ことのは、音声、知らないなまえ (氷×主)


放課後、氷室は1ヶ月ぶりに回ってきた当番で、図書室にいた
静かな、あまり人のいない場所
カウンターから見える本棚の、一番下から何かの本を取り出しては ばらっとめくって少し読む
それを繰り返すを、氷室はなんとなく意識して見ていた
ゆっくりとした動作
本を見ていても、どこかうわの空な印象を与える
「本が好きなのだろう」
以前聞いたことがあった
「別に・・・」
そう答えた
好きじゃない、別に
ただ色んなものを忘れられるから、と
他にすることがないから、と
は そう言った
そして今も、この図書室にいる

ずっと、見ていた氷室は、
その瞬間、思わず声を上げそうになった
ようやく一冊の本を持って が立ち上がる
だがその途端にふらり、と
その身体は床に崩れた
ドサっと
本が落ちた音が、図書室に響いた

(・・・おどろいた、貧血か)

保健室にの身体を運びながら、氷室はまだいつもより少しだけ早い鼓動をどうにか押さえようとしていた
ざわっと、生徒達がざわめき 辺りに集まり出したのを見て我にかえり、
慌てて抱き上げて、今ここにいる
想像通り、大人の氷室にとっては軽い身体
閉じられた目が、いっそうを弱く見せた
それで、妙な不安のようなものが生まれる

保健室には誰もいなかった
(そうか、会議だった・・・)
たしか、今流行っている風邪について一部の職員と会議をしていたはずだ
困って、
とりあえず、氷室はの身体をベッドへと横たえた
ぐったりとしていて、目をさまさない
時計を見ると、そろそろ会議も終わる頃か
の家に電話を入れて、それから保険医が戻るのを待つか
あまり会議が長引くようなら 連れて帰った方がいいのか
思った時、ふと が苦し気に息を吐いた
・・・?」
気付いたのか、と顔を見下ろす
ツ・・・、と
閉じた目から涙が伝って、それで氷室は一瞬動きを止めた
よく、わからなかった

悲し気な顔
苦しそうな浅い息
ゆっくりと、涙は肌をすべっていく
無意識に、
氷室はへと手を伸ばし、その涙をそっとぬぐった
どうして、泣いているんだろう
どこかぼんやりとして、
感情をあまり見せないが 泣くなんて
こんな風に苦し気に、悲し気に 涙を流すなんて

・・・君は何をそんなに・・・」

その問いに答える変わりに の口からことばが漏れた
一言だけ、微かに

「・・・ヨーヘイ」

それは、そう聞き取れた
人の名前、誰かの名前
何を思えばこんなにも、
何を思えば、こんな風に、
たった16才の少女が、哀しい涙を流すのか

(・・・わからない)

氷室は、小さく息を吐いた
何も、分からないが心が苦しい
こんなに小さな身体で、
まだたったの16才だというのに、
そんなに泣いているなんて、可哀想すぎる

重い空気を胸にためながら、氷室はその寝顔を見下ろした
この少女が笑っている顔を見たいと思う
こんな風に泣くのではなく
何にも興味がないと、言うのではなく
あの中学の頃の写真のように、無邪気に笑っている顔
それが見たいと思う
氷室はもう一度、涙をぬぐった
冷たい雫が、指に残った


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