慟哭 (氷×主)


あの雨の日、黒い傘を差し掛けてくれた人
洋平と同じ顔で、同じ声で、同じように笑って そこにいた人
あれから、あの場所に行っても、会えない
幻なんかじゃないって、この傘が証明してるのに
やっぱりあれは夢だったのかな、なんて思う

あなたは、誰?

神様、あの人は洋平じゃないんですか?
それとも、洋平が帰ってきたんですか?
毎日毎日、待っても会えないのは何故?
あの人は、本当に現実の世界に存在するの?

バイトのない日は、夕方から何時間か
ある日はバイト帰りに1時間程
は、あの路地の辺りをウロウロしていた
最初に見た、洋平の姿
あれから1週間後に、もう一度見た
まるで彼と同じように笑って、傘を差し掛けてくれた
息もできなかったあの時
ただ見つめるだけ、それで終わった
あの人はドアの向こうに消えて、それ以来会えていない

残ったのは、あの日借りた黒い傘だけ

「会いたい・・・洋平」

ベッドの中、寝返りをうって綺麗にたたんだ傘を抱きしめた
夢じゃない
あの人は、現実に存在するはず
煙草の匂いも、覚えてる
彼の言葉も覚えてる
背が高かった、洋平と同じくらい
髪の色が明るかった
洋平も、あんな風な色だった
大好きな彼、忘れるはずない
今も鮮明に思い出される、彼の姿
それが、雨の日のあの人と重なる

あなたは、洋平なの?

その日、は鞄の中に生徒手帳がないのに気付いた
(落としたのかな・・・)
だとしたらあの場所だ、と
こんな日に生徒手帳のチェックなんかし始めた風紀委員を見遣った
昨日、またあの人と会った場所へ行ったは、鞄から何度か携帯を出し入れした
一緒に入れていた生徒手帳が その時に落ちたのだと そう思う
昨日は宿題もなかったから、家では鞄を開けていないし
昨日の放課後までは、鞄に入っていたのをちゃんと見たから
さん、明日は忘れないでね」
「はい」
また点検するから、と
言われてようやく風紀委員から解放され、そっと息を吐いた
廊下を靴箱まで歩きながら考える
今日はバイトがあるけれど、その前にあそこに取りに行こう
暗くなってからでは、きっと捜せないだろうから
、」
その思考を、氷室の声が遮った
顔を上げたら、靴箱の向こう
正面玄関のところで、誰かと氷室が立っていた
手に、何か持っている

「・・・・・・・・!」

身体が、硬直した
氷室の側に立っている人
あなたは、誰

「洋平・・・・っ」

「君の生徒手帳を拾ってくれたそうだ」
フラフラ、と
歩き出したに、氷室が言った
心臓が、ドクドクしている
声が出ない
ねぇ、ここに氷室先生がいるから これは現実よね
今、この世界に、洋平が、いるんだよね
「洋平・・・っ」
呼んだら、涙が溢れた
驚いたように、彼も氷室も動きを止める
でもは、止まれなかった
あなたに、言いたいことがいっぱいあるの
ごめんなさいと、愛してる
ずっと一緒にいさせて
あなたの側にいたいの
私を、一人にしないで

「ヨーヘイ・・・・っ」

まるで倒れるように抱きついてきたを、義人は慌てて抱きとめた
「・・・・・・・・・?」
氷室の戸惑ったような声
そして彼の落ち着いた優しい声
「どうしたの? 」

もう二度と、聞けないと思ってたあなたの声

ぽんぽん、と
優しくの身体を抱いて、義人は苦笑した
「俺、何かしたかな?」
「・・・・」
隣の氷室はわけがわからないといった表情で視線を返してきて、
相変わらず、は腕の中で泣いている
「落ち着いて、・・・
その手が、髪をなでた
ぼろぼろと、涙がとまらなかった
って、呼んでくれた
もう二度と、呼んではもらえないと思ってた

「ごめんなさい・・・っ」

記憶と同じ温かくて強い腕
が泣き止むまで、義人はぽんぽんとの背を撫で髪を撫でた
夢なら覚めないで、と
何度も何度も祈った
もう放さないで、一人にしないで、抱きしめて
強く強く願った
どうか、神様、私から洋平を奪わないで


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