より現実的な時間、君の素顔 (氷×主)


ドサドサ、と
その音は突然静かな図書室に響いた
「・・・?」
誰かが欲張って何冊も本を抱えたあげく、持ちきれなくなって落としたのか、と
氷室はカウンターから離れて 音のした方へと歩いた
図書室の薄ぐらい空間に、窓から入ったわずかな光が何本かのラインを引いてチラチラ舞う埃を浮き上がらせている
「どうした、だいじょうぶか?」
世界史の本棚をまがった所に、その生徒はいた
何冊もの分厚い本が床に散らばり、本人は未だ座り込んでいる
「・・・怪我は・・・」
ないか、と
問う前に、氷室は相手を確認して、言葉を切った
が、どこかぼんやりした様子で、こちらを見ていた

「大丈夫です」
やけにはっきりと、その声は聞こえた
ここが静かな図書室だからか
それとも彼女が、氷室をまっすぐに見ているからか
「・・・気をつけなさい、怪我は?」
コホン、と
小さくせき払いをし、氷室は落ちている本を拾った
どれも教師が授業の資料に使うような本で、それは妙にには不似合いに感じられた
「君は、こういうのが好きなのか?」
「・・・好きです」
ようやく、も立ち上がる
手を貸そうか、と思いつつ 動けないでいると は一人で立ち上がりぱんぱん、と二度スカートをはたいた
それでまたキラキラと埃が陽に舞った
「どの本がいるんだ?」
何冊もの本を棚へ戻しながら、氷室はいつもよりは落ち着いた気持ちで話し掛ける
「どれも・・・」
同じ様に背のびをして、棚の高い所に本を戻したは、全ての本を戻し終えると さらに上の棚に手を延ばした
「・・・?」
やっと届く高さの本棚
そこに並んでいる全集
ぐい、とひっぱって、本棚がグラグラと揺れた
・・・無茶にひっぱるな・・・」
ゆっくりと、氷室の目には映ったけれど 実際音が聞こえるとそれは一瞬に起こった
ドサドサドサ
「・・・・痛・・」
そして、先程の光景がまた広がる
の足下に分厚い本が落ちている
「・・・・君は・・・学習能力がないのか」
あきれはてて、氷室は今度は大きくため息をついた
背が届かなければ脚立を使うとか、
ここにいる自分に頼むとか あるだろうに
そしてまた、のお目当ての本は棚の上
いらない本ばかりが落ちている
少しだけ、おかしくなった
落ちた本を拾い上げ、棚に戻す
氷室には容易に届く棚
そうか、には この程度の高さも届かないか
小さいんだな、と
それで妙に、不安のような気持ちに包まれる
小さくて、頼り無くて、どこか苦し気で

「ホラ、これだろう?」
「ありがとうございます」

こうしていれば、普通の生徒で
他の子とどこも変わりなどないけれど、
最初の印象のせいか、それとも自分が意識しすぎているのか
がこちらを見上げたのに、氷室は不覚にもドキ、と身体が強ばるのを感じた
が自分を見た、それだけで

それからそのままの本の貸し出しの手続きをして、氷室は図書室を出ていったを見送った
手許に残った図書カード
まだ5月だというのに 何冊もの本のタイトルが書かれていて、それに氷室は少し驚いた
その多くは歴史だったり資料だったりで、それもまたの意外な一面だった
(本が好きなのか・・・)
交わした言葉はほんの少し
でも、学校の図書室という空間で、より現実的にという少女を感じた時間
雨の中、濡れているなどという幻想的なものではなく
あの雰囲気を感じさせない
ただの、少し抜けている生徒
そんな感じがしたから、それは氷室を安心させた
それこそが、彼女の素顔ではないだろうか、と思う気さえする

カタン、と図書カードを戻し、氷室は人の少ない図書室を見回した
ここが彼女がよくいる場所なのだとしたら、煩わしい当番の監督も たまには悪くはない
がいた空間を見つめて、氷室は微笑した
静かな空気、それは氷室にとっても心地良い


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