少し傾いた
それは興味という形を成して

その夜、12時を回った頃 零一が店にやってきた
いつもの無表情ではなく、見るからに憂鬱そうにカウンターの席へと座る
客は、もうほとんどいない
いつもの、を奴の前へ置いた
「・・・・・益田」
「ん?」
零一は一気に、グラスをあおった
カラン、氷が心地良い音をたてる
「今日のこと・・・、」
カラン、カラン
手の中でグラスを回して、一度言葉を切って
だが、それきり零一は何も言わず 視線をグラスの中の氷に移した
憂鬱な顔、伏せられた目
今日のこと、気にしてるかと聞きたいのか
それとも、忘れてくれといいたいのか
 
その名を言ってやったら、零一は顔を上げた
「あの子は・・・」
何か言いたげに、口を開く
だが言葉は出てこない
さっきまで、そこにいたと同じだ
言葉にしたい想いを、口にできない
何といっていいのか、わからない
だから、そんな風にまた目をふせるのだろう
途方にくれたような顔をして
「あの子と、おつきあいすることにしたよ」
カウンターの上のライターを手にとって、火をつけた
驚いたような目が、真直ぐに見返してくる
いつもの煙草
いつもと同じ味
零一の視線に、いつもみたいに笑ってやった
「側にいたいって言うから」
「益田、それは・・・っ」
零一が立ち上がった
辛そうな顔をして、まるで俺を睨み付けるように
浅く息を吐き、そして言った
は、お前を別の誰かと重ねているんだ」

それは、だからやめておけと言っているのか
もう一度座り直した零一に、義人は苦笑した
「そんなことくらいわかってるよ」
吐き出した煙が、換気扇の方へと流れていく
いつもは、それを追うようにする零一が、今夜ばかりは俺を見てた
「何・・・?」
「そんなことくらい見たらわかる」
「じゃあ・・・何故・・・」
「暇だからな」
丁度 女と別れたところだ、と
言ってやったら、零一は口を開けたまま言葉を失った
そしてしばらく何も、言わなかった
何を考えているのか、なんとなくわかった

おまえは、あの子に捕われようとしているんだな

2杯目のジンに、零一は手をつけなかった
グラスの外側を、雫が伝っていく
頬を流れる涙のようだと、ふとを思い出した
側にいたいと繰り返した少女
いいよ、と そう答えた
笑って、抱きしめて、髪を撫でてやった
腕の中、は誰かを呼んでいた
それは、不思議な感覚だった

代わりにと、求められるのは初めてだ

「一応、担任には伝えておこうと思って」
「・・・俺には関係ないことだ」
零一の目は痛みを宿していた
そういう親友の顔は初めて見る、と ふと可笑しくなる
そんな顔もできるのに 普段は感情を殺したような風でいて
「お前らしくもない」
笑った義人を、零一は睨み付けた
静かに、夜はふけていく


女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理