微笑する少女に逢う、夢 (氷×主)


氷室の顧問する吹奏楽部の練習は、毎週月、水、金曜日
その他の日は、音楽室には誰もいない
たまに掃除当番の子が掃除をサボって遊んでいたり、吹奏楽部の子が何人かで自主的に練習していたり、と
人がいることはあっても、こんなに遅くに
下校時間ギリギリまで、人がいることなどない
ふ、と
その音を耳にした時 氷室は思わず足を止めた
廊下と教室の戸締まりの見回りの途中
聞こえてきたピアノの音
女の子達の、声
「すごーい、さん上手〜」
「習ってるの ?」
「ねぇ、今のなんて曲?」
声でわかる
どの子も吹奏楽部で、氷室のクラスの女の子だ
そして、もう一人
「曲名・・・忘れたな・・・」
同級生に対してだからか、自分と話す時と少し違うトーンの声
それでも、聴き間違えるはずもない声
が、いる
「もう一回弾いて〜」
誰かが、ねだるような声で言った
それで、氷室ははっとして 時計を見る
下校時間を過ぎた
確認して、ドアに手をかけカタリと開けた

「あ・・・先生」
「わっ、ひむろっち」
女の子達が一斉にこちらを見る
「君たち、下校時間は過ぎている、早く帰りなさい」
ゆっくりと、が立ち上がった
その周りで、騒々しく鞄をつかんで女の子達も立ち上がる
「はーいっ、先生さようなら」
そうして、お小言が始まる前に、と 我れ先へと氷室の前を通りすぎ全員が廊下を走っていった
ただ、だけを除いて

・・・」
の手がピアノの蓋を下げて、鞄を取り、
それからゆっくりとこちらに歩き出すのを 氷室はただ見つめていた
音のないその仕種
目の前を通りすぎる時、ふわり、と短い髪が揺れた
、」
引き止めるような口調
それには、ふ、と視線を氷室へと向けた
ほんの一瞬
いつも何を見ているのかわからないその目が、氷室を映した
「今の曲は・・・」
聞こえてきたメロディ
氷室の知るどんなクラシックの曲でもなかった
問われて「忘れた」と言ったのが聞こえた
誰の曲?
何という曲?
を前にして、いつも思うように言葉の出ない氷室は、今もまた突拍子もない自分の言葉に苦笑した
この状況で、小言を言うならまだ自分らしいが それもできず
ただ無意識に出た言葉がこれ
何という曲?
「・・・・・・・・・に逢う夢」
あの優しくゆるやかな曲の名前は、

「・・・え?」

ふ・・・、と
少女は僅かに微笑んだ
そう、氷室には見えた
教室から出る際の、問いかけに答えた少女
一瞬氷室を見て、それから微笑した
あとは無言
まるで映画の続きのように、氷室が呼び止める前の映像が再生された
ふわり、揺れる短い髪
去っていく少女
廊下はやがて、静けさを取り戻す
氷室をそこに、置いて


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