rain (氷×主)


しとしとと、雨が降る季節になった
義人はぼんやりと、音楽に混ざる雨音を聴いていた
時計は6時
そろそろ店を開ける準備をしなければ、と思いつつ なんとなく気が乗らないので こうしてここでダレている
携帯の電源を切って、3日目
一週間前別れた女からのメッセージは、今も留守電にたまっているのだろうか
「おまえが冷たすぎるんだ」
親友はそう言って顔をしかめていたっけ
冷めたから、別れる
大人の恋愛なんて、そんなものでいいと義人は思っているけれど
相手の女は違ったようで
すがりついて泣かれたのに、辟易した
終わった愛に何を求めるんだ、と 鳴りっぱなしの携帯をオフにして3日
おかげでこっちまで気分が乗らない、と溜め息をついて義人は立ち上がった
こんな時は、片付けでもしようか
幸い、そこにパンパンになったごみばこが見えていることだし

ガチャ、

裏口のドアを開けた
外にはでっかいゴミバコが設置してある
業者が回収に来ることになっているそのゴミバコに、店内で出たゴミをまとめて捨てる
普段はバイトがやるから、義人はめったに裏口は使わないけれど
「・・・・っ」
丁度ドアを開けた時、弾かれたように顔を上げた少女が目に止まった
店から少し離れた場所に立っている
誰かを待っているのだろうか
あそこは、たしか花屋の裏口だから、そこのバイトの子なのかもしれない
硬直したようにこちらを見ている少女に、義人はそんなことを考えた
「そんなところにいたら、濡れるよ」
外は雨が降っている
少女の立っている場所には屋根がない
煙草に火をつけながら、義人は空を見上げた
あまり激しい降りではないけれど、ずっと立っていたらやはり濡れるだろう
(店に傘、あったかな・・・)
見遣った少女は動きもしない
人形みたいに、突っ立っている
(おかしな子だな)
クス、と
笑みがこぼれた
彼女が着ているのがはばたき学園の制服じゃなければ無視していたかもしれない
零一はあんなのを相手にしているのか、と
時々店で溜め息大放出の親友の顔を思い出して、義人は笑った
丁度、見回したドアの側に、黒い傘がたてかけてある

「ああ、もう手後れかな」

くわえ煙草で、少女に傘を差し掛けたら その目が義人を見上げた
ゆらゆら、と今にも泣き出しそうなのは何故だろう
この年頃の女の子ってよくわからないな、なんて思いつつ
義人は、少女の手に傘を握らせた
「風邪ひかないように」
そう言って、シャツを濡らしはじめた雨から逃げる様、店へと戻った
ドアを閉める時、ちら、と彼女を見たら やっぱり動かずに立ち尽くしていた
義人が無理矢理に持たせた傘をさして

はら、と
髪から落ちた雫を袖でぬぐいながら、義人は店にかかっている音楽のボリュームを上げた
落ち着いたジャズが心にしみていく
長くのびた煙草の灰をカウンターの灰皿に落として、深く、息を吐いた
雨の音は、音楽に消されてもう聞こえない
なぜか、憂鬱さは消えていた
あの雨が、流してくれたのかもしれない


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