雨の印象、それは憂いをおびた君の横顔 (氷×主)


その日は朝から雨
4月のあたたかい朝、本日ははばたき高校の入学式
学校へ向かいながら 氷室はふと信号で止まった車の窓から一人の少女を見つけた
傘もささずに歩いている、はばたき高校の制服の少女
サアサアという微かな音の中、少女は不思議に歩いている
どうしたのだろう
こんな朝早くに、こんな雨の中散歩でもないだろうに
降りしきる雨に濡れるのを気にするでもなく、少しうつむきがちに歩いている少女
耳の下で切りそろえられた短い髪は、したしたと雫をこぼして彼女の首を伝っていく
そのどこか憂いを帯びた表情に氷室は意識を奪われた
頼り無さそうな、細い肩
雨を含んで身体にはりついた制服は、彼女を冷たくしめつけているようで、
それで少女が苦しそうに、見えた

一瞬、我を忘れてその姿を見ていた氷室は、後ろの車のクラクションではっとした
「・・・」
慌てて、青信号に変わったのを確認して車を発進させる
最後にチラ、と横目で少女を見て、氷室は何か声を聞いた気がした
歌声というには頼り無い、こえ
それも雨と車の音に混じり消され、彼女の声だったのか わからない

その日、氷室は30人の生徒を担任することとなった
氷室はすでに、あらかじめ渡されていた中学の頃の写真で、全員の顔と名前を一致させている
高校の制服を着て、少し印象が変わるものの、それでもどの子を見ても名前が浮かんだ
(順調だ・・・)
氷室にとっては、2度目の担任
新任の教師でもない彼には、この瞬間も緊張などという感情はわかない
教室中の、生徒の顔を見回して氷室は最初の言葉を発した
「私が、君達の担任の、氷室零一だ」
好奇心いっぱいの目が氷室に集まる
どの生徒も、氷室にとっては可愛い生徒である
彼等の成長を楽しみに思いつつ、その目がふと廊下側の一番後ろの席で止まった
「・・・・・・・
一人の少女が座っている
名前はたしか、 
名簿に載っていた中学の写真は、紺色のブレザーに長い髪を肩までのばした少女
大人しそうな顔つきなのに、明るくて悪戯な目をしていたのが印象的だった子
「・・・
名前を呼ぶと 少女が顔を上げてこちらを見た
憂いに満ちた目
名簿の少女とは、似ても似つかぬ表情
今朝見た雨の少女と同じ、短い髪の苦し気な目
「スカーフがまがっている、直しなさい」
ああ、たしかにあの子だ
返事もせずに、ひどくゆっくりとした動作でスカーフに手をかけたに、今朝見た少女の姿がかぶる
耳のすぐ下で、短く切られた髪が揺れた
それがやけにはっきりと、氷室の目に映った

雨の入学式
また目をふせたを見て、氷室はいい様のない気持ちになった
不思議な少女
髪を切っただけで、こんなにも印象が変わるものか
名簿に笑って映っている顔と、うつむきがちにいるこの様子
小さく、ため息をこぼして氷室はから目を放した
雨の音が、少し開かれた窓から聞こえてくる
サアサアと、
それはまるで、彼女をとりまく空気のようで
氷室はもう一度だけ、ため息を吐いた
いい様のない、不思議な感覚に心が麻痺している
いつもの朝とはまるで違う、幻想的でさえある感覚
雨の少女は、氷室の脳裏に その横顔を焼きつけて消えない


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