君へは届かないため息、何度も何度も (氷×主)


が学校を休んだ
学校への連絡を一切せずに
家に電話をしても誰も出ず、携帯番号はクラスの誰も知らなかった
(・・・どうしたんだ・・・)
来る途中で事故にあったとか、倒れているとか
嫌な想像が頭をよぎる
自分のクラスの生徒だから、これほどに心配するのだ、と
自分に確認して、氷室は今日何度目かのため息をついた

教室に、はいない

結局、放課後になっても連絡もなく消息もつかめず、
氷室は授業の後、車での自宅へと向かった
休む時には連絡を入れるように、と
最初のうちにクラス中に言い聞かせ、無断欠席などないようにしていたのに
これが不真面目な他の男子生徒だったら、こんなにも気にはならないが
だから
あの、どこか何を見ているのかわからないような彼女だから余計に気にかかる
ぼんやり、と
暗い何かがを、どこかに連れていってしまいそうで恐い

の家の側の、人気のない公園の前を通りかかった時、氷室は制服姿の少女を見つけた
「・・・
だった
夕暮れの、誰もいない公園の、ブランコ
キイキイ、ときしむような音が響いている
は、やはりどこか憂いを含んだ目で そこに座っていた
揺れるブランコに、意識が奪われていく
氷室は、一瞬我を忘れた

キイ、と
突然プランコが止まり、がふ、と顔を上げた
こちらを見る
それで氷室は我に返った
車を下りて、公園へと入る
それをは黙って、見ていた
いつもの、つまらなさそうな、
何を考えているのかわからない顔をしている
、何をしている」
厳しい口調にも、の表情は変わらなかった
「休む時は必ず連絡を入れるよう言ってあったはずだ
 ・・・そして、学校というものはたとえ義務教育でないにしても、必要のない時以外は休むべきではない」
氷室には戸惑いがあって
それでも、教師として言わなければならないことが口をついた
いつものの顔を見下ろしながら、その憂いに支配されそうになるのを必死でこらえた
何を思えば、こんなにも哀しい目ができるんだろう
こんな少女が
まだほんの16才の少女が、どうしてこんな風な表情でいるんだろう
「聞いているのか」
「聞いてます・・・」
キイ、と
の座っているプランコが音をたてた
「どうして休んだんだ
 理由がないのならサボリということになるが」
またため息がこぼれた
つかみどころのない生徒
気になって仕方のないこの様子
「・・・つまらないから」
ぽつり、と
こぼした言葉に 氷室は苦笑した
「そんなことを言っていては 学校など成り立たない
 君にはやりたいことがないのか
 クラブとか友達とか・・・、何かあるだろう」
他の生徒はブーブー文句をいいながらも、それなりに楽しく学校生活を送っている
クラブに励んでいる者も、勉強に燃えている者も
いくらでもいる
みんな、何かしら自分の好きなことに 力を入れている
つまらない、と口にはしても
「君は、何が好きなんだ
 何に一番興味がある?」
ふ、と
が氷室を見上げた
それから、微笑した

「SEX」

含みのある口元
たった一言
だがそれは、瞬間氷室の理解を遥かに超えた
「・・・・は?」
瞬きをする
の表情は相変わらず
目はどこか暗い色をしていて、氷室を見ているのかさえわからない
口元に僅かに残った微笑も、今は消えた
呆然と、
氷室はただを見下ろす
言った意味がわからない
が、本気でわからない

「嘘です」

氷室には、長く感じられた時間も、実際にはわずかだったのだろう
がもう一度目を上げ、そう言った
微笑ってはいなかったが、はその瞳に氷室の姿をちゃんと映していた
「・・・君は本が好きなんじゃなかったのか」
コホン、とせき払いをする
「別に」
「毎日のように図書室にいるじゃないか」
「暇だからです」
はっきりと言い切る口調は、どこか自嘲ぎみに聞こえる
それは気のせいか
「本は読んでると色んなことを忘れられるから好きです
 でも、それだけです」
楽しくなんかない、と
まるでそう言っているように、氷室には聞こえた
何にも興味のない少女
暇だから、と
忘れることができるから、と
目を伏せた
彼女は何か、暗いものを心に持っている

「とにかく、こんなところにいないで今日は家に帰りなさい
 今後、無断欠席などしないように、君は反省文5枚、明日までに書いてきなさい」
驚いたように顔を上げたに、氷室は教師用の顔で続ける
「暇だというのなら丁度いいだろう
 なんなら10枚でもかまわないが」
「・・・5枚でいいです」
ちょっとだけ、が拗ねたような顔をした
ふ、と
途端にその表情が幼くなった気がして、氷室ははっとする
今、が年相応の少女に見えた
あの中学の時の写真の少女、あれを思わせた
「それから」
コホン、
嬉しくなった氷室はまたせき払いをし、チラとを見た
「今後こういうことがないよう、私は君の連絡先を知っておく必要がある」
何度家に電話をしても誰も出なかったから、
携帯番号を、クラスの誰も知らなかったから
「090-****-****」
ぽつり、と
言った数字を氷室は記憶した
「では立ちなさい、家まで送る」
その言葉には立ち上がって、だかふる、と一度首を振った
「一人で帰れます」
「だが・・・」
「私、車に乗ったらアレルギーが出るんです
 全身ぶつぶつになって1週間は治らないから、だからいいです」
嘘なのか、本当なのか
はかりかねて、氷室は眉を寄せた
「では、ちゃんと帰るように」
「はい」
どこまでも、読めない生徒
わからない
でも、ほんのほんの少し、隠されていた素顔を見た気がしたから
とりあえず、氷室はそれで安心した
ようやく、安心した

もう暗くなりかけた道を歩いていく後ろ姿を見送りながら、氷室は小さくため息をついた
気がつけば、のことで頭がいっぱいで
気にかかって仕方がなくて
どこか捕らえ所のない その独特の雰囲気に引きずり込まれそうになりながら
今ようやく、正気を保っているような
そんな自分が不思議でならない
他の生徒とは明らかに違うからこそ、
それは氷室へも、より異質で深い印象を残す
そしてその痕は、着実に氷室を染めて そのたびに彼は何度もため息をこぼす
今はまだ、理解できない感情を抱いて


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