疑似 (氷×主)


その日はいつもより帰るのが遅くなった
バイト先での掃除が長引いてしまって、気付けば10時前
夜の街は賑やかで、女の子達が楽し気に笑いながらすれ違っていった
ここは現実
だから、私がひとりぼっちなのも当たり前の場所

「洋平・・・」

考えないようにしなさい、と言われ
何か他のことで気を紛らわせて、と奨められ
そのうち忘れて新しい恋ができるわ、と慰められた
あなたなら、大好きだった人を、忘れるなんてできる?
心の中はあの人のことでいっぱいで
失った痛みに何も手につかない
貴方がいなければ生きていけない、なんて よく映画やドラマで言ってるのを聞いた
そう思ってた
洋平がいなくちゃ生きていけない
それ位、洋平のこと好きだった
なのに、私は今生きていて、
悲しみや寂しさで死ぬことなんかないんだと知る
ただ無気力に毎日を過ごしてる
こんなの、生きてる意味ない、なんて思いながら

本当は私も死んだ方が良かったのに

あの事故の日、何も知らない周りの人は私を可哀想だと言った
恋人を目の前で失って
可哀想な子ね、ってそう言った
洋平のお母さんが泣いてた
「あなたは、あの子の分も生きてね」
その言葉に、心が壊れるかと思った
私は洋平を殺したのに、
私が殺したみたいなものなのに、
後も追えないなんて
一緒に死ねないなんて

悲しみで死ねたらいいのに
いっそ、涙に溺れるようにして

ふと、物音で顔を上げた
ドアをあける音
そして、出てきた人陰
はっとして、立ち止まった
洋平が、そこにいた

「・・・・どうして・・・・・」

物音が一切聞こえなくなって、視界がただ彼だけになった
あなたは、誰
本当に洋平なの?

ほんの20秒程だったろう
彼は手にした袋を側のゴミバコに入れると 戻っていった

パタン

ドアのしまる音が心に残った
「あなたは・・・誰・・・?」

洋平が戻ってきた、と思った
頭ではあり得ないとわかっているけれど
だけど、あの一瞬目にしたあの姿
彼以外にありえなかった
他人だというのなら、あまりにもあまりにも似過ぎている

ベッドの中で目を閉じる
あの場所
何度も、彼によく似た後ろ姿を見た場所だ
何度追い掛けても、必ず途中で見失った人
ちょうどあの辺り
今日、洋平に会った場所あたりで、いつも見失う
「明日もまた・・・会える・・・?」
つぶやいてみた
洋平に、伝えたいことがある
ごめんなさい、ごめんなさい
そして、今も、大好きだと

次の日、バイトの帰り は昨日の場所へと行った
だが、いつまで待っても 彼はあのドアから出てこない
夢だったのだろうか、と ふと考える
いつも彼のことを考えているから、頭がおかしくなって
幻を見たのだろうか
全部全部、自分がつくり出した幻影かもしれない

「・・・・・」

溜め息を吐いた
いつも、こう
存在しない彼の影を追い掛け続けて、探し続けて
いつか疲れて忘れてしまうのだろうか
大好きな人のことを
こんなにも、こんなにも、心を支配している人を

夜の11時まで その場所に立ち尽くして は空を見上げた
心に満ちている罪悪感
どうしても拭えない想い
息苦しかった
どうしようもない程に、やりきれなかった
彼を見たのが夢だというなら、もう一度あの夢に連れていって
彼の側にいさせて
あの人と、一緒にいたい

とぼとぼと、表通りに出た時 背後から声がかかった
・・・こんな遅くに何をしている」
振り返ると、氷室がいた
怪訝そうに、どこか心配そうに こちらを見ている
「バイトで遅くなったんです・・・」
彼の目を見ずに答えた
先生がいるから、ここは現実だ
そして、現実の世界に洋平はいない
「早く帰りなさい、もう夏休みではないんだぞ」
「はい」
うなずいたら、氷室はそれ以上は何もいわなかった
では、と
そう言って さっきが立っていた筋へと入っていく
その後ろ姿をなんとなく見送った
心は重いままだった

あなたはここにはいない
なら、夢でいいから会わせて
会いたい、会いたい
会って、ごめんなさいを言わせて
愛してるって、言わせて


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